二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

ファンタジーノベルの逸品  ~ドリトル先生シリーズの真骨頂

2022年11月26日 | ファンタジー・メルヘン
さきにも述べたように、これまでほとんど無関心であったファンタジーノベルに関心が出てきた。小学校時代はもちろん、中学生になっても、本を読む生徒にはほど遠い存在であったのだ。
70にもなって、なぜ児童文学なのか!?
本へのとびら――岩波少年文庫を語る (宮崎駿 岩波新書)
この本との出会いが、わたしを児童文学の世界へ導いた^ωヽ*
それは間違いないとおもえる。

もう一つは、敬愛する福岡ハカセが、「ドリトル先生航海記」を翻訳していること。何か月か前、新潮文庫で手に入れ、手許に愛蔵している。
「大人になっても愉しめる児童文学ってないかなあ」
この数週間、岩波少年文庫を中心に、あれこれ物色。そして、およそ20冊ばかりの児童文学を新たに買った。

井伏鱒二の翻訳が、多少古びてはいるけど、とても読み易いのである。ヒュー・ロフティングの原作が、元々は1920年代に書かれたものなので、これで十分まにあうのだ。
しかも、ペン画とおもわれる、素人臭い作者自身の挿絵がすばらしい♪
毒気を抜かれたお子様ランチみたいな角川版の挿絵など、とても味わうにたえない。

ヒュー・ロフティングは卓越したストーリーテラーである。ついついつぎはどうなる、どうなる・・・とページをめくってしまう。
ファンタジーノベルはストーリーテリングがいのちなのかもしれないなあ。子どもたちが「ねえ、つぎはどうなるの、どうなるの」とせがんでくれないと、ね(^^♪
上橋さんの諸作や、ハリーポッター・シリーズもきっとそうだろう。まあ、魔法使いは好きではないから、手は出さないとおもうけれど。



■「ドリトル先生月から帰る」ヒュー・ロフティング(井伏鱒二訳)岩波少年(1979年刊)

さて、いよいよドリトル先生シリーズの最深部に入ってきた。
月世界の物語など、現代人にとっては荒唐無稽もいいところ。しかし、読みはじめてみると、かなり感情移入できるのだ、これが。
でも、アフリカもの、サーカスものに比べてはどうしても見劣りしてしまう。
アフリカものの3篇と、サーカスものの3篇が秀逸だと、わたしは評価する。

先生よりさきに故郷・沼のほとりのバトルビーに帰されてきたスタビンズが語り手である。巨人オーソ・ブラッジに引き留められて、先生はその後1年も月に滞在することになった。その先生が大イナゴに乗って、ようやくご帰還。
ところが先生は何と背が5メートル57センチもある巨人になっていたからさあ大変。
そればかりでなく、後にスタビンズによってイティーと名づけられる猫をつれてきた。
この猫をめぐって、バトルビーの常連メインバーは大騒ぎ。
ほかの動物たちによって無視されても、イティーは一同の白眼視に耐えて飄々としている。

そして帰ってきた先生は、スタビンズが代診を買って出たにもかかわらず動物たちの診療が忙しすぎて、著作のための時間がとれず、二転三転したあげくマシューにすすめられ独房に入ることになる。このあたりはストーリーテリングの名手ロフティングも頭を悩ましたところだろう。
ドタバタ劇になる一歩手前で巧みに踏みとどまっている。
また、わたしの好きな、セント・ポール大聖堂の南側にあるエドマンド殉教王像に営巣する、ロンドンっ子のスズメのチープサイドの活躍が見逃せない。ロフティングの真骨頂、ここにあり♪

このあと体調をくずしたためか、作家としてもっと別なものが書きたかったためか、ドリトル先生シリーズは15年間の休止に入ってしまう。
アフリカシリーズ3作、サーカスシリーズ3作、月シリーズ3作。これらに、まったくの同工異曲といえるものは見当たらない。
多少退屈した場面がないではないが、わたし的には大満足、大きな拍手を送っておこう。
大人も愉しく読める児童文学として、ドリトル先生シリーズは不動の地位を確立したのだ。


評価:☆☆☆☆








■「ドリトル先生と秘密の湖」上巻下巻 岩波少年文庫(1979年刊)

《ドリトル先生シリーズの第10作で、作品内の時系列上では本作が最終作となる。話の流れとしては第3作『郵便局』で終盤に登場した巨大な陸亀ドロンコ(Mudface)が再び登場し、旧約聖書に記された大洪水にまつわる長大な体験談の全容が明らかにされる。》ウィキペディアより引用

岩波少年文庫では上巻244ページ、下巻280ページの大作。ところがこの大作が、あまりおもしろくなかった、少なくともわたしには。
下巻のほとんどのページを、ドロンコの昔話が占めている。ノアの大洪水を体験したという途轍もない高齢の大亀ドロンコ。

“郵便局”で登場したときは、「なんとまあ、おもしろいキャラを発明したなあ」と感心した。先生と同居するメインキャラ=ダブダブ、ガブガブ、ジップ、ポリネシア、チーチー、白ネズミ。彼らはそれぞれの物語を抱えて、このシリーズの中で生きている。
ドロンコにも、そういうお話を作ってやろう・・・という配慮が作者にはあったのだろう。

人間としては独裁者マシュツ王、園長ノア、若者エバーとガザなど、動物では大カラス、牝のトラ、ワグその他が登場する。長篇だし、ある意味総集編としての位置づけを持っているのかな・・・と予想したけど、肩すかし。
石井桃子さんは本作を評価しているようだけれど、わたしは賛成しかねる。架空の国家、あるいはその国家の崩壊を描こうとしたのかな(^^? ) フムム

深味のある物語にしようとして、かえって本作では浅瀬を渡っているのではないだろうか。ロフティングのエッセイ集でもあったら、創作の意図など聞いてみたい気がするが、その種の本は刊行されていないようだ。
「ドリトル先生月から帰る」がおしまいの一作で、こちらは“番外編”といえるかもね♪
期待が大きかっただけに、いささか残念。
さて・・・、
「ドリトル先生と緑のカナリア」
「ドリトル先生の楽しい家」
全12篇のうち、いよいよこの2作を残すのみとなった。


評価:☆☆☆






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