のしてんてんハッピーアート

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三、ユング司書(王立図書館)3

2014-10-22 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

 「違うのよ、王国の隠された歴史を調べているのよ。」

 「隠された歴史だって、」

 「そうなの、ユングさんなら何か知らないかと思って来たの。ねえ、王国の歴史にはどこか隠されたところがあるのかしら、そのことに関して昔からのいい伝えのようなものはありませんか。」

 「そんな話を誰から聞いたのかね。」

 「アモイ探偵団に依頼があったのよ。王家の眠らされた歴史に光をあてよって、」

 「誰がそんな依頼をして来たのだね。」

 「それが分からないんですけど、とにかく自分達で調べようって決めたんです。」

 「奇妙な話だが、」

 「何か知りませんか。」

 「この国の歴史にそんな事があるというのはどこかで聞いた気もするが、よく分からないな。エミーも知っているように、君の父さんも私も、もともとこの国の人間じゃない。若いころ船乗りをしていて、偶然この国にやって来たのだ。だから本当のところよくこの国のことは知らないのだよ。」

 「でも、長い間ここでお仕事しているのでしょう。何か知らないかと思って。昔のことを話してくれるお年寄りでもいいのです。誰かいませんか。」

 「それなら、四丁目のジルという雑貨屋をたずねるといい。あそこに住んでいるおばあさん、名前を何と言ったかいま思い出せないが、一度ここに来てもらって子供達に昔話をしてもらったことがある。そのおばあさんだったら、何か教えてくれるかもしれないね。」

 「四丁目のジルですね。」

 「確かそうだった。」

 「ありがとうございます。行ってみます。」

 「あの、すみません。」そう言ってダルカンが口をはさんだ。

 「何かな。」

 「僕達ここの本で調べたのですけど、セブ二世が王になったとき、古い文字を廃止して新しい文字を制定したと書いてあるのです。今の文字がその新しい文字だとすると、古い文字で書かれた本があると思うのですが、この図書館にそれはありませんか。」

 「あることはあるがね、とても読めるような代物ではないよ。」

 「でも、どんなものか一度見てみたいのです。」

 「古書は閉鎖書庫に入れられているんだ。そこには誰も勝手に入ることは出来ないんだ。無論貸し出しも出来ないよ。」

 「お願いすれば、見せてもらえるのですか。」

 「そんなことを言って来た人は、君達が初めてだからね、どうしてもというなら館長に伺ってみるが、私達だって用があるときだけ、館長から鍵を預かって書庫に入るんだから、許可が下りるかどうかは約束出来ないよ。」

 「お願いします。なんだかとても見てみたくなりました。」

 「私からもお願いします。」エミーが言った。

 「お願いします。」カルパコとエグマが同時に頭を下げた。

 「やれやれ、強引なのは、エミーだけじゃないようだな。ま、そういう探求心は分からないでもない。一度館長にお伺いしてみよう。」

 「ありがとうございます。」

  「来週、ここに来なさい。」

 「分かりました。」

 四人は司書室を出た。

 何か一歩前進したような気持で自然と足取りは軽かった。

 「それにしても、よく古文書のことに気がついたね、さすがダルカンね。」

 「まっ、こんなものよ。」

 エミーの言葉に、ダルカンは照れながら応えた。

 「他に気づいたことはないのか、ダルカン。」

 「いくつかある。」

 「どんなこと?私には分からなかったけど、」エグマが訊いた。

 「一つは、始祖セブ王が国を立ててから二世が王になるまでの間、三四〇年以上も空いているってこと。」

 「というと?」

 「つまり、始祖セブ王は、三四〇年以上も生きていたということさ。」

 「それはおかしいよ、人間がそんなに長く生きられるはずないよね。」

 「だから不自然なんだよ。」

 「三四〇歳なんて、お化けだぜ。」

 「それに、二世が即位したときなぜ文字を変える必要があったのか、国の文字を変えるなんてただ事じゃないよ。」

 「なるほどね。」

 「思うんだけど、古文書を読めばきっとそこにセブ王の噴水の事も書かれているんじゃないかな。」

 「きっと、そうよ。」

 「すると、国の文字を変えなければならなかった理由もセブ王の噴水から分かるかもしれないぞ。」

 「『眠らされた歴史を知りたければ、セブ王の噴水を調べよ』っていうのはこのことなのよ。」

 「やったね。」

 「でも、読めないわよ。」エグマが言った。

 「そうか、古文書よね。」

 「いや、図書館の書庫には、旧字体と新字体の辞書があるはずだ。それがなければ文字の移行は出来ないからね。」

 「そうね、ダルカン様さま。」

  「あれ、」エグマが不意に後ろを振り返った。

 「どうした、エグマ。」カルパコがつられて振り返り、後の二人も後ろを振り向いた。

 「やっぱり、誰か見ている。」

 「誰もいないぜ。」

 「気を回し過ぎているんだ、エグマは。」ダルカンが言った。

 「そうかな、」エグマはもう一度後ろを見た。そこには、出て来たばかりの王立図書館の正門が大きく開いているばかりだった。

 

 

         

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