縄文人(見習い)の糸魚川発!

ヒスイの故郷、糸魚川のヒスイ職人が、縄文・整体・自然農法をライフワークに情報発信!

物部彩花さん来訪(その2)・・・城之川源流を味わう

2020年08月15日 08時10分32秒 | ぬなかわヒスイ工房
長者ヶ原遺跡遺跡公園の東の谷底に流れるのは、天津神社横から糸魚川駅経由して、日本海に注ぐ城之川(じょうのかわ)の源流部。
長者ヶ原遺跡のホウバ
 
糸魚川には糸魚川という名の川がなく、市街中央を流れる城之川に、背びれに細い糸状のヒレがある「イトヨ」が生息していたからイトヨの川、イトイガワという地名になったとする説がある。
 
また縄文時代に日本海沿岸各地に運ばれたヒスイや蛇紋岩の石斧は、天津神社付近から丸木舟に載せられて日本海に出たと推測されているので、「海のヒスイロード」の出航地でもある。
物部さんは初めて石笛を吹いたそうだが、1時間くらいで吹きこなせるようになった・・・それにしてもお肌ツルツルですねぇ(笑)
 
源流部は、遺跡の谷から滲み出る湧水が集まって流れる、夏でも枯れることのない清流。
 
だから足を浸して冷たさを感じて、生きた水を飲んでを甘さを味わって欲しいからこそ、脱ぎ履きしやすいビーチサンダルをお勧めしておるのですよ。
源流部に足を浸した物部さんが、突如と「きゃああああ~!きゃああああ~!きゃああああああああ~!」と何度も叫んだ。
 
どうしたっ!と聞くと「ヤバ~イ、気持ち良すぎるぅ~」からだそうだが、人気のない谷で妙齢女性と二人きりで叫ばれたら、俺の立場はどうなるのだ( ´艸`)
 
感情表現が豊かな人を案内すると楽しい。
 
遺跡は観て歩くだけじゃなく、色んな楽しみ方があるのですよ。
 

物部彩花さん来訪

2020年08月14日 10時28分52秒 | ぬなかわヒスイ工房

顔だし厳禁の各方面の大御所の訪問が続いている最近のぬなかわヒスイ工房に、顔出しOKの音楽家が訪ねて来てきた。

ソウル歌手として活躍する物部彩花さんで、物部は芸名ではなく本名とのことで、人生初の物部氏との出会い!

石笛が欲しいと電話相談を受けた2日後に来てくれたのだけど、こういった素早い行動力のお客さんは、旺盛な好奇心をもつ現役バリバリに活躍している女性が多い。

商品サンプルを次々と身に付けてくれたが、写真を撮られ慣れているのでポージングが上手で、商品写真見本にさせてもらうことになった。
長者ヶ原遺跡、稚児ケ池で素晴らしいブルース声を披露してくれたが、いつもながら聴衆は私だけという得難い体験。
樹に成っているクルミを初めて見た驚きを表現してくれる物部さん。表情とボキャブラリーが豊かな女性でありました。
 
秋になると落果するので、かって糸魚川の人はリスに拾われる前に集め、郷土料理の「笹寿司」の具材に利用していたとか、大雨で川に流れ出て、私の子供の頃は海岸に漂着したクルミを石で割り、細い流木でホジホジして食っていたと説明すると、なんとワイルドな!とみなさん驚いてくれる。
卑弥呼など古代の女神に興味があるとのことで、出雲に追われたヌナカワ姫がお隠れになった伝説がある稚児ケ池で、朗々と祝詞奏上。
 
石笛を選ぶ時は、「この石笛は背骨に響いて腹に落ちて来る集約的な感じ」「フワ~と体の輪郭が消えて最後に纏まっていく感じ」と、私とまったく同じ身体感覚を共有していて、そうそう!と握手したりハグしたりw。
立体造形は「奥行きと密度」がないと二次元的表現でしかなく、予定調和的なモノ作りは品格がなく即興性が肝要とするのが私のヒスイ加工論だが、彼女の口からも「音楽に大事なのは奥行きと密度・・・」とまったく言葉が出てきて、なんでわかるの!とあなたナニモノ!?人の心が読めるの?と驚いた。
 
何を語っても物部さんほど話が通り、共感、共鳴できる人は滅多におらず、Knobさん、雲龍さん、牧野持侑さんなど凄い音楽家との交流の輪がまた広がった。
 
彼女も仲間を連れて、近いうちに再訪したいと言っていた。
 
縄文・ヒスイ・ヌナカワ姫のキーワードは、糸魚川と人をつなぐ天の鳥船、常世と現世を渡す橋。
 
みなさん、糸魚川にいらっしゃい!待っておりまするぞ!
 
 

ホウバ仮面参上!・・・長者ヶ原遺跡ガイドはこんな感じ

2020年08月12日 08時38分15秒 | 縄文
長者ヶ原遺跡を案内する時は、5,000年前の人々の暮らしが身近に感じられる工夫をしている。
 
例えば遺跡公園は縄文中期をイメージした植栽がされているので、クルミの樹の下に連れて行くと、8割くらいの人は樹に成っているクルミを観たことがないので驚かれる。
これなんだと思います?と聞くと、青梅?と首を傾げられることが多いものの正体は、クルミ!
ホウの樹では、でっかい葉っぱで弁当を包んだり、お皿に使ったり、蒸し焼き料理のアルミホイルやサランラップの代わりに使っていたかも!と説明し、「ホウ葉仮面」を作ると大受け(笑)
古代風首飾り「ぬなかわ彦」
 
縄文の面白さを、本やガラスケースの中で完結しているデキゴトとして理解されてはもったいない。
 
遺跡や遺物から、大昔の人の息遣いや体温を感じてもらえれば、過去は今に連続して自分に繋がっていると思えてくるはず。
古代風首飾り「ぬなかわ姫」
 
縄文時代の人は、お尻をどうやって拭いていた?お風呂は?歯は磨いていた?
 
疑問を感じる感受性と、不思議を自分で調べて考える習慣などなど、歴史教育の意味をこんなところに感じる。

 


不便を愉しむ・・・何もないけど豊かな筒石の海

2020年08月11日 08時53分45秒 | 糸魚川自慢

遺跡巡りで大汗をかいた来客が、泳ぎたいというので筒石海岸にご案内。

遠浅の砂浜で岩場がある、ウネリが入り難い地形、付近に大きな河がないから濁り難く水温が高い上に、人が全然いないので、泳ぎが苦手な人でも安心できる海岸。

海を怖がる人でも水深1~2mから広がる岩場の水中写真を見せると、覗いてみたくなるのが人情で、ポイントまで浮き輪につかまらせて案内、箱メガネで海底を見せればウニやサザエが棲む竜宮城が広がる。

割れた定置網の浮きを差し出されて怪訝な顔をする客人に、「ミッキーさんの冠です!」と頭にかぶってみせると、破顔一笑。

筒石は漂流物の多さや種類が糸魚川随一で、この日は「ミッキーさんの冠」の他、ロシア製のウオッカの瓶、面白い形の流木などのお宝が拾えて、海遊びを堪能してもらえたようだ。
 
想像力を働かせれば、ゴミでさえもお宝になる。
 
観光という視点だと、筒石海岸は駐車場からのアプローチが悪く、シャワー、トイレ、売店などもないただの海岸。
 
しかしインフラ完備の便利さと引き換えに、「どこにでもある普通の海水浴場」になってしまっては、わざわざ県外から遊びに来た人を案内する気にはならないのだ。
潮の流れや濁り具合によっては、ヒスイが拾える親不知の勝山付近の海岸もいいが、海を怖がる泳げない子供がいる場合は、「不便だけど、糸魚川ならでは」の筒石の海を愉しんでもらっている。
 

 


初心者でも吹き易く、上級者なら目からウロコの円弧カット石笛

2020年08月09日 08時07分32秒 | ぬなかわヒスイ工房

浅間縄文ミュージアム堤館長が、フェイスブックで4万年前のドイツの洞窟遺跡から出土した最古の骨笛の投稿をされていて、その歌口(息を吹き込む部分)が鋭いV字にカットされていることに注目した。(日本にも同様な形状の歌口を持つ笛はある)

青森の上尾駮遺跡から出土した、縄文石笛の息を吹き込む部分が緩い円弧状に成形されており、これは穿孔時に発生した壁面の荒れを研磨修正した痕跡と認識していたが、もしやと思い下唇を当てる部分を円弧状にカットした石笛を作ってみたら・・・。

吹き込む息がスムーズに流れて孔に入るためか、音の厚みが増して、倍音成分が非常に豊富、柔らかくて気持ちがいい音がするのだ。

吹いているだけで気持ちいいから、音程を変化させずにずっと長音を吹き続けたくなる。
 
これは初心者に多い、吹き孔に当てる下唇の位置が悪くて音が出にくい人でも吹き易い石笛ということだし、私が得意ではない古神道系の「横吹き」にしても、音が出やすいということを発見した。
「誰でも吹ける石笛」なるものをネットで求めた人が、せっかく買ったのに音がでないから直して欲しいという依頼をたびたび受けるのだが、なんの工夫もなく、孔をあけてあるだけだ。
 
そもそも自転車に乗れない人、泳げない人、口笛が吹けない人がいるように、どんなに工夫した石笛でも音が出ない人がいても当然で、「誰でも吹ける」は明らかに誇大広告。
 
また音がピューと鳴るだけの石笛なら孔を開けただけでもいいだろうが、プロの演奏家や本職の宗教家に評価してもらえて、注文を頂けるような石笛つくりは簡単ではない。
 
ディジュリドゥ演奏家のKnobさんの依頼で開発した、試験管状の吹き孔断面を持つ石笛と、円弧カットを組み合わせたりして遊んでいるが、課題は沢山ある。
 
興味のない人なら、それほどの発見でもないだろ?と思うかも知れないが、長年に渡って佳い音を追求し続けて紆余曲折した末に、やっと原点回帰的な石笛に辿り着いたのだ。
 
わからない奴は笑わば笑え。俺はものすごく嬉しい。
現時点で「円弧カット石笛」と呼んでいるが、ペンダント仕様や指孔を付けた石笛を独自開発した時と同様に、恥も外聞もなく真似する人々が出てくるだろう。
 
以前は私のデザインやアイデアを真似した石笛を目にするたびに、プロアマ問わず作り手としての誇りはないのか!と穏やかでなかったが、石笛が欲しくてネット検索していて、ぬなかわヒスイ工房の通販サイトに辿りつき、「他は真似ているだけで、ここがオリジナルだ!」と気付いたと教えてくれるお客様が少なくなく、粗製乱造のコピー石笛は、私の宣伝をしてくれているのだと思えるようになった。
 
だから高らかに宣言するので、読んだ方は証人になってくださ~い!( ´艸`)
 
「初心者でも吹きやすく、倍音の綺麗な円弧カット石笛を2020年8月に発明したのは、ぬなかわヒスイ工房です!」(笑)
 
 


 

水爆実験の衝撃が生んだ映画・・・ゴジラはアメリカ映画のパクリだった!

2020年08月08日 08時13分01秒 | 記録しておきたいヒト・モノ・本・映画
世界に衝撃が走ったビギニ環礁の水爆実験。
 
人類滅亡の危機を感じた映画人たちは、奮い立った。
黒澤明は、壮年期バリバリの37歳の三船敏郎を老人役に起用して、「生きものの記録」を撮った。
新藤兼人はビキニ近海で被曝した清水港のマグロ漁船を題材にセミドキュメンタリータッチの「第五福竜丸」
そして水爆実験の申し子の「ゴジラ」
 
ゴジラは戦前のアメリカのSF映画「キングコング」をモデルにしているとは聞いていたが、なんと粗筋そのものが同じくアメリカ映画「原子怪獣現る」と瓜二ついうことを知らなかった。
 
ゴジラはアメリカでも大ヒットして、現在も熱烈なファンがいるらしいが、著作権問題はどうなったのか?と余計な心配をしてしまう(笑)
 
この映画は、ゴジラ公開の前年に公開されたアメリカ映画で、北極圏の原爆実験により、1億年の眠りから覚めたリドザウルスがニューヨ-クに上陸して暴れ回る。
検索したらニコニコ動画で無料視聴でき、最初はバカにして観ていたのだけど、人形アニメと実写をコラージュした映像が大変に美しく、また実際に怖かった。
 
ゴジラのように人間が入って演技する着ぐるみは、それなりに動きはリアルだが、人形をコマ割り撮影していく人形アニメは、動きがぎこちない分、なんだか悪夢を観ているようで逆に怖いと思う。
 
その点はCGを駆使した「ジェラシック・パーク」は、速度感と画像解読が脳の処理能力に追いつかず、ビックリすることはあっても怖さの実感は人形アニメが一番深く、人間サイズといえるのではないだろうか。(個人の感想ですW)
 
特に唸ったのは、当時の近代兵器バズーカ砲(笑)が有効であるものの、飛び散った血しぶきから未知のウイルスが拡散して、兵隊たちが倒れていく演出。
 
この点は放射能を口から吹くゴジラより、リアル。
 
決戦はコニーアイランド・・・1発しかない秘密兵器の射手として指名される兵隊役が、若い頃のリー・ヴァン・クリーフさん!
 
サントリーオールドのCMに出ていた、怖そうな顔をした非情のガンマン役や殺し屋役が多かった俳優だが、無表情に淡々と怪獣に照準する狙撃兵の存在感が、名優の片鱗を漂わせています!
 
興味のある方、「原子怪獣現る」を検索してみてください。

人道的な兵器などありはしない・・・映画「ドローン・オブ・ウオー」

2020年08月06日 08時36分20秒 | 記録しておきたいヒト・モノ・本・映画

今日はヒロシマの日だが、近代戦は各国ともドローン兵器によるテロまがいの戦法にウエイトを置くようになっているようだ。

アメリカ映画「ドローン・オブ・ウオー」は、アフガンのタリバンを攻撃するドローン兵器のパイロットが主人公。

アフガン上空には、1万2千キロも離れたラスベガスの空軍基地から遠隔操作されているドローンが常時飛んでおり、「もはやドローンはアフガンの国鳥だ」というセリフ、新兵に「君たちの半分はゲームセンターでスカウトした」と訓示するセリフに戦慄を覚える。
 
ドローン操縦者は、サラリーマンのように自宅から基地に通勤して、昼間はアフガンの攻撃、夜は家族とバーベキューという生活を送っている。
 
攻撃対象は現地通報を元に特定したタリバンだが、最終確認は3千m上空から撮影する映像のみで、時にはターゲットの家族ごと、救援する人々、葬儀に参列した人々もタリバン一味として「排除」することもあり、報道で目にする「誤爆」の実態が淡々と映し出される。
 
炸裂する爆弾の音や阿鼻叫喚の声を聴くこともなく、コーヒーを飲みながらモニターに映った死体を数える戦果確認。
 
主人公は心の痛みに苦しむものの、上司や同僚たちは、やらなければ、こっちがやられるという論理を納得している。
 
この空軍基地の隊員たちは、ささやくような小声で話すことも不気味だ。
 
原爆は非人道的な大量破壊兵器というが、人道的な兵器があるなら見せて欲しい。
 
 
 

 


出雲と戦った鬼の伝説・・・悲劇のヌナカワ姫伝説

2020年08月03日 08時05分29秒 | ぬなかわ姫

ヌナカワ姫にまつわる鬼の伝説がある。

出雲が攻めて来た時、夜星武(エボシタケル)という鬼が抵抗した。
一度は出雲勢力を撃退した夜星武が喜んで踊った場所が、糸魚川市街から東に15キロくらいにある能生町の鬼舞(きぶ)という地名の由来。
正攻法では敵わぬと考えた八千鉾神が、たくさんいる妃の一人を夜星武に嫁がせる懐柔策に出て、次の戦いで勝利、夜星武が降参した場所が鬼伏(おにふし)の地名の由来。
 
戦国史によくでてくる、和議、そして骨抜きにして征服するパターンそのものだが、古事記の英雄譚にせよ、スサオノやヤマトタケルなどは強敵を騙し討ちで破っているので、歴史は卑怯者が勝つことになっているのですね( ´艸`)
鬼舞と鬼伏は国道8号線沿いに並んだ小さな漁村で、現在は鬼舞漁港の上に「両鬼橋」がかかっている。
 
夜星武の一族が住んでいた山が、能生町の「烏帽子岳・エボシダケ」で、山の名前はエボシタケルに由来するとの口碑があるが、「あんな高くて険しい山に人が住める訳がない」という人がいた。
 
しかし口碑とはそういったもので、出雲に追われてヌナカワ姫が糸魚川方面から逃げてきた際に鉾を納めた「鉾ケ岳」、ヌナカワ姫が生まれた「奴奈川姫の産所」、新婚時代の八千鉾神とヌナカワ姫が暮らした洞窟などなど、ヌナカワ姫伝説に登場する土地は、人が住めない峻険な環境ばかりなのは、後世の人が地元の深山幽谷や奇岩、洞窟に伝説をシンボライズさせ、また中世以降に両部神道や白山修験の影響なども受け、時代と共に変容していったからだろう。
 
地域ごとのヌナカワ姫伝説を並べると矛盾点や重複が多いのは、こんな理由からだと思う。
 
糸魚川市街地から西と信州にかけては、出雲との戦いと敗残の伝説、能生町から西の中越地方にかけては出雲から逃走する伝説が多く、八千鉾神とヌナカワ姫が仲睦まじく暮らした伝説は、上越市の海岸部のみ。
 
両鬼橋(鬼舞漁港)の西側が、上越方面の鬼舞、西は糸魚川方面の鬼伏なので、夜星武一族が上越方面から侵攻してきた出雲と戦い、そして破れた伝説と符合がいくのは偶然か?
 
そんな地域ごとの伝説のプロットに、考古学の出土状況を重ねて俯瞰すると、上越に橋頭保を築いた出雲勢力が、東から西にヌナカワ郷に侵入してきた形跡が読み取れる。
 
東日流外三郡誌がなんの検証もなく地域振興策に取り上げられ、後から大恥をかいた3つの自治体の轍を踏んではいけないし、文献史学だけに頼ると、思わぬ落とし穴があることを忘れてはいけないのだ。
 
 

 


トンデモ説は一時的なブームは来るけど・・・東日流外三郡誌偽書問題

2020年08月01日 08時57分51秒 | 記録しておきたいヒト・モノ・本・映画
遮光器土偶を「縄文のアラハバキ神ですね!」と熱く語る来客に、いちいち説明するのが面倒なので、工房に置いて「こんな本あるよ」と見せるために買った本が予想外に面白かった。
戦後に青森の旧家の屋根から発見され、古代東北に王朝があったと書かれた謎の古文書、東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)の偽造事件を20年近く取材した東奥日報の記者の記録だが、アラハバキ神は遮光器土偶だとする説は、東日流外三郡誌が出典先なのだ。
 
発見者の和田喜八郎は、20代の時に役行者の墓を発見したと称し、自ら偽造した古文書と古物などを売る商法に味をしめ、東日流外三郡誌偽造により、地域振興の話題つくりに意欲を燃やす東北各地の地方自治体に巧みに取り入り、一時は官民あげての観光客誘致活動に成功した。
 
ところが論文盗用問題に端を発する訴訟や、有識者から偽造疑惑の指摘が相次いで持ち上がり、真贋論争に発展していく。
 
なんと安安倍総理の両親の倍晋太郎夫妻までが、和田が創建した神社に安倍家のご先祖の遺骨が埋葬されているという和田の言葉を信じ、寄進までして、広告塔になっていた。
 
後に遺骨は鯨の骨と判明するのだが、いかがわしい人物の広告塔になるのは、安倍家の家風だったのだ(笑)
 
90年代くらいまでは、本屋にも東日流外三郡誌関連の本が並んでいたが、買う気もおこらないトンデモ説だったし、公表された東日流外三郡誌(写本)にせよ、障子紙に筆ペンで書かれ、尿に浸けることで古色を出しただけのお粗末な内容であったのに、行政やマスコミはなんの検証もなく和田の言説を鵜呑みにして情報を垂れ流し、拡散していった。
 
和田家の天井裏から「千点を超える古文書が発見され、祖父と父親が写本を書いた」という和田の言説にしろ、和田の家は戦後に建てられた家屋で、大量の古文書を隠すほどの広い天井裏はなく、発見当時には天井が張られていなかったし、祖父と父親は文盲であり、和田が古文書を偽造する姿を目撃していた親族の証言もあり、取材で偽造の実態が明らかにされていく。
 
現在は、東日流外三郡誌は偽書であることが定説になっているが、テレビや月刊「ムー」などのオカルト誌で盛んに紹介されていたため、オウム真理教が教義に取り込み、サブカルファンたちに浸透していった。
 
偽造事件が大掛かりになったのは、和田が詐欺の対象となる人物、団体の「あわよくば金が儲かる、有名になれる」という心の弱みを見抜く天才的な詐欺師であった他に、中世まで中央政権に反抗した記憶を持つ東北人の鬱屈が土壌としてあり、和田の古文書類がその自尊心をくすぐったのだと考察している。
 
90年代に入ると三内丸山遺跡が発掘され、トンデモ説がリアルな縄文お国自慢に取って代わられ、東日流外三郡誌ブームが収束していった。
 
この本には、戦前の「竹内文書」偽造事件と、それに由来する戸来村のキリストの墓が自治体によって捏造された経緯や、東北発信の旧石器捏造事件までを網羅して、推理小説より断然にスリリングで面白い。
 
和田も詐欺の金儲けではなく、小説あるいは堂々とトンデモ説として東日流外三郡誌を発表すれば、社会問題にまでならなかったのだ。
 
トンデモ説による観光客誘致策は一時的なブームは来るかも知れないが、詳しく検証するとなんにも出てこないのだから、最終的には自治体の民度が問われることになる。
 
この騒動、スケールこそ小さいものの、昨今の糸魚川の「ヌナカワ姫の古代のラブロマンス」をテーマにした、観光客誘致活動と同じ匂いを感じてしまうのは、私だけだろうか?