以前、小児歯科の病院に勤めていた時のこと、
あるお母さんが、虫歯で泣く子どもを連れて来院した。
もちろん診察室でも、大泣きして、暴れてなんとか逃げようとしています。
「昨日の夜は、ずっと痛くて泣いていて、痛み止めを飲ませても、効かないんです。」
「熱もあるみたいだし、腫れてるみたいだし。。。」
「なんとかしてもらえませんか?」「可哀想で、見てられない。。。」
お母さんは、切々と訴えます。
口の中を見ると、奥歯にはぽっかりと開いた大きな穴。
虫歯によって、歯の神経が侵されているんですね。
歯の中で腐りかけているので、腐敗したガスが歯の中でパンパンになってるんです。
歯は、歯を支える顎の骨の中に生えているので、ガスの逃げ道は、顎の骨側か、
虫を食ったところかどちらか。
だけど、まわりは固い組織ばかりだから、膨らむ余裕があまりないんですね。
だから、骨内の神経を圧迫して猛烈に痛む。
こんな時は、麻酔も効きにくくて、歯を触るだけでも痛い。
子どもが我慢できる訳もなくて、だからと言って、痛みを止めるために、
何日も痛み止めを飲んだり、抗生物質を飲んで、腫れが治まるのを待つ?
たぶん、3日間位は、苦しむでしょうね。
痛くても、虫歯の部分を少し削って、ガスの出口を作ってあげることで、
一瞬にして痛みは解消する。
子どもは泣き叫んで、暴れるので、スタッフがしっかり補定して削ります。
このお母さん、治療内容と治療時の補定の話を説明したところ、
「え~っ、痛いのに削らないとダメなんですか~?」
「かわいそ~~~」「その上、押さえつけるんですか~~~~~」
「ひど~ぉい!!」と、逆上。。。
それなら、このまま帰るの??それでいいの??って言われると、
「なんとかしてくださいっ!!」「歯医者さんなんだから!!」
「削らないとできないし、削るには暴れると危ないので抑えます」
「あぁ、どうしたらいいのぉ。。。」「かわいそう。。。」
って、いうか、既にまる1日子どもは泣いて痛がってるんだよ。
結局、「主人に相談してみます」って言って電話してたけど、
ご主人から治療してもらうように言われ、治療することに。。。
「パパが、治療してもらいなさいって!」だって。。。責任転嫁かよ。
子どもは、治療中は泣いて暴れてたけど、椅子から降りた途端に、ケロッとしてた。
優しく抱っこしてあげて、背中をポンポンとしてあげてると、寝ちゃった。
外で待っていたお母さんに、眠っている子どもを渡すと、安心した顔をしてた。
こういうケースって、極端な例?って思うでしょ、ところが、意外とあるんですよ。
最近では、犬のしつけを通して、同じようだなぁって思うことが、よくあります。
犬に優しくとか、犬の期待に応え無理強いしないとか、
ちょっとしたストレスに敏感になって、先が見えなくなってしまってる人が多い。
本当の優しさって何なのか?
上の例のお母さんは、普段から子どもの歯を磨いてあげることも、
子どもが嫌がるから、ご機嫌斜めになるからって、やらなかった。。。
叱ったりする負の感情を持つご自分にも耐えられなかったんでしょうね。
ご主人に電話をするというのも、自分で判断ができないから。
問題の所在を、自分から遠ざけて、他の人や物、環境のせいにする。
イマドキ、子どものほんの小さな虫歯だって見つけてくるのが普通なんですよ。
それが、泣いて痛がるほどの虫歯をほっておくなんて。。。
すべて、無理矢理は、「かわいそう」という思考が働いているんです。
虫歯が大きくなる方がもっと「かわいそう」だと思うのが普通ですよ。
このお母さんは、子どもがかわいそうと言いながら、ご自分が「かわいそう」
だったんでしょうね。
優しさって、自信を持って自分自身を認められないと、なかなか持てない。
優しさと弱さが一緒に語られるのは、そういった理由からなんですよね。
たかが、犬のしつけでも、そう言った自分の内面の弱さが過保護になりすぎたり、
恐る恐る接したり、ストレスを怖がったり、的確な判断を鈍らせたり
させるのかもしれませんね。
しつけ一つとっても、その人の内面が現れる。
私は、欧介と蒼太の今も大事だけど、少し先の未来に、より健やかに、
そして、より安定した暮らしを見据えることが、大事かなぁ。。。って思います。