4.1(火)
夜、スキーから帰宅して間もなく、一文の岡崎教務主任から電話が入る。「先行開始科目」の件である。話し合った結果、社会学演習Ⅰ・Ⅱ・Ⅲは当初、全体の授業開始の遅れと関係なく、14日(月)の週から開始する予定であったが、科目登録のために授業に出て来られない学生がいることが予想されるため、方針変更で、他の授業と足並みをそろえて21日(月)の週からの開始とすることに決める。こういう混乱した事態の中では、単純明快な対応の方が賢明であろう。さっそく専修の先生方にメールでこの件を連絡する。
4.2(水)
小学校時代のクラスメートであったMさんから「孝治くん、お元気ですか」で始まるメールが届き、びっくりする(私のことを「孝治くん」と呼ぶのは、私を小さい頃から知っている親戚のおばさんや近所のおばさんだけだ)。先週の土曜日から数日間、Mさんは東京に来る用事があって(Mさんはいま大阪の高校で英語の先生をしている)、小学校時代の友達と蒲田で会ったのだが、その際、私が早稲田大学で教師をしていることを知り、インターネットで検索して、私のホームページを見つけてくれたのだ。「4年間同じクラスだった色黒の女の子のことを覚えていますか?」とあったが、もちろん覚えている。色黒で、頭がよくて、美人の女の子だった。私の社交性の乏しさ故、あまり親しく話したことはなかったが、ひとつよく覚えているのは、林間学校へ向かうバスの中であったか、Mさんと私はバスに酔う体質ということで、揺れの少ない前の方の席に一緒に座らせられたのだが、私は途中でウトウトと居眠りをしてしまい、ずっとMさんの肩に頭をもたれていたことである(目覚めてからそのことを級友から教えられた)。これがもし、「やめてよ、重いわね」と邪険に言われたのなら、Mさんに対する印象もかなり違うものになっていたはずだが、幸いMさんは私を起こさずにおいてくれた。おそらくMさんはこんなことは忘れてしまっているだろうが、人に対する印象というのはちょっとしたことで決まるのである。それ故、私も、電車の中で隣の席の見知らぬ美しい女性がウトウトして私の肩にもたれてきたときは、そのままにしておいてあげることにしている。
4.3(木)
この4月から大学院の私のゼミのメンバーになるI君とAさんが研究室に履修科目の相談にやってくる。I君は人間科学部の出身で、私の大学院時代の先輩である池岡先生の教え子。ずいぶん陽に焼けた顔をしているので、私同様スキーから帰ったばかりなのかと思ったら、なんと南米から帰ったばかりとのこと。若いっていいです。一方、Aさんは文学部の社会学専修を5、6年前に卒業し、実社会でのさまざまな経験を経ての今回の入学。年齢規範の強いわれわれの社会にあって、勉強したくなったら、いつでも入学できる(もちろん試験に受からないと駄目だけど)大学院という場所はとても貴重だ。私は指導教員ということになっていますが、身元引受人みたいなもので、「ああしろ、こうしろ」の指導は行いません。2人とも、自分のやりたい勉強を好きなだけやって下さい。
4.9(水)
松井の満塁ホームランの映像で始まり、フセイン大統領の銅像が引き倒される映像で終わった一日。きわめてテレビ的な一日だった。
4.10(木)
夜、bk1から「発送完了」のメールが届く。予約しておいて村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が明後日には我が家に届く。楽しみだ。それで思い出した、『村上春樹全作品 1979-1989』全8巻を古本屋で買おうと思っていたことを。これが刊行され始めたのは1990年5月なのだが、当時、私は失業中で、とてもではないがすでに単行本で全部もっている本をあらためて全集版で揃える経済的余裕はなかった。他にもそうやって購入を断念した本がたくさんある。1990年という年は私の読書遍歴(正確には図書購入遍歴)の中での「失われた1年」なのである。光陰矢のごとし。あれから13年が経ち、いま『村上春樹全作品 1990-2000』全7巻が刊行中で、私はそれを購入している。こうなると第一期の作品集も揃えたくなるものである。「日本の古本屋」で検索すると、龍生書林(池上)と西秋書店(神田)の2軒から出品されている。前者は38,000円で後者は24,000円である。さっそく西秋書店に発注しようとして、「待てよ」と思った。8巻で24,000円ということは1巻3,000円ということであり、あまり安い買物ではないのではないか。念のためにbk1で調べたところ、『村上春樹全作品 1979-1989』は現在も流通中の本で、全巻の定価は25,400円であることがわかった。西秋書店の値段より1,400円高いが、西秋書店で購入すると送料に1000円程度取られるから、差はないも同然で、であればわざわざ古本で購入する理由はなくなる(そうなると龍生書林の38,000円という値段は一体どういうことなかひどく気になる。初版本ということか)。実は、昨日、早稲田大学生協の「インタネットサービス利用者」に登録したばかりなので、これを使って生協に注文すれば価格は1割引(22.86円)になる。ただし、bk1に注文するより取り寄せに時間がかかり(bk1では「24時間以内に発送可能」とあった)、しかも本の受取りは生協文学部店でなので、8冊の本は自分で家まで運ばねばならない。まあ、急ぐ必要はないし(もう全部読んでいるわけで)、重いものを運ぶのは運動にもなろう。
4.11(金)
誕生日。49歳になった。
4.13(日)
ホームページを新しいサーバーに移す。これに伴って自宅のパソコンからでもアップロードができるようになった。いままでは研究室のパソコンからでないとアップロードができなかったのだ(自宅のパソコンからでもできたのかもしれないが、どうもうまくftpの接続ができなかった)。そのためこの「フィールドノート」なども数日分、ときによっては1週間分を、大学へ出たときにまとめてアップロードしていたのだが、これからは毎日更新が可能になった(もちろん毎日書けば、の話ですけどね)。
4.14(月)
今週から、7月末まで、週に4日ないし5日の頻度で大学に出る生活が始まる。蒲田から東京までのJRの定期を購入(17,950円)。しかし、大手町から早稲田までの営団地下鉄の定期は購入しない。営団の定期(通勤)は割引率が悪く、週5日コンスタントに使うサラリーマンでトントンくらいなのである。具体的に言うと、大手町―早稲田の3ヶ月の定期代は19,940円であるが、大手町―早稲田の運賃は160円(往復で320円)であるから、週に4.5日(4日の週と5日の週が半々)で3ヶ月(13週)の運賃の合計は18,720円となり、なんと定期の方が高いのである。地下鉄はパスネットに限る。
日本育英会に在職証明を送る。2年に一度の手続きである。大学院の5年間(修士2年、博士3年)、育英会から毎月いただいていた(正しくは借りていた)奨学金が500万円ほどあるのだが、これは15年間(奨学金を受けた年数の3倍)、大学に勤務すると返済が免除されるのである。実は、この3月末でその15年が経過した(文学部の助手で3年、放送大学の教員で3年、文学部の教員で9年)。やっと年季が明けたというか、晴れてご赦免という気分である。
bk1からやっと『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が届く。メール便というのは遅くていけない。出版されたらすぐに読もうと、早くから予約しておいたのに、街の書店で山済みになっているのを横目にこの数日を過ごすことになった。しかし、ようやく届いたのはいいが、いま、私は原稿に追われていて、読む時間が取れないのである。読むとなれば、十分に時間をとって、一息に読まなくては読んだ気がしない。丸一日、時間が取れるのは、早くて次の日曜日である。それまでは、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を机の上に閉じたまま、ひたすら原稿を書かねばならない。ああ、これは一種の拷問ではないだろうか。