小学校の高学年になった頃から自転車に興味が湧き初め、毎月のように雑誌サイクルスポーツを買ってはどんな自転車にしようかとを眺めたり、
旅日記を読んで自分もいつか旅に出ることを夢見たりしていました。
新しい自転車は中学に入ってから、そう言われ何とかドロップハンドルにならないかとママチャリのハンドルをずらしたりして小学生を過ごしました。
中学一年生になって親の許しが出て買ったのが、丸石サイクルのエンペラーランドナーDXというランドナー車でした。
"ランドナー"というのは「日帰りから一、二泊程度の小旅行車」というジャンルの自転車で、タイヤが細くスピードが出るスポルティーフ(今のロードかな?)とは違って
タイヤはちょっと太めですが、そこそこスピードが出せて、キャリアとか付ければ荷物も積めて、それでもって車輪は工具無しで外せて、
フォークのステムベアリングはリテーナー付きなので外しても球がバラバラにならず、「輪行袋」って袋に入れれば電車に
だって乗せられて気軽に遠くの土地を旅ができる自転車で、当時結構人気のある車種でした。
ちなみに今の自転車乗りの子にランドナーって言ってもあまりピンとこないみたい。
それどころかヤフオクで当時の自転車を見たら「ビンテージ」とか「クラシック」と言われていて、なんか過去の存在みたいで悲しい。
本格的に長距離の旅をする自転車に"キャンピング車"がありました。
着替えの他にキャンプ道具をなんかも積めるように前後にキャリアが付いていて荷物も満載可能。
時に悪路も走らないといけないのでタイヤも太く、フレームの形状も少し違っていました。
憧れでしたが装備から値段も高く、私には遠く手の届かない別世界の自転車でした。
これも余談ですが今「自転車 キャンピング車」とググっても自動車のキャンピング車の背面に自転車を積んだやつしか検索に引っかかりません。ああ悲し。
高校生になってバイクに興味が湧き、大学生になってバイク旅に目覚め社会人になって北海道ツーリングに夢中になりました。
北海道ってバイク乗りなら誰しも行ってみたいところでしたが、そうは言ってもフェリーで片道二日かかる遠く離れた土地。社会人にとって
気軽に行ける場所ではなく、実際に北海道を旅するライダーはどこか吹っ切れた人か、行動力がある人ばかりでした。
昔感じたのが北海道を走るライダーはみな旅の主人公になれて、それぞれの旅の主役を演じているように私には映りました。
アクセルをひねるだけで好きなところに行けるバイク。どこを走っても素晴らしい北海道の土地。そこを縦横無尽に走るライダー達。
ライダーにとって北海道は最高の土地で、北海道を走るなら間違いなくバイクだと思いました。
そんなふうに思いながら何度も北海道を旅していたのですが、いつの頃からか本当に北海道を走るっていうのは、自分の足で走ることじゃないかと
思うようになりました。
そう思うといつか自分も自転車で北海道を走らないといけないんじゃと思うようになりました。
そうは言っても今は子供もいて旅と言えば車中泊。
子供を置いて一人そんな旅に出れるわけでもないですが、できないと分かっていても自転車で旅することを想像すると何か楽しい気持ちになったりします。
小さいころ旅を夢見て地図を見ていたあの頃と同じ感覚のように思えました。
歳食って、年齢的にも厳しくなる一方。
実現できない夢を見る歳でもないかもしれないですが、言っても残り少なくなった健康寿命。
面白おかしく生きることもこの先残された人生にとって大切なんじゃないかと思うようになったのも歳食ったせいでしょうか。
何かしたからと言って実現できるとは限らないですが、何もしなければ何も始まらない。
いつか自転車で旅が出来たら、そう思って少し前から"自分の中の自転車"を探してきました。
ネットを検索すると数は少ないですが70年代、80年代のランドナーやキャンピング車を愛する人がいることを知りました。
ほとんどがその時代にその自転車に乗って旅をされた人たちで、きれいに整備された自転車は尊敬に値するものばかりでした。
で、妄想の世界に戻り、自分はどんな自転車にするか、そんなことを考えました。
世間では今も自転車ブーム。
いつの頃からか自転車のことを"ロードバイク"とか言うようになって「バイクはオートバイだけやろ」と思いながら
剛性を上げるために小さくなったフレームを見ても「何かちゃうやろ」となじめず。
やっぱり気になるのは昔の"サイクリング車"。
ちなみに昔のサイクリング車のフレームを「ホリゾンタルフレーム」と呼ぶそうです。
初めて知ったわ。
トーエイやズノウ、ケルビムといった当時有名だったフレームビルダーが作った自転車やアルプス、ペガサスといった今も知った人なら欲しくなる
マニアが好む高級なランドナー車も見ましたが、いつしかそれよりも当時の自転車メーカーが作ったキャンピング車に惹かれていきました。
高級でなくていい、でも当時本格的に旅をするためにメーカーが作った自転車にしようと決めました。
色んなメーカーからキャンピング車は出ていましたがその当時から"これは"と思うのはブリヂストンと片倉でした。
色々調べていくうちにブリヂストンはダイヤモンド・キャンピングにアトランティス・キャンピング(後のトラベルゾーン・キャンピングは
新しめなので範ちゅう外)、片倉はシルクキャンピングがあって、この辺りの名前を聞いたら心がグッときました。
入手する方法としてはオークションしかなく、暇を見つけては眺めること幾星霜(いくせいそう)。
この手の自転車は地味にマニアがいて、それも世代が上なのでそれなりに資金も豊富。売りて市場なので開始価格も強気が多いです。
決断しきれず流れていく古き時代の自転車たち。
ある日、ブリヂストンのキャンピング車が出品されているのが目に留まりました。
予算は10万円と決め終了まで眺めることにしました。
そして落札から二日後、予算ギリギリで終わった自転車が届きました。
どんなふうに送られてくるかと思ったのですがPPバンドの角当てを見てもわかるように厳重にそして丁寧に梱包されていました。
送料が高くつく自転車の配送。今回ありがたかったのが送料無料だったことでした。
色んな表示が貼ってありました。
その中で一番気の利いた表示がコレでした。
出品者の意図は分かりませんがウイットに富んだ表示だと思いました。
開梱の方法も表示されていました。
「三箇所のテープを剥がし」とありましたが実際は幾重にもテープが貼られていて、ほどくのに時間がかかりました。
複雑に重なり合っていますが、それぞれに緩衝材が挟まれていました。
梱包するのも大変だっんじゃないかと思います。
やっとフレームが見えてきました。
フォークの先端やリアのハブの部分にはビニルパイプが詰められていて変形しないようにしてありました。
当時、あるメーカーの輪行袋には輸送時に変形しないようにと同様なサポートが入っていて、それを見て、なるほどと思ったものでしたが
それを今ここで見れるとは思っても見ませんでした。
分かった人しかできない処置だと思います。
"自転車キット"と書いてあるだけに本当にばらしてありました。
ここまで開封するのに20分かかりました。
ヘッドチューブとシートチューブに貼られてたロゴ。
擦れてしまっていますがでカッコいいだけにきれば復元したいところです。
特徴的な2枚肩のフォーククラウン。
キャリアはいろいろあるのですが、このU字パイプが有るか無いかで印象が随分違います。
そしてキャンピング車をキャンピング車と呼べる唯一の証がこのクロスしたフレーム形状。
「クロスドシートステイ」です。
この自転車の型式であるDC-545はダイヤモンドキャンピングの頭文字とフレームサイズ545mmからきているそうです。
時代と共にキャンピング車のニーズは減り、やがて消滅する運命をたどりました。
出品者さんと少しメールのやり取りをさせてもらったのですが、この自転車は1978年に高1の時にお年玉を貯めた貯金で新車を購入され
3年程乗られその後車庫に保存。2017年に乗ろうとしてタイヤを交換したそうです。
置き場もこまるので、ざっと仮組しただけで乗るにはまだこれから。
43年の月日でキャリアが随分錆てしまっていて、これを再メッキに出そうか。はたまた新たに作ろうか。
塗装も剥がすとロゴのシールも無くなってしまうので、どうしようか。
そんなことを考えながら眺めています。
中学生の頃に思い描いた旅への思い。
実際に旅に出れないかもしれませんが、当時の思いを胸にコツコツと楽しんで行こうかと思います。
新しいおもちゃの仲間入りです。
ではまた