先日,ヴェクスターがまた不調になったと書いた件の続きを書こうと思います.
当時の状況を改めて言うと,
会社帰り,ヘッドライトが暗くなってホーンの音もか細くしか鳴らなくなった.
以前,バッテリー端子が酸化して接触不良を起こした時の症状に似ていたため端子まわりをチェックしましたが
異常は見当たらない.
バッテリーの電圧を測ってみるとキーがOFFだと12V以上あるけどエンジンを掛かっていると(掛けるときではなく)
9V位までドロップする.
推測される不具合箇所はコネクター(カプラー)を含む配線(ワイヤーハーネス)の接触不良,エンジン内にある
ステーターコイルの断線かショート.
それにレギュレートレクチファイヤそのものの故障など.
いろいろと原因を考えながら,一番怪しそうでチェックもしやすいレギュレートレクチファイヤを見てみようと
フロントカバーを開けたところ,レギュレートレクチファイヤのカプラー(コネクター)の焼損を見つけたというのが
前回までのお話しでした.
ここからが本題.
何が悪いのか,故障箇所の特定と修理です.
先ずは焼損したカプラーをまじまじと見てみると,カプラーが溶けて穴があいていてジェネレーターから来ている
3本線が熱で硬化し,うち2本が切断していました.
レギュレートレクチファイヤ側には断線はなく,カプラーを外すとご覧の通りジェネレータ(ステーターコイル)側の方が
ひどい状態でした.
電気に強い人ならジェネレータ側に損傷が大きかった理由をすぐに思いつかれたと思います.
劣化(酸化)したカプラーが接触不良(抵抗になる)を起こしジュール熱によって発熱.その熱で更に酸化して
益々抵抗が大きくなり,やがて焼損につながったと思われます.
レギュレートレクチファイヤ側には電力が行かないので,当然のことながら損傷も少なかったというわけです(たぶん.きっと).
当たり前の事だと言われればそれまでですが,現物を見ると正に理屈通りだということに感心させられます.
故障の原因がカプラーの接触不良の問題だけだったと願いつつ,他に異常が無いかをチェックしていく事にしました.
サービスマニュアルの充電装置の概略図です.
左側のフライホイールマグネトと書かれているのがジェネレータ(発電機)で,“逆Yの字”(スター結線)をしたのが
ステーターコイルになります.
そこから3本のケーブルでレギュレートレクチファイヤにつながっています.
ステーターコイルはコイル状に電線が巻かれているだけなので3本の線がそれぞれ導通があれば断線はしていない事になります.
切れたケーブルにテスターのリード棒を当ててコイルの導通を含めて測定してみましたが,ずれも0.02~0.05Ω程度の
抵抗値でテスターのリード線同士を接触させたときと同じような値なので数値上は普通に導通しているようでした.
ここでもし導通が無ければステーターコイルの断線の可能性が高くなるのですが,もし交換となった場合,エンジンを開けて
クランクからローターを抜く必要があり,一気に面倒くさいことになります.
幸い3本とも導通があったのでひとまず安心しました.
とはいえ焼けて短絡などしている可能性はまだ残っているので今度はジェネレーターの発生電圧を直接測ってみる事にしました.
エンジンから出ている3本の線がジェネレーターからの電線になります.
三相交流発電機なので出力電圧も交流になるためテスターもACモードで測定します.
各相で20数Vが出ていました.
マニュアルには発生電圧など書かれていなかったので正しく合否判定は出来ませんが,似たような電圧だったので恐らく
大丈夫だろうと判断しました.
次にレギュレートレクチファイヤの点検です.
先ずは溶けて破損したカプラーの修理からです.
圧着端子は信頼性をあげるために圧着してから半田付けしますが,絶縁被覆をかしめて半田付けすると熱で被覆が溶けて
かしめが甘くなってしまうため,電線だけかしめて半田付けを行い最後に被覆をかしめるようにしています.
レギュレートレクチファイヤのチェック方法はテスターで抵抗値を測るというのもです.
マニュアルに書かれている“ON”の意味が分からず,かなり困りました.
マニュアルの数値はあくまで純正指定のテスターを使っての値なので,テスターの指定レンジを“×1Ω”に合わせても
そのように測れず,前述の“充電装置の概略図”に載っていたレギュレートレクチファイヤの回路図を見て,
ダイオードの測定モードを使い,予備に持っていたレギュレートレクチファイヤ2個との相対比較で判断することにしました.
3個とも壊れていて似たような値になった可能性もありますが,いずれも有意な差が無かったという事から壊れていないと
判断しました.
ステーターコイルの断線もなさそうなのとレギュレートレクチファイヤも大丈夫そうなのでワイヤーハーネスを
修復する事にしました.
先ずは改めて両端の導通を測ってみました.
熱で硬化した部分を切除して電線を継ぎ足すためにはワイヤーハーネスを引っ張り出す必要があります.
カバーの中を通しているスクーターはこういったときに不便です.
時間はこのとき既に夜の11時.
疲れてきました.
ハンドルを切った際に擦れる部分にカバーが巻かれていたのでここでジョイントすることは避けて,もう少し先でつなぐことにしました.
電線同士をつなぐ際に信頼性を上げるため“スプライス”という圧着端子を使いますが,あいにく手持ちに無かったので
他の圧着端子の一部を使って代用しました.(一番下がそれ)
同じ位置で3本継いでしまうと嵩張ってしまうのと,万が一被覆が破れたときにショートしてしまうので,
少しずつ位置を変えてつなぎます.
電線同士をねじって“疑似スプライス”でかしめています.
そのあと半田付け.
絶縁処理はシリコンガラスチューブ(白色)を通してから熱収縮チューブ(黒色)を被せ二重にしています.
出来上がり.
(ケーブルはノーマルが直径1.0mmだったためAVS1.25mmを電線を使用)
エンジンを掛けて電圧を測ったところ14V以上出ていました.
以前,発電量が少ない気がすると書いた事がありますが,そのときは13V程度しか出ておらず,それと比較しても
適正値に戻ったように思えます.
焼損したカプラーの残骸.
いろいろあるお年頃.
結局この日,組み上がったのは空が白み始めた朝6時前.
なんとか出勤には間に合いました.
ふ~
後記
その後3週間ほど経ちますが,快調に走ってくれています.
ということで不具合箇所はカプラーの端子部の接触不良ということになります.
劣化して導通不良がもたらした不具合.
コメントにも原因を推測した書き込みを頂きましたがキャブレターのダイヤフラムを交換しエンジンの吹け上がりもよくなって,
それに伴い発電量も上がって,接触不良だった所に一気に負担が掛かり発生したものだと思います.
古い機械モノにありがちなトラブルでした.
手持ちに無かったスプライスですが次のために購入しておきました.
(フジックス PT141)
ではまた.