冬季に山形県の蔵王温泉を訪れる日本人の多くはスキー場がお目当てでしょうが、学生時代以来ウインタースポーツと縁遠くなってしまった私は、ただ単に温泉巡りをするためだけに毎冬蔵王へ足を運んでいます。もちろん今冬も蔵王温泉へ向かいましたが、今回は老舗旅館のひとつ「吉田屋旅館」さんでゆっくり宿泊することとしました。
帳場では若女将がとても丁寧に対応してくださいました。蔵王の温泉旅館らしく、複雑に曲がり角と階層が入り組んだ廊下を進んだ突き当りが今回あてがわれたお部屋です。方向感覚には自信のある私ですが、こちらの館内通路は迷路のように複雑で、外出時や内湯からの帰りの際など、何度か迷ってしまいました。
窓からは温泉街が望める明るく綺麗で広いお部屋でした。こんな広い部屋を独りで使うなんて贅沢だこと。さらに嬉しいことに、部屋では無料でWiFiが使えました。
花より団子、まずお食事から。夕食朝食とも食堂でいただきます。一番安くてオーソドックスな料金プランでお願いしたところ、こんな感じの献立となりました。器ひとつひとつをまとめずに撮ったため、ビジュアル的にスカスカな感を受けてしまうかと思いますが、見た目以上にしっかりといただけましたよ。内容としては、山形牛の陶板焼き、芋煮、お蕎麦など。芋煮が箆棒に美味かったなぁ。なお夕食のスタート時間はチェックイン時にこちらの希望時刻を伝えるスタイルでした。
こちらは朝食。焼鮭、ひじき、温泉卵など、いかにも日本の温泉旅館らしい献立です。
お風呂へと向かいましょう。お風呂は館内「迷路」の階段を下りきった下層階にあり、男女別の内湯が一室ずつ。もし宿泊中に露天風呂を希望ならば、吉田屋の姉妹施設である「ホテルオークヒル」のお風呂も利用が可能とのことでしたが、実際に「オークヒル」へ行ってみると偶々その日はグループのスキー客で混雑していたので、今回は内湯のみにしました。なお「オークヒル」以外にも、帳場で共同浴場の入浴券ももらえますので、温泉街をそぞろ歩きしながら温泉をハシゴするのも一興かと思います。
男湯は「多賀由乃湯」と名付けられていますが、これは日本武尊の東征に付き従った吉備多賀由のことでして、吉備多賀由が蔵王温泉(高湯温泉)を発見したとされる開湯縁起が当地で伝承されているんだそうです。
一見するとごく普通の脱衣室ですが、棚が市松模様のような作りになっているのが面白いところです。棚の向こう側は女湯ですから、この市松模様の凸凹は男湯側と女湯側で棚が互い違いになっていることを意味しているわけですが、限られた空間を有効に活かすアイディアですね。
浴室に入ると、すぐに硫化水素臭がツンと鼻孔を刺激します。単に硫化水素のみならず、樟脳などの防虫剤に似たような匂いが混じっているのが特徴的。もちろん温泉由来の匂いです。浴室構造は浴槽ひとつに洗い場が付帯する一般的なものですが、その浴槽は部屋の横幅いっぱいに広がっており、思いのほかノビノビと湯あみできました。
水栓は硫化して真っ黒に。硫黄の濃い温泉ならではの光景ですね。なお設置数は4~5基だったように記憶しています(明確な数は失念)。
木の桝のような湯口は硫黄でガッチリと真っ白くコーティングされています。浴室の壁や床はタイル貼りですが、浴槽だけは木製(おそらくヒバ)で、これが耐酸性という実用的な側面のみならず伝統的な温泉風情も醸し出しており、実際に湯船に体を沈めた時の肌への感触からも木材ならではの優しさが伝わってきます。
底にはほんのりレモンイエローを帯びた白い粉状の湯の華が沢山沈殿していました。私はてっきり底に硫黄の成分が固着しているのかとばかり思っていましたが、ちょっとお湯に流れが生まれるだけで底の沈殿はブワっと舞いあがり、それと同時に今まで真っ白だった底は忽ち木板の地肌を露わにしはじめました。湯の花が対流するとともに無色透明に近かったお湯は青白く濁り出し、放置しているとやがて湯の華が沈み始めて再び透明度を増してゆきます。口腔がキュっと収斂するのを覚悟の上でおそるおそるお湯を口にしてみると、強い酸味と明礬味に柑橘類果汁のような味が感じられました。
この不鮮明な画像でもわかるほど、浴槽の縁からザブザブと惜しげも無くお湯がオーバーフローし、絶え間なく洗い場の床を洗い流しています。湯船に浸かりながらこの様子を眺めているだけでも十分恍惚にひたれました。なお当然ながら完全掛け流しの湯使いで、ちょっと熱めの湯加減ですから、私のような熱い湯が好きな人でしたらそのままで入浴できますが、そうでなければ水道ホースでしっかり薄めた方がよいかと思います。
館内にはハングル表記による案内も随所に見られましたが、若旦那曰くこちらのお宿は韓国のお客さんが多いんだそうです。しかしながら震災以降はその足もパッタリと止んでしまったとか。いまや日本の観光産業は外国人重要に恃むところが大きいですから、また再びこのお宿で掲示されている外国語表記の数々が活躍することを祈るばかりです。お部屋は綺麗、お湯の掛け流し量は半端じゃない、スタッフの方も親切、ロケーションも抜群…。
そういえば玄関には秋篠宮妃紀子様が学習院女子中高等科時代にこちらのお宿を利用した時の写真が飾られていました。学習院の女子部って年間行事で蔵王へ通ってたんですか。知らなかったなぁ。ちなみに私が通学していた頃(約20年前)の学習院高等科(男子部)は北海道のニセコでスキー教室を開催していました。男女間の交流や共通項が全くない精神的に不健康な構造を有するのが我が母校の特徴であります。
近江屋3号源泉
酸性・含鉄・硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉 51.9℃ pH1.65 湧出量不明(自然湧出) 溶存物質3802mg/kg 成分総計4364mg/kg
H+:22.5mg(40.37mval%), Al+++:178.2mg(35.84mval%), Fe++:21.8mg(1.41mval%),
Cl-:422.7mg(21.58mval%), HSO4-:1117mg(20.84mval%), SO4--:1481mg(55.84mval%),
H2SiO3:229.1mg, 遊離H2SO4:63.2mg, 遊離CO2:547.6mg, 遊離H2S:14.1mg,
山形駅より蔵王温泉行バスで終点下車、徒歩5分程度
山形県山形市蔵王温泉13
023-694-9223
ホームページ
立ち寄り入浴10:00~21:00
400円(湯めぐりこけし利用可能)
貴重品帳場預かり、シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★