博多の中心部から直線距離で僅か数キロしか離れていないにもかかわらず、興奮しちゃうぐらいドバドバ溢れる源泉のお風呂に入れちゃう素晴らしい温泉が、福岡市南区の住宅地の真ん中にあると聞き、所用で福岡へ行った某日、笹原駅から歩いて行ってみることにしました。昭和40~50年代辺りに開発されたのではないかと思しきやや古い住宅街の中に伸びる、あぜ道を舗装したような細いウネウネの路地を歩いてゆくと、やがて「元湯」と赤い字で書かれた看板を発見。予めこの辺りに存在していると知っているとはいえ、およそ温泉とは縁遠い街並みに突如として現れる「温泉」の二文字に意表を突かれる思いをしました。
付近には温泉湧出を記念して「泉源 博多温泉」と彫られた石碑が立っていました。この温泉は昭和41年に井戸を掘削していた際、偶然発見されたそうですが、当事者ですら「まさかこんなところで温泉が湧くとは」という驚きでいっぱいだったに違いありません。
(右(下)の画像はクリックで拡大)
ごく普通の一般民家のような建物。本当にここで大丈夫なの? 勝手に入って良いの? 不安を抱きつつ、「追い返されたって仕方ねぇや」と杓文字を片手に民家へ突撃する桂米助のような心境で敷地へ踏み入ります。門から玄関へのアプローチの途中にはお地蔵さんが立っており、その上には温泉に関する説明の看板が立てられていました。ちょっと要約してみますと、昭和41年正月に地蔵様のたもとに井戸を掘ったら49度の暑いお湯が滾々と湧き出した、これは地蔵様が病苦の人を癒し老人に長寿を与え人々にお湯の楽しみをお恵みになったものだ、昭和43年にここを奥博多温泉郷と命名し、NETテレビ木島則夫モーニングショーや朝日新聞その他で紹介され、昭和44年10月25日元湯が開店となった…とのこと。NETテレビ(現在のテレ朝)や木島則夫モーニングショーという文言につい関心が向いちゃいますが、こちらは開湯してまだ50年も経っていない比較的新しい温泉なのですね。
さて玄関へとやってきました。一応戸の上には扁額が掲げられていますが、本当にお邪魔して良いのか不安になる佇まいです。しかしその一方で↑画像の左側に写っている青い波板の向こう側からは、温泉マニアの心を揺さぶる「ボコッボコッ」という勢いのよい音が聞こえてくるではありませんか。その音に背中を押されながら玄関の戸に手を掛けます。
曇りガラスの引き戸を開けると、数十年の昔へタイムスリップしたかのようなこじんまりとした帳場が目の前に現れました。「ごめんください」と声をかけると帳場の奥から御年80のおばあちゃんがやってきて、笑顔で「お風呂はあっちね、ごゆっくり」と対応してくれました。
浴室は帳場から振り返ってすぐのところにありました。脱衣所は半畳もあるかどうか怪しいほど狭く、一人が占有したらそれだけで精いっぱいです。室内にも棚しかありません。浴室との間に仕切りの戸は無く、実質的には田舎の古い共同浴場のように脱衣所と浴室が一体化しています。
青いアクリル波板で囲まれた質素な浴室は、鰻店の養殖池を彷彿とする独特の佇まい。こちらもなかなかコンパクトな空間となっており、浴槽も洗い場も、それぞれ2人同時利用でいっぱいになってしまう大きさです。カランは水道の蛇口のみ。タイルの代わりに石を埋め込んでいるモルタルの床、天井や壁などに多用されている青いアクリル波板など、手作り感溢れる造りにただならぬものを感じ、それだけでも十分に興奮できるのですが…
何よりもすごいのが、太い塩ビのパイプからドバドバと轟音を響かせて吐き出される源泉であります。表の玄関付近で室内から聞こえてきたゴボゴボという大音響の発生源はこれだったんですね。福岡の天神から10kmも離れていない街中とは思えない、驚異的な光景に、私は大興奮して失禁寸前の状態に陥りました。源泉の「噴出」はおばあちゃんが操作するポンプのON/OFFによって行われ、けたたましいポンプの作動音とともに温泉が吐出されます。ポンプはON/OFFが繰り返され、ポンプが止まって数分もするとお湯の吐出も弱まり、それと同時に今度は太い湯口の隣にある細いVP管から口径サイズに見合ったお湯がチョロチョロと出てきます。私が入浴中は、太い管からのドバドバ吐出と細い管からのチョロチョロ投入が3回ほど繰り返されました。大量な投入量のみならず、完全掛け流しという湯使いにも驚かされます。源泉の投入量に強弱をつけているのは、投入量によって湯加減を調整するためであり、加温はおろか加水すらも行っていないのであります。循環消毒も一切無し。
お湯は無色透明(ほぼ澄明)、地下に陸封された海水性の温泉らしく、湯口にかけられているコップで飲泉してみると、塩味に少々ニガリの味が混ざった味、そしてほんのりとタマゴ的な味と匂いが感じられました。それほどしょっぱいわけではなく、コップ一杯ぐらいなら飲めちゃう感じです。
約49℃の源泉が加水されないまま投入されているので、湯加減はやや熱め。しかも塩分をしっかり含むお湯ですから、お湯への入りしなは肌にピリピリ感が走り、湯上りも強烈に火照って汗がなかなか止まりませんでした。都会の住宅地なのに、渋く鄙びた佇まいの建物の中で、こんな濃いお湯に完全掛け流しの状態で楽しめるだなんて、本当に夢のようです。
湯上りにおばあちゃんは、「昔は朝から店を開けていたが諸々の都合で午後からの営業にした」「昔は旅館営業していたが今は泊まりの客をとっていない」「夜行バスに乗って一人で東京や神戸からやってくる熱烈なファンがいる」などなどいろんなお話を聞かせてくれました。そして「うちの温泉は天下一品で全然沸かしてない」と、誇り高く語ることも忘れませんでした。
その自慢げな面持ちを目にした瞬間、私が実感した素晴らしさとおばあちゃんが語った誇りが見事に一致していることに気づき、まるで我が事のように嬉しくなってしまったのは、私が興奮のあまりに舞い上がりすぎているだけなのでしょうか。
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 48.8℃ pH7.6 120L/min(動力揚湯・50m) 溶存物質4.82g/kg 成分総計4.82g/kg
Na+:1107.9mg(56.32mval%), Ca++:719.6mg(41.97mval%),
Cl-:2664.9mg(94.16mval%),
JR鹿児島本線・笹原駅より徒歩20分(1.7km)、西鉄井尻駅より徒歩15分(1.1km)、西鉄バス「横手四丁目」(49番・天神方面~西鉄大橋駅~博多南駅)もしくは「横手小学校前」(700番・西鉄大橋駅~福大病院(福大前駅))より約250m
福岡県福岡市南区横手3-6-18 地図
092-591-6713
13:00~17:00 毎週木曜定休
入館時間により料金が異なる
13:00から:500円
15:00から:400円
16:00以降:350円
備品類なし15:00から:400円
16:00以降:350円
私の好み:★★★