ウルジャス温泉の鄙びたお風呂に大満足した後、幹線道路D240を更に西進して、この日の宿泊予定地であるシマーヴ市のエイナル温泉へ向かいました。路傍ではロバや馬がのんびり草を食んでいましたので、車を駐めて休憩がてら、彼らにご挨拶。
背中に大きな布を被せられている馬は、気まぐれで立ち止まった旅人なんて殆ど気にせず、こちらを一瞥しただけで草を食むことに没頭していたのですが、ロバは咀嚼を止め、興味津々の様子でゆっくりこちらへやってきて、モフモフに毛が生えた耳とつぶらな瞳を近づけてきました。人懐っこくてかわいいなぁ。何故か言い知れぬ親近感を覚えます。人間は大人の階段を上がってゆくほど他者と心理的な障壁を高くしようとするものですが、この奇蹄目の家畜たちを人間にたとえるならば、この馬は自分の世界を確立して人付き合いが面倒になりはじめた壮年期、一方ロバはまだ無邪気で他者への関心が盛んな少年期といったところ。きっとそんなロバの発達段階が、いつまで経っても成長できない私の精神年齢と共鳴し合ったのかもしれません。
途中で休憩や給油などを挟みつつ、ウルジャス温泉から40分ほどでシマーヴ市内に入りました。寄り道せずに走れば30分もかからなかったかも。低くて地味な建物ばかりの、典型的な田舎町ですが、沿道には大きな店舗も並んでおり、それなりに街としての体をなしていました。市街の中央付近にあるロータリーで"Kaplicalar(温泉)"の標識に従い右折し、D595号を北上します。
市街を離れて再び郊外へ出ると、まるで数十年前にタイムスリップしたかのような、実に長閑な村の風景となり、日本だったら昭和50年代に廃車されちゃっているようなポンコツ車と多くすれ違いました。新車を購入しやすい日本と異なり、この国で自動車を購入するには一財産を抛つような大変な出費となるそうですから、古い車をいつまでも大切に乗り続けているんですね。
シマーヴ市街から4~5kmで、この日の最終目的地であるエイナル温泉の中心部に到着です。
今回のトルコ旅行では、宿泊した多くの宿を事前にネットで予約していたのですが、レンタカーで移動した3泊4日のうち、1泊目の「ヨンジャル・テルマル・オテル」のみ大手宿泊予約サイトで事前に予約し、2泊目と3泊目は予約せず現地で直接決めることにしました。車がありますから、もし希望するところがダメでも他へ気軽に移動できますし、最悪は車で夜を越すことも可能ですからね。
レンタカー移動の2泊目に当たるこのエイナル温泉では予約をしていませんので、まずはお部屋の交渉をしなければなりません。当地の宿泊施設はすべて公営となっているらしく、温泉街の中央にあるレセプションで総合的に受け付けているそうですから、まずは車を駐めてそのレセプションへと向かいました。受付では2人の美人なお姉さんが対応していましたが、2人とも英語が殆ど話せない様子。こんなこともあろうかと、書店で購入しておいた『旅の指さし会話帳18 トルコ』を準備しておくとともに、トルコ語で「空室ありますか?」「今日、1泊、1部屋」という文章をどのように表現するのか、予めネットで調べておいて自分のメモ帳に書き写しておき、それらを用いて意思を伝達したところ(※)、お姉さんたちはたちどころに事情を理解してくれました。私の経験則ですが、自分のわからない言語を下手に口頭で伝えようとせず、文字でコミュニケーションをとった方が、お互いにとってはるかに解りやすくて合理的です。
(※)「空室ありますか?」「今日、1泊、1部屋」を翻訳ソフトで訳したところ "Boş odanız var mı?" "Bugün, Bir gece, Bir oda"と表示されました。文法的に誤っているかもしれませんが、この文をそのまま受付スタッフに見せたところ、すんなりと通じましたので、もしトルコのホテルで英語が通じない場合は、この文章を使ってみてください。
エイナル温泉は、大きなホテル棟がドーンと聳えているわけではなく、貸し部屋のアパートが何棟も建ち並んでおり、湯治場のような色合いが強い温泉地です。実際に私が案内された部屋も、2階建ての長屋にある1階の一室でした。
なおアパート前の道路は幅に余裕があるので、車は路駐でOKです。
ネットで予めどんなところか調べていたので、おおよその見当はついていたのですが、とは言え実際に客室へ通された時には「こんな立派な部屋に泊まれるのか」と衝撃を受けました。
温泉で宿泊する際、どんな部屋を思い浮かべますか。日本の旅館でしたら広縁付きの和室でしょうし、ホテルだったらツインやダブルの洋室でしょうけど、いずれにせよスイートルームで無い限り、滞在と就寝を一室で併用し、バストイレなどが付帯するのが一般的です。しかしこのエイナル温泉は長期滞在を前提にしているのか、ホテルの客室というより、まさにアパートの一室そのものであり、それこそすぐにでもここに住居を構えられそうな造りをしているのです。具体的にお部屋を見て行きましょう。間取りは2DKで、部屋に入ってすぐの左手にキッチンがあり、シンクやコンロと並んで大型の冷蔵庫も設置されています。
キッチンに隣接する道路側は、テレビのあるリビングルーム(左(上)画像)。ありがたいことに室内にはWifiが飛んでます(Passはレセプションで確認)。リビングルームの反対側はベッドルーム。バスタオル類もちゃんと備え付けられており、クローゼットも多いので収納面も問題なし(って、別に住むわけじゃないんですけどね)。晩秋という季節柄、朝晩はかなり冷え込んだのですが、各部屋には熱い温泉を引いているヒーターが設置されており、Tシャツ1枚で過ごせるほど室内はポカポカで、むしろ暑くて窓を開けたほどでした。
エイナル温泉は温泉資源が豊富なところですから、お風呂にはれっきとした温泉が引かれています。浴室はファミリーで一緒に入れそうな大きさです。
洗い場にはハマムのような大理石の鉢が備え付けられており、スツールや桶も用意されています。大きな浴槽は2人同時に入れそうなキャパを有しています。洗い場も浴槽も、水栓を開けて出てくるお湯は温泉であり、ハンドルを回せばすぐに、60℃はありそうなアツアツのお湯が吐出されました。開けてもしばらく出しっ放しにしないとお湯が暑くならない一般的なホテルのボイラーとは訳が違いますね。でも水栓のハンドルが金属製であるため、お湯を出しっ放しにしていると、ハンドルまで熱くなって触れなくなってしまうのはご愛嬌。またお湯だけを湯船に張ると、熱すぎて入浴できませんから、程度な加水も必要です。
トルコの公衆浴場は水着が必須ですから、誰にも気兼ねせずにスッポンポンで湯浴みできる内風呂の存在は実にありがたく、しかもこのお風呂はサイズにゆとりがありますから、冷えた缶ビールを飲みながら四肢を伸ばして湯に浸かれたときの喜びはひとしおでした。
ちなみに洗面台やトイレはキッチンとバスルームの間に別個設けられています。ホテルの客室はえてしてバストイレ一体型ですから、両者がセパレートされていると、それだけでも優雅な気分を味わえます。エイナル温泉の客室にはいくつかのグレードがあり、私が今回利用したお部屋は真ん中のグレードでしたが、これだけ充実している2DKが1泊から利用できて、しかも一泊素泊まりで75リラ(3500円強)ですから、日本で宿に泊まるのがバカバカしくなっちゃいます。なおタオルやドライヤーは部屋に用意されていますが、石鹸などのアメニティ類はありませんので要持参です。
次回記事ではお部屋から出て、エイナル温泉を散策します。
エイナル温泉ホームページ
私の好み:★★★