登山道を4~5時間歩かないと到達できない標高2100mの秘湯「白馬鑓温泉」に行ってきました。私は登山口の猿倉から行かず、別の登山口から遠回りして白馬岳など白馬三山を縦走してからこの温泉へと向かいましたが、その縦走に関してはまた別記をご参照いただくこととして、今回は温泉に限定して記述してみます。
なお登山記は以下をご覧ください。
・その1「前夜(栂池ヒュッテ)」
・その2「栂池ヒュッテ→白馬大池→小蓮華山→白馬岳」
・その3「白馬山荘→杓子岳→白馬鑓ヶ岳→白馬鑓温泉」
・その4「白馬鑓温泉→猿倉」
・その1「前夜(栂池ヒュッテ)」
・その2「栂池ヒュッテ→白馬大池→小蓮華山→白馬岳」
・その3「白馬山荘→杓子岳→白馬鑓ヶ岳→白馬鑓温泉」
・その4「白馬鑓温泉→猿倉」
こちらでは立ち寄り入浴もできますが、朝焼けを眺めながらゆっくり湯浴みしたかったので、宿泊することにしました。上画像は受付&食堂棟です。受付前には…
・沢が増水した時は、渡れない事もあります。
・橋が流された時は、水位が下がるまで修理が不可能です。
・自然には勝てません、あせらないで下さい
と登山者に向けての忠告が箇条書きされた看板が掲示されていました。そういう表現を要するほどの道を辿らないとここには到達できないのでありまして、実際に2010年9月には大雨によって沢に掛けられた簡素な橋が流されてしまい、しばらくの間登山道がクローズされてしまいました。もしそうなったら、橋がかかるまで数日ここで淹留するか、あるいは山を登って白馬山頂や大雪渓を大きく迂回しなければならないんでしょう。
こちらは宿泊棟。通路を挟んで二段式の寝台空間が向かい合っています。男女共用の相部屋ですしカーテンもありませんから、プライバシーが確保された空間じゃないと寝られないという人は無理ですね。布団は用意されているものの、枕がありませんでした。まぁ山小屋ですから贅沢は言っていられません。なおこの場所は冬季に雪崩が発生する可能性があるため、9月末の営業期間を終えると、建物はすべて解体されてしまうんだそうです。つまり毎年組み立てと解体を繰り返しているわけです。関係者のご苦労には頭が下がります。
ヘリや歩荷さんによって物資の運搬が行われているため、食事はご覧のように立派で温かいものをいただけます。この日の夕食の献立は、サバの味噌煮、鶏のから揚げ、スパゲッティのマヨネーズ和え、きんぴらごぼう、オレンジ、フルーツポンチでした。ご飯とお味噌汁はお替り自由ですので、大食漢にはありがたいかぎりです。ちなみに夕食は17:30、朝食は5:30開始でした(日によって異なるかと思いますので、訪問なさる場合はその都度ご確認ください)
さぁ、お風呂に行きましょう。お風呂は混浴の露天風呂と、女性専用の内湯が、それぞれ一つずつあります。
言葉を失うほどの素晴らしい展望! 谷を挟んで相対峙する戸隠・雨飾・妙高の山々、さらにはその奥の彼方に幾重にも稜線が重畳しています。大絶景とはこのことを言うのでしょう。こんな大パノラマを眺めながら温泉に浸かれるだなんて、本当に幸せ…。
この露天風呂は真下の登山道やテント場から丸見えなので、女性には利用しにくいかもしれませんが、水着を着用して入浴している女性もいらっしゃいましたから、そのような工夫によって臆することなく老若男女皆さんでこの絶景の露天風呂を楽しんでいただきたいものです。なお19:00~20:00は女性専用タイムです(その間は内湯が男湯になります)。
入口の反対側から撮影してみました。ちゃんと脱衣小屋もあります。いかに急な傾斜地に設けられているかがおわかりいただけるかと思います。コンクリを固めたり石を組んだりして造られた浴槽は15人近くは同時に入れそうなほど大きなものです。場所が場所だけにカランなんてありませんが、酒枡を大きくしたような木の四角い桶がありますから、これで掛け湯して入ります。排水処理設備はありませんから、石鹸などは使用不可。
浴槽内の山側の底に湯口のパイプが顔を出しており、ふんだんに源泉が供給されています。もちろんお湯は完全掛け流し。まるで滝のように浴槽からお湯が大量に排出されていき、その流れは湯の川となって湯気を上げながら下方へと落ちていきます。
お湯は微かに白い靄がかかったように見えますが、若干青みがかった透明です。湯船に人が入ると白い湯の花がたくさん舞い上がりますが、誰も入らないままでしばらく放っておくと、沈殿は底に沈み、あるいは流れてしまい、かなり綺麗に澄みきります。卵黄味と砂消しゴム的な味を足して2で割ったような硫黄味にほろ苦さが加わり、石膏的な甘さや微かな炭酸味も帯びています。そして軟式テニスボール的な匂いを帯びた硫化水素臭がはっきり漂っています。湯温は若干熱めで、私の温度計は43.5℃を指していました。キシキシとした浴感でした。
(サムネイルをクリックすると拡大)
興味深いのは温泉の成分です。脱衣小屋にはちゃんと分析表が掲示されているのですが、そこに記されていた泉質名は「含硫黄-マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型)」でした。旧泉質名で表記すると「含重炭酸土類硫黄泉」となりましょうか。硫黄・マグネシウム・カルシウム・炭酸水素塩(重炭酸塩)、ひとつひとつの要素自体はちっとも珍しくありません。しかし、重炭酸土類泉は一般的にカルシウムが陽イオンのメイン(一番多いイオン)になることが多いので、マグネシウムが陽イオンの筆頭に挙がり、しかも硫黄泉としての性質も兼ね備えているだなんて、他では滅多にお目にかかれない泉質ではないでしょうか。
その稀有なお湯を湧出しているのがこの場所。食堂棟の裏手に屹立している岩の隙間からお湯がドバドバと大量に自噴していました。温泉ファンとしては興奮せずにはいられない光景です。
絶景を背にして、冷えた缶ビールで喉を鳴らしながら温泉に浸かる私。ありがたいことにキンキンに冷えた缶ビールが売っているのであります。350ml缶で600円もしますが、この山奥へ運搬する困難さや高コストを考えたら、十分納得できますし、それだけのお金を支払うだけの対価、つまり格別な美味しさがあるんです。山で飲むビールって、なんであんなに美味いんでしょう。あの美味さは下界じゃ決して味わえません。
なお露天風呂の真下には足湯も設けられています。こちらは無料。テント場でキャンプしている登山者が頻りに利用していました。上述の自噴源泉から専用のホースによってここまで引湯されています。露天風呂よりも足湯の方が白い沈殿が多いような気がします。
早朝に起きて露天風呂へ行ってみると、東の空が徐々に茜色へ染まり、しばらくするうちに山の向こうから真っ赤に燃える太陽が上がってきました。壮大な絶景から上がってくるご来光を仰ぎながら湯あみできる露天風呂なんて、温泉大国の日本とはいえ、極めて希有な存在ではないでしょうか。苦労して登山してきた甲斐がありました。
念願かなってようやく入浴・宿泊することができた白馬鑓温泉は、私の想像や期待をはるかに凌駕する、まるで天国にいるかのような極上の温泉でした。
含硫黄-マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型)
42.7℃ pH6.5 自然自噴 溶存物質1397mg/kg 成分総計1687mg/kg
Na:25.4mg(6.38mval%), Mg:125.5mg(59.88mval%), Ca:109.9mg(31.77mval%), HS:1.1mg(0.18mval%), SO4:135.0mg(16.42mval%), HCO3:749.7mg(71.83mval%), 遊離CO2:286.5mg, 遊離H2S:4.0mg
猿倉登山口から白馬鑓温泉登山道(小日向コル経由)を徒歩4~5時間。ちゃんとした登山装備が必須。
猿倉までは白馬駅からタクシーまたは路線バス(猿倉線)を利用(運転日注意、ハイシーズンや週末以外は運休)
長野県北安曇郡白馬村北城字白馬山国有林 地図
連絡先:(株)白馬館 0261-72-2002
ホームページ
営業期間:7月中旬~9月末
立ち寄り入浴:300円
1泊2食:9000円
テント場料金:500円
石鹸など使用不可、ロッカー・ドライヤーなど無し
夜間は冷えるので防寒具必須。山小屋なので設備面は期待しないように。自家発電ですが21時に消灯なのでヘッドランプなど用意するとよい。
私の好み:★★★