温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯の峰温泉 つぼ湯

2014年06月24日 | 和歌山県
 
紀伊半島に湧出する温泉の中で最も高温の源泉を有する湯の峰温泉は、言わずと知れた世界遺産にも登録された悠久の歴史を擁する温泉地であり、昔も今も熊野詣をする人々を癒し続けているわけですが、私は当地へ2度訪問しているにもかかわらず、湯の峰温泉の肝心要である「つぼ湯」には入ったことがありませんでした。2度とも連休中だったため、貸切利用の「つぼ湯」は1時間半から2時間近い待ち時間が発生しており、せっかちな性分の私はその時間を待つことができなかったからです。でも今回(2013年12月)は平日に訪れることができたため、温泉街は日中だと言うのに人影はまばらで、公衆浴場の番台にて「つぼ湯」の入浴を申し出ると、待ち時間無しですぐ利用することができました。受付では料金の支払と引き換えに番号札を受け取ります。


 
沸騰状態に近い高温のお湯がボコボコ湧いている湯の峰温泉名物の「湯筒」。普段なら誰かしらがタマゴや野菜などをボイルしているものですが、平日の夕方で観光客の姿も殆ど見られなかったからか、この時は何も茹でられていませんでした。


 
「湯筒」の対岸にあるお寺の脇でも、朦々と湯気を上げつつ湯枡を象牙色に染めながら、高温の源泉が湧いております。寺院と湯煙が同じ画角におさまる光景って、いかにも日本らしい組み合わせであり、和の情景として意外にマッチするものですね。


 
まずは「つぼ湯」の湯屋と待合所を、紅葉とからめて撮影してみました。穿った見方をすれば、観光客に阿っているような、少々お誂え向きな感は否めませんが、それでもなかなかフォトジェニックじゃありませんか。なお湯小屋の上に建つ小さな待合所は、先客がお風呂から上がるのを待つためのものですが、今回は先客がいませんから、ここで待機することなく、ダイレクトに湯小屋へと向かいました。


 
石段を下りて、狭い谷に挟まれた小川の畔に佇む湯小屋へ。


 
入室の際には、戸口の左脇にある金具に、公衆浴場の受付で受け取った番号札をかけておきます。戸を開けて中に入ると、更に下る石段が続いており、その一番底に「つぼ湯」の小さな湯船が白濁のお湯を湛えていました。これが熊野詣の湯垢離場である、古式ゆかしきお風呂なんですね。入浴スペースは実にコンパクトであり、脱衣室なんてものはありませんが、岩の上には編み籠が3つ用意されており、画像に写っているように着替え用のスノコも敷かれていますので、どなたでも不便を感じること無く利用できるでしょう。


 
湯船を板で囲っただけの至ってシンプルな浴室。内部にシャワーなんて現代的なものはありませんので、桶でお湯を汲んで掛け湯することになります。桶と腰掛けは2人分用意されていますが、掛け湯できる空間は必要最低限しか確保されていませんので、複数人で利用する場合は譲り合いながら掛け湯した方が良さそうです。なお石鹸等は使用不可です。

名は体を表すという言葉通り、天然の岩を積み上げられて造られた湯船の形状はまさにツボ状態で、1人ならゆったり、詰めて2人入るの程度の大きさしかありません。底には玉砂利が敷かれており、その砂利の下からお湯が湧出(つまり足元湧出)しているのですが、湧出温度が高いために入浴には熱すぎることもあるらしく、傍にはかき混ぜ棒が備え付けられている他、加水用のバルブも取り付けられているので、これらで適宜温度調整してから入浴します。なお私の利用時には体感で44℃ほどでしたから、何もせずそのまま湯浴みすることができました。


 
大和塀のような湯小屋の囲いにはウインチが取り付けられていますので、こいつをグルグル回したら塀が開閉するのかもしれませんね(尤も利用客は操作できませんが)。

コバルトブルーを帯びた美しい灰白色に濁る湯船のお湯からは、(非火山地域にもかかわらず)火山地帯の噴気孔のような刺激を伴う硫黄臭が放たれており、他の温泉で得られるような硫黄由来のタマゴ味とはやや異なる、茹で卵の卵黄と卵白をミックスさせたような独特な硫黄的味覚とかなり薄めの塩味、そして粉っぽい味とほろ苦味が感じられました。浴感としてはキシキシ感の中に弱ツルスベが混在していると表現すれば良いかも思います。紀伊半島で温泉めぐりをしていると、無色透明でぬるいのお湯が多いので、この湯の峰温泉のように、個性が強くて湯加減の熱いお湯に浸かれると身も心もシャキッとリフレッシュできて嬉しいですね。

語り継がれている伝説によれば、今から600年前に訳あって常陸の国を追われた小栗判官が、三河方面へ向かう途中に現在の横浜市戸塚辺りで潜伏していたら、あろうことか盗賊に毒を盛られて体調を崩してしまうのですが、照手姫(※1)の手を借りて藤沢の遊行寺(※2)へ逃げ込むと、その後遊行上人や照手姫などの援助によって熊野詣をすることになり、湯の峰温泉で湯治をしていたら、なんと病が癒えて全快してしまったんだそうです。それだけこのお湯は霊験あらたかなんですね。
(※1)相模湖近くにある美女谷温泉の名前の由来となっている人物
(※2)箱根駅伝でお馴染みの時宗総本山

神奈川県民である私は、江戸に所在する会社で白眼視を浴びながら平日休暇を取得し、社員としては角番力士のような境遇で熊野の湯の峰温泉へとやってきたのですが、この「つぼ湯」に浸かっていたら、現神奈川県からこの地へやってきた小栗判官の伝説と己の境遇が僅かに重なるような気がしてならず、制限時間の30分ギリギリまで目一杯湯垢離をして、周囲から浴びた冷たい視線による心の傷を懸命に癒やして心身の回復を図ったのですが、これって単なる自業自得を伝説に無理やり当てはめて牽強付会に言い訳しただけにすぎず、熱めの風呂に肩まで長い時間浸かっていたら、回復どころかすっかり湯あたりしてしまい、フラフラになりながら這々の体でこの晩の宿へと帰っていったのでした。霊験にあやかるどころか罰に当たったのかもしれません。あぁ情けない。


含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉

和歌山県田辺市本宮町湯の峰
0735-42-0074(湯の峰温泉公衆浴場)
つぼ湯紹介ページ(熊野本宮観光協会公式サイト内)

6:00~21:30
770円(2014年4月以降)(公衆浴場料金を含む)(1組30分まで)
備品類なし(石鹸など使用不可)

私の好み:★★★
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湯の谷温泉のポリバス

2014年06月22日 | 和歌山県
 
半年前の冬の某日、野湯系を好む温泉ファンの間では名の知られた存在である、和歌山県串本町の湯の谷温泉へ行ってみました。国道42号から県道227号線へ入り、道なりに進んで串本町佐部集落を東から西へ抜けると、画像右(下)のような分岐点があるので、ここで県道から橋をわたって路地へと進みます。


 
橋を渡った先には養魚場跡と思しき施設の廃墟が寂しい姿を晒しているのですが、その奥へ進んでゆくと、左手に駐車場のような空き地が広がりはじめます。


 
道路と空き地の間には側溝が流れているのですが、それを跨ぐようにボロボロなポリバスが一つ置かれており、太いホースからポリバスめがけて、大量のお湯がドッバドバ放出されていました。これこそ、一部の温泉マニアの方にはお馴染みの、湯の谷温泉ポリバスの湯であります。


 
ポリバスは昔の公団住宅に設置されていたような小さな容量のものであり、ホースから注がれるお湯の量が圧倒的に多いため、槽内のお湯は1分もしないうちに全て入れ替わってしまっているのではないでしょうか。圧巻の湯量に興奮しながら温度計を突っ込んでみますと、28.0℃と表示されました。間違いなく湧出地ではこれより高い温度でしょうから、温泉法で規定されている条件をクリアしている立派な温泉ですね。無色澄明のお湯からはタマゴ臭とタマゴ味がはっきりと感じられ、ほろ苦さも含まれていました。

野湯マニアの皆さんはここで入浴なさっているようですが、この日の気温は10℃前後でして、そんな寒い屋外で30℃以下のぬる湯に入ったら風邪をひいちゃうこと必至です。そして、このポリバスは水路の上を跨ぐように敷かれた薄い鉄板の上に据え置かれており、ただでさえバスタブに満杯のお湯で結構な荷重がその鉄板にかかっているのに、そこへ更に私が入ったら、鉄板が負荷に耐え切れるかという不安も覚え、はじめのうちは見学だけにとどめておくつもりでした。綺麗なお湯が大量投入されているとはいえ、雨曝しの状態ですからバスタブの底は決して綺麗とは言えない状態ですし。
でも、ここまで来たのに入らないのは勿体無い。周囲には人目も無いので、絶好の入浴チャンスでもあります。試しにバスタブに体重をかけてみたら、落ちることは無さそうでしたので、意を決して…



ぬるさと寒さをグッと怺えて入浴しちゃいました。タマゴ臭を漂わせるお湯に浸かると、全身に気泡が付着し、ツルッツルスベスベの滑らかな浴感に包まれたのですが、一度入ると寒さのために出られなくなり、湯船から上がると全身に鳥肌が立って、ブルブル震えながら慌てて全身を拭って服を着込んだのでした。私のように冬に入浴することはおすすめできませんが、夏に入るとさぞかし爽快でしょうね。


 
続いて、ポリバスへお湯を注いでいるホースが伸びる方へ歩き、源泉を辿ってみることにしました。立て札によればこの辺りにはホタルが棲息しているみたいですね。


 
やがて木造の掘っ立て小屋が目に入ってきました。これって倉庫? いやいや、ホースはここつながっており、小屋の右側から白いものが流れ出ているではありませんか。これが湯の谷温泉のポリバスへお湯を供給している源泉なのでしょう。


 
小屋へ近づいてみると、小屋の内側から溢れ出たお湯によって夥しい湯の華が発生し、辺りを乳白色に覆い尽くしていたのでした。源泉における湧出量は非常に多く、あのホースの先から吐出されていたのはその一部に過ぎなかったようです。
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古座川町宇津木の垂れ流し湯

2014年06月21日 | 和歌山県

紀伊半島の南部は有名無名を問わず温泉が多く、湯めぐりを趣味とする私のような人間にとっては垂涎の地でありますが、拙ブログで最近何回か取り上げていますように、湧出時の温度が低くて浴用には不向きな源泉も相当数あり、一部の好事家以外には見向きもされず、源泉管理者によって洗濯等の生活用水として使われる以外は、それこそ湯水の如くどんどん捨てられております。日本の温泉は人様に浸かってもらってこそ価値があるわけで、浴槽に溜められること無くドブ同然に排水されてしまう温泉たちは、さぞかし轗軻不遇な我が身を恨んでいるに違いありません。そこで今回も巷間の耳目を決して集めることのない源泉に一条の光を当てて、一瞬だけでもお湯に輝きをもたらし、普段から捨てられるばかりの悲しき宿命を託っているであろう源泉に臥薪嘗胆を図ってもらいます。

すっかり前置きが冗長になってしまいましたが、今回の舞台は和歌山県の古座川町です。風光明媚な古座川に沿って和歌山県道38号線を遡り、月野瀬温泉や牡丹岩の方面に向かってゆくと、宇津木という集落を通過するのですが、その集落に建つ1軒の民家の軒先では・・・


 
こんな感じで道路に面した水場があり、コンクリで固定されたステンレスの流し台に塩ビ管から澄み切った水が絶え間なく落とされているのですが、水場にしては配管の背後に建つ背の低い小屋の存在が気になりますし、しかもその小屋からはブーンと唸る機械の駆動音が聞こえてきます。



そこで吐出口の温度を計測したところ、33.0℃という数字が表示されました。言わずもがな立派な温泉であります。小屋から響いていた機械音はポンプのものでしょう。無色透明のお湯を手にしてテイスティングしてみますと、明瞭なタマゴ臭とタマゴ味、そしてアルカリ単純泉的な微収斂が感じられ、腕に当てて撫でてみるとツルスベの滑らかな感触が得られました。すぐ先には月野瀬温泉がありますので、おそらく同じ系統のお湯(湯脈)なんだと推測されます。夏など気温の高いシーズンに、このお湯を湯船に溜めて浸かったら、さぞ爽快でしょうね。尤も場所が場所だけに、今回は浴びるような行為は控え、見学だけに留めさせていただきました。


●(おまけ)月野瀬温泉 某湯小屋の現状

宇津木の垂れ流し湯から県道を更に1キロ程度奥へ進むと、拙ブログの初期に取り上げたことのある月野瀬温泉の某入浴施設にたどり着きます。ここは残念ながら数年前に閉鎖されてしまい、今では入浴することができません。あくまで私の勝手な推測ですが、保健所がイチャモンをつけてきたので閉鎖に追い込まれたのでしょう。


 
私の推測を裏付けるように、扉には「温泉使用許可を得ていないため他人の入浴ができません」と張り紙が掲示されていました。とはいえ他人は無理でも、自家使用なら大丈夫なんでしょうね。



湯小屋から側溝へ今でもお湯がしっかり流下しており、側溝の河床では白い湯の華がユラユラしていました。今でも源泉は健在のようです。元々自家用であった湯小屋を好意で外来客に開放したら、管轄官庁から目をつけられてしまい、やむを得ず元通り自家専用に戻した、ということなのでしょうから、外来者が使えない状態こそ本来の姿であるとも言えそうです。
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(串本)姫温泉 弘法湯

2014年06月20日 | 和歌山県
※本記事は2014年に訪問した時点の内容を記載しています。その後一旦閉鎖されたものの、2022年頃より貸切風呂として営業を再開しています。

 
ひっそりとした佇まいとほのぼのとした雰囲気が南紀を旅する人々を魅了している、串本町の姫温泉「弘法湯」で入浴してまいりました。国道42号沿いの海岸にそそり立つ奇岩の下に、唐様を思わせる鮮やかな緋色に塗られた小さな堂宇があり、それに隣接してこの「弘法湯」が位置してるのですが、湯小屋は国道の下に隠れるように建てられているため、路傍の看板を見逃すとそのまま存在に気づかずに通りすぎてしまいそうです。しかも利用可能日は週4日しかないため、発見できたとしても曜日によっては利用できないんですね。


 
国道沿いの駐車場に車をとめ、その脇から伸びる細い路地を下りて、海老茶色のスレートで葺かれた湯屋へ向かいます。駐車場からは熊野灘の渺茫たる大海原を眺望でき、この時もつい海に向かって両腕を伸ばし、思いっきり深呼吸してしまいました。


  
戸口には立派な扁額がかけられていました。引き戸の左側には料金表が掲示されていますが、入浴料ではなく「入浴協力金」と銘打たれているところに、この湯屋の特徴、つまり「弘法湯」は地域の方々によって運営されている共同浴場であって、営利目的ではないんやで、という意思表示がよく現れているような気がします。


 
戸を開けて中に入りますと、お座敷では当番のおばあちゃんが炬燵に入って北朝鮮情勢を伝えるワイド番組(10chの「ミ●ネ屋」)を見ている真っ最中だったのですが、背後から「ごめんください」と声をかけて協力金を差し出しますと、おばあちゃんは「住所と名前をお願いします」と卓上にノートを開き、私にペンを手渡しました。こちらで入浴する場合には、台帳への記名が求められるんですね。ペンネームでも構わないとのことでしたが、本名と住所を省略せずに記入させていただきました。

座敷の左側にはシンメトリーな造りの浴室が2室あり、両室とも貸し切りで使って良いと仰って下さったのですが、どちらにしようか迷った挙句、今回は左側の浴室を選択しました(特に理由はありません)。両浴室とも脱衣スペースはかなり質素でコンパクト、棚にプラ籠が置かれているばかりで、2人同時に着替えたら若干窮屈かもしれませんが、そのシンプルさやコンパクト感こそ「弘法湯」の魅力なのかと思います。


 
3畳ほどの浴室はモルタル塗りで、上半分はオフホワイト系のペンキが塗られていますが、下半分は無塗装状態となっており、床はスノコ敷き、そして床面積の半分近くを木製の浴槽が占めています。洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基設置されており、石鹸やシャンプー・コンディショナーも備え付けられていました。なおシャワーのお湯には加温した源泉が使われています。


 
浴槽は1~2人サイズの木造で、木目の通った白木が美しく、コーナーは箪笥みたいに銅の角金具で補強されていました。飾り気の少ないシンプルなお風呂ですが、そこはかとない品の良さが漂っており、共同浴場でありながら、昔の上流階級のお屋敷に備え付けられた浴室を想像させてくれるような、何ともいえない落ち着きと寛ぎの空気感が横溢していました。


 
姫温泉は源泉温度が低いために加温されており、浴槽の上に設けられている2つの蛇口のうち、左側からは加温されたお湯が、右側からは非加温の生源泉が吐出されます。もし湯船が熱い場合は冷たい生源泉で冷ますわけでして、冷温問わず湯船は常に100%源泉で満たされているわけです。また溜め湯式ながら循環消毒などは実施されておらず、湯船に張られた加温湯は、そのまま浴槽から溢れ出て使い捨てられています。おばあちゃんは湯加減を自分の好みに合わせて良いと仰ってくださったので、お言葉に甘えて冷たい蛇口を全開にし、湯船の生源泉率を高めてちょっとぬるめの湯加減で入浴しました(もちろん入浴後は加温湯を注いで温度を元に戻しておきましたよ)。

湯船に体を沈めますと、湯船からザバーっと豪快に音を響かせながらお湯が溢れ出ていきます。窓からは紺碧の海原が望め、実に爽快です。お湯は無色澄明で、湯中では白く細かな浮遊物が舞っています(湯の華だろうと思われますが、浴槽の木の繊維である可能性も否定できません)。桶にぬるい生源泉を溜めて、そのお湯に鼻を近づけてみると、ほんのりとしたタマゴ臭が嗅ぎ取れ、口に含むと弱いタマゴ味が感じられました。同じ南紀の那智勝浦町界隈で湧出する温泉(湯川温泉や勝浦温泉など)に比べるとかなり硫黄感が弱く、より細かく表現すればタマゴ感とともに硫黄が劣化したような砂消しゴムっぽい知覚も混在していたのですが、それもそのはず、分析表を見ますと総硫黄が0.3mg以上0.5mg未満しかありません。このためか、加温湯では硫黄感が更に薄らいでいるように感じられました(加温の際に硫黄ッ気が飛んじゃうのかな)。
匂いや味は薄いものの、全体的にはとてもマイルドでやさしいフィーリングを有しており、入浴中は淡いツルスベ浴感(少々引っかかりも混在)が肌に伝わってきました。質素ながらも品の良さと地元の方のぬくもりが感じられるこの浴場の佇まいに相応しい、大人しく慎ましやかなお湯でした。


 
風呂あがりに、湯屋から更に坂を下って、波打ち際の岩場へ下りてみました。


 
下りきったところには、コンクリの箱が流木に埋もれていました。これは源泉からのお湯を中継する槽かと思われ、側面には小さな穴が開いており、そこからは24.0℃のお湯がピューっとこぼれ落ちていました。


 
中継槽から黒いホースを辿って更に岩場を進んでゆくと、上部からパイプが立ち上がっているコンクリの躯体に突き当たりました。これが姫温泉の源泉なのでしょう。以前は岩から自然湧出していたようですが、現在では旧源泉の傍をボーリングし、毎分66リットルのお湯が自噴しているんだそうです。このコンクリ躯体の裏手にはコンクリの小さな槽のようなものがあり…


 
その内側では無色透明の鉱泉が自然湧出しており、鉱泉の流路では白い湯の華がユラユラしていました。参考までにこの鉱泉の温度を測ってみると、21.1℃と表示されたのですが、先程の中継槽より上流側にあるにもかかわらず温度が低いということは、コンクリ躯体の内部で自噴してる現行の源泉とこの自然湧出源泉は別物なのでしょうか。あるいは、外気に晒されたり天水が混入することによって温度が下がっちゃうのでしょうか。


 
そればかりでなく、コンクリ躯体の周りには明らかに人工物と思われる構造物跡が点在していました。穴はボーリング作業する際の櫓の跡でしょうけど、枡状のものは一体何なんだろう? 



自然湧出した源泉は海へと流れており、岩場の一部は湯の華によって白く染まっていました。海へ流出している量は結構多いので、夏にここへやってきて、この鉱泉をビニールプールに溜めたら、さぞかし気持ち良いでしょうね。なお湧出したばかりの鉱泉は、お風呂より硫黄感が若干強めに感じられました。なお姫温泉は波打ち際で湧出しているにもかかわらず、塩ッ気が全くありません。お湯がストックされている地下から断層などを伝って、海水の影響を受けることのないまま湧出しているのでしょうね。


アルカリ性単純温泉 27.0℃ pH9.5 17.0L/min(掘削自噴) 成分総計0.170g/kg
Na+:42.4mg, Ca++:3.9mg,
F+:10.2mg, Cl-:19.2mg, OH-:0.5mg, HS-:0.1mg未満, S2O3--:0.3mg, SO4--:4.8mg, HCO3-:37.5mg, CO3--:12.3mg,
H2S-:0.1mg未満,
加温あり(入浴に適した温度を保つため)

JR紀勢本線・紀伊姫駅より徒歩12分(1.0km)
和歌山県東牟婁郡串本町姫572  地図

※本記事で紹介した施設としては一旦閉鎖されたものの、2022年頃より貸切風呂として営業を再開しています。詳細はこちらをご覧ください

13:30~19:30 毎週月・水・金定休
400円
石鹸・シャンプーあり、他備品なし

私の好み:★★
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勝浦温泉 海のホテル 一の滝

2014年06月19日 | 和歌山県
 
農閑期の湯治文化がある東日本や、温泉と庶民生活が密接に結びついている九州と違って、温泉での宿泊をハレの時間と捉える傾向にある関西エリアでは、安く泊まれたり一人客を(割増なしで)受け入れてくれるような温泉宿が少ないのですが、さすが関西屈指の温泉地である勝浦温泉は受け入れるパイが大きいからか、一人で安く泊まれるお宿が何軒かあり、今回はそんなお宿の一つである海岸沿いの「海のホテル 一の滝」で一晩お世話になることにしました。こちらは以前拙ブログで取り上げた「きよもん湯」と同経営であり、素泊まり専門のお宿です。



「海のホテル」と称するだけあって、ラウンジからは海が一望できました。気持ち良いですね。


●客室
 
この晩あてがわれた客室は10畳の和室です。備品類はひと通り揃っており、隅々まで綺麗に清掃されているので、気持ちよく一晩過ごせました。



客室の窓を開けると、すぐ目の前に漁船が舫われており、その向こうには弁天島が浮かんでいました。お宿の全客室がこのように海に面しているんだそうです。朝、障子を開けると、この景色が飛び込んでくるんですから、いつもは寝起きの悪い私も、この時の目覚めはめちゃくちゃ爽快でした。


 
海を臨む広縁には洗面台が設けられているのですが、お湯の蛇口を開けると温泉が出てくるのです。また部屋に付属しているトイレにも温泉が用いられていました。自家源泉を所有しているんだそうですが、お風呂以外にも温泉を使っちゃうんですから、それだけ湯量が豊富なんですね。なんて贅沢なんでしょう。でもお湯には硫黄が含まれているわけで、配管は腐食しやすくなりますから、余計なお世話ですが、水回りのメンテナンスにはご苦労なさっているのではないでしょうか(客室に置かれているチラシには、温泉により金具類が黒ずんでいる旨が説明されています)。



●温泉
 
建物の中央に位置するロビーから、館内の西側へと伸びるスロープを上がって浴室へ向かいます。浴室の手前には喫煙室兼休憩室があり、休憩室には畳の小上がりやマッサージチェアーが設置されていました。


 
建物が古いために脱衣室も老朽感は否めませんが、広々していてゆとりがあり、窓外に広がる海を眺めながら着替えたり、湯上がりに窓を開けて潮風を受けながら涼むのも、なかなか乙なものです。この脱衣室には浴室から流れこんでくる温泉由来のタマゴ臭がふんわり漂っていました。硫黄感の強いお湯なのかな。


 

お風呂は内湯のみで露天風呂はありません。海に面してカーブを描いている扇形の浴室には、窓に沿う形で、柱を挟んで大小2つの浴槽が据えられており、時間によって2つの浴槽の温度が入れ替わる設定になっています(といっても私が利用した時には、全時間帯において温度の入れ替わりはありませんでしたが…)。もちろん浴室からも海を一望できました。内湯とはいえ、そこそこ開放的な環境でしたよ。


 
洗い場は浴室入口を挟んで二手に分かれており、入口に向かって右側にはシャワーが4基並んでいます。シャワーのお湯は100%源泉で硫黄を含んでいますから、水栓金具は見事なまでに黒く硫化していました。


 
もう一方の洗い場には押しバネ式の水栓が2基設置されており、水道の水栓は無く、温泉の水栓のみです。こちらの水栓金具も硫黄でしっかり黒ずんでますね。温泉ファンとしては、この黒ずみを目にすると嬉しくなってしまいます。
浴室の広さの割には洗い場の数が少ないように思われるのですが、お宿側も私の同じ認識を持っているのか、「シャワーが他の客で埋まっているときには桶で直接湯船のお湯を汲んでちょうだい」と言わんばかりに、浴槽の傍には腰掛けと桶が等間隔にセッティングされていました。


 

2つに分かれている浴槽のうち、手前側の浴槽は小さめで、キャパは4~5人程度でしょうか。湯口からどんどんお湯が投入されて、縁の切掛けからザブザブと大量に捨てられており、湯船には35℃前後のぬるいお湯が張られていました。なんとも贅沢で豪快な湯使いです。


 

一方、奥側の浴槽は手前側の1.5倍ほどの容量を擁し、こちらも絶え間なくお湯の投入と排出が行われていましたが、ぬるかった手前側とは違い、入浴に適した42~3℃に加温されていました。こちらのお宿が所有する源泉は2本あり、いずれも40℃未満ですから、手前側の小さな浴槽は源泉そのまんま、奥側の大きな浴槽では加温された源泉が注がれていたのでしょう。ぬる湯とあつ湯の両方を行ったり来たりしながら、タマゴ臭とツルスベ浴感が明瞭なお湯を堪能させてもらいました。なお両浴槽とも泡付きは確認できませんでした。

湯船に張られたお湯は両方とも無色澄明で、手前側の湯口のお湯からは焦げたような苦味や渋みを伴った茹でタマゴ的な味と匂いが感じられ、その苦味は喉の粘膜に引っかかり、ちょっと荒削りな印象を受けました。一方、奥側の湯口のお湯も、硫黄感はしっかり出ており苦味もあるのですが、手前側のお湯よりは幾分マイルドで品が良いような感じでした。2本の源泉をミックスしているのか、あるいは浴槽によって使い分けているのか等、どう使い分けているのかわかりませんが、いずれにせよ2つの湯口では上述のような違いが見られました。

脱衣室まで及ぶほどタマゴ臭が強いので、入浴中はてっきり硫黄泉かと頭ごなしに決めつけていたのですが、分析表を確認したところ、2つの源泉とも総硫黄は2mgに達しておらず、単なるアルカリ単純泉であることは意外です。でも内湯というクローズドな空間で大量のお湯が掛け流されていましたから、タマゴ臭がこもりやすくなり、数値以上のタマゴ感が得られたのかもしれません。

素泊まり専門ですから料金は比較的安く、またフロントの方は食事の場所など観光情報を色々と教えてくれますし、建物は古いながらも手入れが行き届いていますから、宿としての利便性は良好です。しかもお風呂では惜しげも無く自家源泉がドバドバ掛け流されているのですから、お湯にこだわる旅行者にも満足できるお宿かと思います。


一の滝
アルカリ単純温泉 37.8℃ pH8.8 151L/min(動力揚湯) 溶存物質0.566g/kg 成分総計0.566g/kg
Na+:150.0mg(71.89mval%), Ca++:47.4mg(26.13mval%),
Cl-:289.9mg(88.05mval%), HS-:1.6mg, SO4--:17.0mg(3.77mval%), HCO3-:20.3mg(3.55mval%),
H2SiO3:26.0mg, H2S:0.1mg未満

一の滝2号
アルカリ単純温泉 35.8℃ pH8.9 168L/min(動力揚湯) 溶存物質0.467g/kg 成分総計0.467g/kg
Na+:128.0mg(72.34mval%), Ca++:41.0mg(26.62mval%),
Cl-:232.2mg(88.39mval%), HS-:1.4mg, SO4--:7.3mg(2.02mval%), HCO3-:18.3mg(4.05mval%),
H2SiO3:27.3mg, H2S:0.1mg未満


JR紀勢本線・紀伊勝浦駅より徒歩12分(900m)
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町勝浦752  地図
0735-52-0080
ホームページ

日帰り入浴15:00~23:30
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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