温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯川温泉 ゆかし潟周辺の源泉めぐり その1

2014年06月12日 | 和歌山県
 
那智勝浦町にある汽水湖の「ゆかし潟」は、湖周辺の一帯が温泉湧出地帯となっており、前回まで連続して取り上げてきた湯川温泉はその代表でありますが、この他にも拙ブログでは以前に「ゆりの山温泉」「四季の郷温泉」を取り上げているほど、あちこちで温泉が湧いております。しかしながら、多くの源泉は40℃を辛うじて上回るか、あるいはそれ以下となっており、入浴に適するかどうかのボーダーライン上をフラフラしているような状態でして、ある程度の温度が確保できる源泉ならば浴用として活用されますが、ぬるい源泉は生活用(洗濯用)に使われたり、使われずに捨てられています。そこで今回は、温泉ガイドブック等では扱われることがない、ささやかな温泉たちを2回連続で見てまいります。


●さごん湯

勝浦から串本方面に向かって国道42号を走っていたとき、湯川温泉エリアの路肩で「さごん湯」と書かれた小さな立て札を発見したのですが、しかしその周囲に湯小屋らしきものが見当たらない。何だこれは!?


 
そこで、ゆかし潟の湖畔にある駐車場に車を止め、国道を勝浦方面へ歩いて、その立て札へ戻ると、国道の下に隠れるようにして建てられている小屋を見つけました。小さいながらも屋根に湯気抜きを戴いているので、この建物は湯小屋であることがわかります。路肩の直下にあるので、国道を走る車からは見つけにくく、湯小屋も全体がトタン張りという粗末な造りですが、小屋へ下るステップには足元照明が設けられており、しかも入口のドア右には立派な扁額が掲げられていました。



ドアは南京錠でしっかり施錠されていたため、内部の状況はわかりませんが、小屋の規模や、屋根も壁もトタン張りである構造から、その様子は推して知るべしです。けだし温泉ファンならアドレナリンを垂れ流しちゃいそうな、素朴でプリミティブなお風呂なのでしょうね。
この湯小屋で注目すべきは、小屋の壁下からお湯が川をなして大量に流れていることです。小屋に外部から川が流れているようなことはありませんから、間違いなくこの小屋の中を源にして、その湯の川が流れ出ているわけです。扁額には「源泉かけ流し」と書かれているのですが、その様子から察するに、かけ流しなんて言葉が生ぬるいほど怒涛の如き湯量が浴槽に注がれているのでしょう。
どうしてもこのお風呂に入りたくなり、屋根の上には勝浦港の前にあるビジネスホテルの看板が立っていたので、そのホテルに電話で問い合わせたところ、「さごんの湯」は宿泊客専用であり、入浴のみの利用は受け付けていないとのことでした。この日は既に別の宿にお世話になっていたので、残念ながらこのお風呂に入ることができず、泣く泣くここを立ち去りました。もし興味がある方は、画像に写っている名前のビジネスホテル「ブルーハーバー」に宿泊なさってみてください。


●某所 橋の袂の露天風呂

ゆかし潟の湖畔からちょっと離れた場所にある、以前拙ブログでも取り上げたことのある某入浴施設の近所へとやってまいりました。
湖畔から続いている狭い谷あいには田んぼが細長く伸びており、その中を一筋の細い川が流れています。また川に沿って一本の道路が走っており、道路から対岸の耕作地に渡るため、田んぼの畦道に向かって橋が架けられています。これだけでは、日本全国の田舎で当たり前のように見られる光景なのですが…


 
橋をわたって対岸に立つとと、その橋の袂にはこんなものがあるんですね。
塩ビのパイプから水がドバドバと落とされ、一旦コンクリの小さな槽に溜まってから、擁壁を伝って川へと溢れ出ているのですが…


 
単なる水なら私が取り上げるはずはありません。その塩ビのパイプに温度計を突っ込んでみたら、温泉法で規定されている温度を軽くクリアできる、36.2℃という数値が表示されました。いわずもがな、ゆかし潟の湖畔に自然湧出する温泉の一つであり、無色透明のお湯からはこのエリアの温泉に共通して見られる茹でタマゴのような味と匂いが感じられました。ただ、周辺の他源泉よりタマゴ感はちょっと弱いように思われます。
お湯が溜められている槽は、深さが10センチくらいしかないため、入浴するには適しません。地元の方の洗濯用(あるいは農機具の洗浄用等)に使われているのでしょうか。でも槽の傍らには黒いホースの先っちょが伸びていますね。



コンクリで護岸された川岸の上を歩いて、その黒いホースが伸びる方へ向かってゆくと…


 
先の方でトタンで囲われたバラックがあり、内部にはバスタブが設置されていました。私有物でしょうから中には入らず、入口からちょこっと覗くだけに留めておきましたが、私が見た時のバスタブは空っぽでして、しばらく使われているような形跡が見受けられませんでした。実際に使用する時には、先程の塩ビの湯口に黒いホースをつないで、ここまでお湯を引っ張るのでしょうね。

その2へ続く
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湯川温泉 柳屋旅館

2014年06月11日 | 和歌山県
 
国道42号線沿いの温泉旅館「柳屋」は、民宿のような小規模旅館ばかりが集まる湯川温泉にあっては比較的収容力が大きな施設であり、且つ他の旅館群とはちょっと離れているのですが、宿泊はもちろんのこと、夕方になると地元の人が次々に集まってきて、毎日の汗を流す銭湯代わりとしても使われているようです。私が訪れた時にも、軽自動車が次々に駐車場へ入ってきて、風呂道具を小脇に抱えた爺様や婆様が建物へと呑み込まれていきました。地元支持率が相当高そうです。


 
湯銭は帳場で直接支払い、フローリングのラウンジを抜けて浴室へと向かいます。


 
廊下の突き当たりに浴室の暖簾が下がっており、その上には「放流式 自家泉源 柳の湯 天然温泉」という誇らしげな文字が額縁に納められていました。なお脱衣室は結構狭くてとっても簡素。棚とプラ籠があるばかりで、扇風機はおろか洗面台もなく、しかも湯浴み客が多い時間帯だったので床もビショビショ。旅館というより共同浴場と表現したくなるような様子でした。



総タイル貼りの実用的な浴室も、旅館というより共同浴場もしくは民宿然としたこぢんまりとした造りです。


 
洗い場には硫化して黒ずんだ水栓が3つ並んでいるのですが、その間隔はかなり狭いので(わずかタイル2枚分)、同時に3人使うのは無理でしょう。また画像にはシャワーらしきものも写っていますが、シャワーヘッドが無かったため使うことはできませんでした。従いまして、ここで洗体や洗髪する場合には、桶で湯船のお湯を汲んじゃった方が早いですね。


 
ポストの投函口のように横に細長い口から「自家泉源 柳の湯」がドバドバ大量に投入されており、浴槽の縁からザバザバ音を立てて溢れ出し、浴槽縁の下にある排湯用の溝は、大量のオーバーフローによって、水張り期の田んぼの用水路みたいになっていました。浴槽の容量に対して投入量が相当多いので、浴槽内のお湯はあっという間に入れ替わっていることでしょう。お湯の鮮度感は抜群です。


 
ヨットの帆のような形状をした浴槽は3~4人サイズ。先述のように私が訪問した時には、地元の方が集まって混雑していたので、洗い場も湯船も余裕がなく、爺様達が肩を寄せ合いながらシャンプーしたり、湯船に浸かってお喋りに花を咲かせてました。
綺麗に澄み切った無色透明のお湯からは茹でタマゴ臭が漂って浴室内を満たしており、お湯を口にすると甘い卵黄の味が口に広がります。そして湯川温泉の特徴である泡付きもしっかりしており、アルカリ泉らしいツルスベ浴感と全身を覆う泡付きによって、軽やか且つ滑らかでエアリーな浴感が楽しめました。

さて拙ブログでは湯川温泉(および同じエリアの夏山温泉)のお湯を3つ連続で取り上げてきましたが、ほぼ同系のお湯であるこれら3湯「きよもん湯」「もみじや」「柳屋」を、特徴別に不等号を付けて序列化してみますと…
・タマゴ感:きよもん湯>もみじや>柳屋
・泡付き:もみじや>きよもん湯>柳屋
・新湯投入量(浴槽の容量に対する投入量):柳屋>もみじや>きよもん湯
・湯温:きよもん湯>柳屋>もみじや
私の実感ではこのような並びとなりました。柳屋のお湯は、知覚的特徴や泡付きは他2湯よりやや弱いものの、投入量が多いので鮮度感は頭ひとつ抜けており、湯加減もちょうど良い、それでいて駐車場もあって料金も安い、こうした諸々のファクターが、地元の方から高い支持を集めているのではないかと思われました。


  
なおお宿には貸切風呂もあるのですが、今回は利用せず見学のみさせていただくことに。画像からもわかるように、かなり年季の入った建物ですね。


 
貸切風呂は白いタイルの室内に水色の浴槽が映えていますが、その大きさは一般家庭のお風呂を一回り大きくしたような感じで、温泉風情を楽しむというよりは、誰にも邪魔されずに静かな時間を過ごすための空間と言えそうです。なお45分の時間制限があるそうです。


柳ノ湯
アルカリ単純温泉 40.0℃ pH9.4 191L/min(動力揚湯) 溶存物質0.180g/kg 成分総計0.180g/kg
Na+:39.2mg(81.43mval%), Ca++:4.8mg(11.43mval%),
F+:5.7mg, Cl-:42.8mg(52.38mval%), HS-:1.5mg, S2O3--:0.1mg, SO4--:11.6mg(10.39mval%), HCO3-:19.9mg(14.29mal%), CO3--:3.5mg,
H2SiO3:46.2mg,

JR紀勢本線・湯川駅より徒歩14分(1.1km)、もしくは新宮駅~紀伊勝浦駅~串本駅を運行する熊野交通バスで「湯川温泉」バス停下車徒歩1分
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町湯川980  地図
0735-52-0317

立ち寄り入浴16:00~21:00
300円
備品類なし

私の好み:★★
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夏山温泉 もみじや

2014年06月10日 | 和歌山県

前回取り上げた「きよもん湯」の目の前にある丁字路を曲がり、国道から盲腸のようにちょこんと伸びる道に入って海岸へ向かって下ってゆくと、1キロほどで風光明媚な夏山(なっさ)海岸に行き当たり、この海岸で道は行き止まりになります。この僅か1キロ強の道はれっきとした和歌山県の県道236号・勝浦港湯川線なんだそうでして、入江によって夏山海岸で分断されているものの、入江の北側から再び236号線は復活し、勝浦漁港の前を通過して勝浦港前交差点で終点となるんだそうです。いずれにせよ3キロに満たない極めて短い県道です。またゆかし潟や勝浦など周辺は那智勝浦町ですが、この夏山地区だけは和歌山県で最も小さい市町村である太地町の飛び地となっており、県道と飛び地という2つの意味において、地理マニアには興味深いところです。


 
この夏山地区に湧く夏山温泉では一軒宿「もみじや」が営業しており、そこのお風呂が良いと聞いたので、自分の五感で確かめるべく、この地へやって参りました。宿のすぐ真裏では紀勢本線の線路が横切っており、私が到着した時には特急「くろしお」がガタンゴトンと新宮方面へ走り去っていきました。


 
玄関に入って入浴をお願いしますと、ラウンジでテレビを見ていた女将が料金を受け取り、ラウンジ脇のグリーンの通路から奥へ伸びる薄暗い廊下へ、スタスタと早歩きでお風呂を案内してくれました。



なお帳場のカウンターには料金入れが置かれていますので、もし館内に誰もいないようでしたら、ここへ料金を納めて浴室へ向かっても良いみたいです。でも入浴は午後3時からですから、時間は守りましょう。



脱衣室の扉には縦に筋が入った曇りガラスが嵌められており、その表面にはペンキで「浴室」と手書きされていました。このレトロ感たっぷりのガラスと字体がいい味を出してます。


 
脱衣室内は至ってシンプルで、棚に籠が積まれているだけですが、そこそこの広さがあるので、着替えるのに不自由はしません。


 
お風呂は内湯のみ。浴室の戸を開けると、温泉由来の茹でタマゴ臭がふんわり香ってきたのですが、そんな香りとともに、昭和30年代から時計の針が止まっているかのような、郷愁をくすぐる空気感も横溢しています。
古いお風呂ですのでシャワーなんてものはなく、洗い場には水道の蛇口が2基あるばかりです。相当古い造りのはずですが、お手入れが徹底されているのか、浴槽も床もピカピカに磨かれており、決して経年を言い訳にしないお宿の努力と矜持が伝わってきました。


 
肝臓、あるいは浜千鳥や「銘菓ひよこ」を連想させる形状をした浴槽は、昔ながらの小さなタイル貼りで、縁は黒、槽内は水色という配色となっており、容量は2~3人サイズと結構コンパクトです。実際に入ってみますと、滑らかな曲線が背中にフィットしてくれました。
浴槽の真上にある窓も今時珍しい木枠で、緑や水色のペンキが塗られており、室内にさわやかな印象を与えています。


 
食品用容器っぽいボトルに入っているピンクの液体はボディーソープなのかな。床に埋め込まれている排水口の目皿は、なんとタイルと同じ焼き物です。昔の建物ではよく見られたようですが、今でも現役というのは珍しいのでは。


 
化粧石が貼られた壁の湯口よりお湯が音を轟かせながら大量投入されており、その音響は脱衣室を通り越して廊下まで届いています。そして浴槽の湯面に波を立てながら、黒いタイルの縁よりザバザバと豪快にオーバーフローしています。誰も入っていない状態でその有り様ですから、私が湯船に浸かったら、ものすごい勢いでお湯が溢れ出し、浴室が洪水状態になってしまいました。なんとも贅沢な湯使いです。言わずもがなですが、湯使いは完全掛け流しであり、短時間で浴槽のお湯が入れ替わりますから、鮮度感は抜群です。しかも、自然の恵みと言うべきか、源泉をストレートに掛け流ししているだけなのに、湯船では体感で40~41℃の湯加減となっており、いつまでも長湯したくなる夢心地のお湯なのです。



お湯の見た目は無色透明で清らかに澄んでおり、先述のように茹でタマゴの匂いがふんわりと香っています。湯口に置かれたコップで口に含んでみますと、香りに呼応するかのような茹でタマゴの卵黄っぽい味が感じられました。
お湯の豪快な投入量もさることながら、湯船に浸かると忽ち気泡が付着して、あっという間に全身がアワアワ状態になることも、温泉ファンが感動すること請け合いでして、お湯が持つアルカリ単純泉らしいツルスベ感とこのアワアワが相俟って、実に軽やかで爽快な浴感を堪能することができました。



ちなみに女湯は男湯に比べるとかなりこぢんまりしており、女性らしく淡いピンク系の配色となっていますが、男湯に負けないくらい獅子の湯口から大量のお湯が注がれており、誰も入っていないのに、惜しげも無く爽快に湯船から溢れでていました。

良泉揃いの湯川温泉エリアの中でも、昭和の面影を強く残すお風呂といい、クリアなお湯のフィーリングといい、私の記憶に強い印象を刻んでくれた素晴らしい温泉でした。


温泉分析表見当たらず

JR紀勢本線・湯川駅より徒歩25分(2.0km)、もしくは新宮駅~紀伊勝浦駅~串本駅を運行する熊野交通バスで「湯川温泉」バス停下車し徒歩15分(1.1km)
和歌山県東牟婁郡太地町湯川夏山3830  地図
0735-52-0409

立ち寄り入浴15:00~19:30
300円
ボディーソープらしきものあり、他備品類なし

私の好み:★★★
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湯川温泉 きよもん湯

2014年06月09日 | 和歌山県
 
和歌山県那智勝浦町にある汽水湖「ゆかし潟」の周囲ではあちこちで温泉が湧出しており、ちょっとした温泉の宝庫でありますが、今回は国道42号線沿いに建つ日帰り温泉施設「きよもん湯」を利用してまいりました。国道沿いという好立地ですし、駐車場も完備されていますので、温泉ファンのみならず一般の方でも利用しやすい施設です。


 
瓦屋根の建物は平屋で地味ながらもそこはかとない風格があり、殊に玄関まわりはまるで旅館のような佇まいです。その玄関傍にある外水道では温泉のお湯が汲め、この画像を撮った直後に、軽自動車で乗り付けたおばちゃんがポリタンクにお湯を溜めはじめました。



受付前の券売機で料金を支払い、券を受付に差し出します。受付の右手にはガラス張りの休憩室が設けられており、中央には畳の小上がりが用意されています。ガラス窓の周りは庭園風に植栽が整えられており、わずか数百円で利用できる施設とは思えないほど美しく上品な趣きです。


 
受付からまっすぐ進み、左へ曲線を描く渡り廊下を歩いて入浴棟の下足場へと向かいます。なお下足場から中へ入ってすぐ左手には家族風呂(50分1000円)が何室かあるのですが、今回は利用しませんでした。


 
廊下の壁に展示されている書状は、昭和23年に当時の皇太子様(今上天皇陛下)が喜代門旅館に宿泊した際、東宮大夫から送られた感謝状です。達筆且つ簡にして要を得た文には敬服するばかりですが、皇族がお泊りになるほど、こちらは嘗て由緒あるお宿だったんですね。たしかに、今でこそお隣の勝浦の方が温泉地としては有名ですが、歴史的に見れば、勝浦温泉の開湯は江戸期ですが、湯川温泉は平安時代まで遡れるそうですから、こちらの方がはるかに長い伝統を有しているわけです。私個人としては「きよもん」を漢字で「喜代門」と書くことに目から小さなウロコの破片が落ちました。


 
脱衣室に入るや否や、温泉から放たれるタマゴ臭が香り、一秒でも早く服を脱いでお湯に浸かりたくなります。室内は実用的な造りながら、よくメンテナンスされていて明るく綺麗です。無料のドライヤーがある他、カゴも用意されていればロッカーも設置されており、使い勝手も良好。扇風機が3つもあって、湯上がりのクールダウン対策もバッチリです。


 
脱衣室の壁に掲示された「出しっ放し」の赤い字が、完全掛け流しであることをアピールしていました。また「貴金属は変色することがあります」という文言が、お湯に硫黄が含まれていることを示唆していました。


 
お風呂は内湯のみで露天風呂はありません。浴室の壁にはブラウン系、床にはグレー系のタイルが用いられており、空から降り注ぐ陽光で水色のタイルが鮮やかに輝く大きな浴槽が窓に面して一つ据えられています。その浴槽は15~6人くらい同時に入って足を伸ばしてもゆとりがありそうな程の容量を有し、とてもクリアなお湯が湛えられています。
一方、窓とは反対側の壁にそって洗い場がL字型に配置されており、シャワー付き混合水栓が6基並んでいます。浴室のお掃除もぬかりなく行き届いており、気持ちよく使えました。


 
湯口からは絶え間なく源泉がドバドバと注がれており、浴槽の縁からは惜しげも無くザバザバとオーバーフローして、洗い場へと流下しています。投入時の音と溢れ出る音、その両方が浴室内に木霊しており、見た目のみならず耳からも湯量の豊富さを実感できました。
こちらのお湯は保健所からちゃんと飲泉許可も得ていますから、心置きなくお湯を飲んでみますと、甘いタマゴ味にアルカリ単純泉的な微収斂が感じられ、茹でタマゴ臭がやさしく香ってきました。



心が洗われるほど無色澄明でクリアなお湯に浸かると、入って20秒も経たないうちに肌が気泡に覆われ、たちまち全身が泡だらけになってしまいました。これはすごい! しかもお湯が持つツルツルスベスベ感に、泡付きのよるエアリー感も加味されるので、湯船の中では実に軽やかで爽快な浴感が楽しめました。また投入量が多くてどんどんオーバーフローされてゆくので、大きな湯船でも十分に鮮度感が得られました。なおこちらのお湯は2つの源泉をミックスさせて使っているようです。

このような爽快感のあるお湯であり、湯船では41~2℃でしたから、湯上がりは爽やかで清涼感があるものかと思いきや、なぜか温まりが強く、気がつけば顔が赤らみ心臓の拍動も増え、早々に体が音を上げてしまったので、あまり長湯できずに湯船から上がらざるを得ませんでした。イオウによる血管拡張効果が覿面に効いているのかもしれません。脱衣室に扇風機が3つも用意されている意味が、ここに至ってようやく理解できました。見た目や浴感からは想像できないパワーも有しているようです。でも食塩泉のような嫌味なベタつきや火照りは無く、扇風機に当たっているうちに爽快感が戻ってきました。
施設の資料によれば1200年の歴史があるんだとか。長い歴史に裏打ちされている、素晴らしいお湯でした。


喜代門湯
アルカリ性単純温泉 40.8℃ pH9.8 252L/min(掘削自噴) 溶存物質0.177g/kg 成分総計0.177g/kg
Na+:48.8mg(91.77mval%), Ca++:3.6mg(7.79mval%),
F-:8.8mg, Cl-:30.6mg(27.13mval%), OH-:1.1mg, HS-:1.0mg, S2O3--:0.1mg未満, CO3--:27.0mg(28.39mval%), HSiO3-:35.6mg(14.51mval%),
H2SiO3・CO2・H2Sいずれも0.1mg未満,

喜代門湯2号
アルカリ性単純温泉 39.5℃ pH9.9 223L/min(掘削揚湯) 溶存物質0.174g/kg 成分総計0.174g/kg
Na+:48.3mg(91.70mval%), Ca++:3.6mg(7.86mval%),
F-:8.8mg, Cl-:29.6mg(26.77mval%), OH-:1.2mg, HS-:0.6mg, S2O3--:0.1mg未満, CO3--:25.2mg(28.39mval%), HSiO3-:34.7mg(14.52mval%),
H2SiO3・CO2・H2Sいずれも0.1mg未満,

JR紀勢本線・湯川駅より徒歩12~3分(1.0km)、もしくは新宮駅~紀伊勝浦駅~串本駅を運行する熊野交通バスで「湯川温泉」バス停下車すぐ
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町湯川1062  地図
0735-52-0880
ホームページ

12:00~23:30
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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湯ノ口温泉 後編 紀州鉱山トロッコ列車

2014年06月08日 | 三重県
前回記事では三重県熊野市の湯ノ口温泉を取り上げましたが、今回はその湯ノ口温泉へ向かうトロッコ列車について、もう少し細かく見ていきます。前回でも申し上げましたが、当地はかつて紀州鉱山として銅が採掘されており、鉱石運搬のための専用鉄道も運行されていたのですが、昭和53年に閉山されると鉱山鉄道も用済みになってしまいます。しかしながら、風光明媚な土地であることや、湯ノ口地区で温泉湧出が復活したこと等が機運になったのか、1987年に行われたイベントで奇跡的に復活し、1989年から通年運行されるようになったんだそうです。といっても復活したのは全区間ではなく、旧小口谷駅に位置する入鹿温泉「瀞流荘」と湯ノ口温泉駅(旧湯ノ口駅)の一区間のみですが、当時の線路をそのまま転用しているトロッコ列車は、そんじょそこらのお猿の電車とは一線を画する本格派であり、当時の様子に思いを馳せるには十分かと思います。
ま、そんな屁理屈はさておき、まずはスタート地点となる瀞流荘駅へ向かいましょう。


●瀞流荘駅
 
旧小口谷駅構内に設けられた瀞流荘駅は、その名の通り、入鹿温泉の旅館「瀞流荘」の目の前に位置しており、ここは鉱山鉄道の現役時代は広大なヤードであったため、山間にもかかわらず広大な敷地が広がっています。そんな広々とした中で、公園の休憩所みたいな木造の駅舎がポツンと佇んでいました。


 
とってもウッディーな建物でして、うららかな陽気に恵まれたこの日はドアや窓が全開放されていましたが、天井には天カセのエアコンが取り付けられていますので、季節に応じて空調管理されるようです。前回記事でも申し上げましたが、トロッコ列車で湯ノ口温泉へ向かうには、往復の乗車券と入浴料金がセットになっている「温泉・トロッコ電車セット券」がお得ですので、駅舎の窓口でその券を購入し、トロッコ列車の出発時間を待ちます。
なおトロッコ列車にはちゃんとダイヤがあり、本数も1日6往復と限られていますので、乗車希望の方は予め公式HPで時刻表を調べておいた方が良いでしょう。


 
瀞流荘駅のホームは、小柄なトロッコ列車には不釣り合いな、妙に頑丈な上屋で覆われています。ホームには既に出発を待つ列車が入線しており、任意の車両に乗車できます。私は11:15発の列車に乗り込んだのですが、その列車の客は寂しい哉、私一人だけ。時間になると、先程チケットを発券してくださった係員の方が駅舎の窓口から出てきて、バッテリーロコのキャブに座ってマスコンを動かしました。


 
湯ノ口温泉駅までの約1kmは、中間の僅かな明かり区間を除けば、ほぼ全区間トンネル。出発して道路を横切ると、すぐにトンネルに入ってしまい、ひたすら真っ暗な車窓が続きます。軌間は日本の鉱山鉄道では一般的な610mmであり、現役時代の線路敷をそのまま転用しているためトンネル内は複線なのですが、現在は1本のトロッコが単純往復しているだけですので、片方の線路のみを単線使用しています。

トロッコはジョギングと大して変わらないほどのんびり走るのですが、プリミティブな車体構造と足回りのおかげで、振動と走行音が凄まじく、その大音響が背の低いトンネル内で反響するので、会話できないほどの轟音に包まれちゃいます。でもその振動と音こそが、鉱山鉄道のリアリティなんですね。メカ好きや乗り物好きの男子にとって、その大音響は興奮要素となるはずです。


●湯ノ口温泉駅

約8分の乗車で湯ノ口温泉駅に到着です。


 
湯ノ口温泉駅は橋の上に設けられており、立派な駅名標も取り付けられております。その駅名標にはかつての駅名である「小口谷」の名前が残っていますね。



更に奥にも線路が伸びており、デルタ状の配線を収束した直後に再びトンネルへと入ってゆくのですが、坑口から僅か数十メートルのところにフェンスが立ちはだかっているため、その奥には行けません。


 
上画像は湯ノ口温泉駅から瀞流荘駅を望んだ様子です。
さすがに現役の線路だけあって、坑道内の壁面は綺麗に整備されていますね。


●車窓の様子
湯ノ口温泉駅を出発してから瀞流荘駅に到着するまで、その全区間の車窓を録画しました。

ほとんどの区間がトンネルなので、正直車窓としては退屈なのですが、出発早々に辺りに響き渡る音と、線路の振動をモロに受ける車体の揺れを、おわかりいただけるかと思います。動画よりも実際に乗った方が、はるかにはるかに面白いんですけどね。


●機回し


トロッコ列車は機関車が客車を牽引して、一本の線路上を単純にピストン往復しているわけですが、列車が駅に着いたら折り返して元の駅へ戻るため、先頭の機関車を切り離して、最後尾へ付け替える必要があります。この作業のことを鉄道の世界では「機回し」と呼んでおり、某無料百科事典では動くイラスト付きでわかりやすく解説されていますが(こちらを参照)、このトロッコ列車でもそれぞれの駅で機回しが行われております。

瀞流荘駅では複線の線路に渡り線(ポイント)を設け、普段客扱いしていない線路を機回し線にして、某無料百科事典の動くgif画像で解説されているのと同じパターンで機回しが実施されています。

一方、湯ノ口温泉駅では、複線の線路敷があるにもかかわらず、すぐ先の線路が使えない状態であるため、ちょっと変わった方法で機回しをしています。その手順とは・・・

(1)駅に着いてお客さんを降ろした後、一旦瀞流荘駅へバック(推進運転)する。
(2)瀞流荘駅側のトンネルにトロッコ全体がすっぽり入ったあたりで停車。
(3)客車と機関車が切り離されると、機関車の目の前にあるポイントが側線側へ切り替えられ、機関車だけがその側線に入る。そして直後にポイントが正位(本線側)へ戻る。
(4)線路が緩やかな下りになっているため、客車は自然に(あるいはスタッフの手押しにより)駅のホームへと転がってゆき、これまた勾配の関係で、客車はホームで勝手に止まる(あるいはスタッフが腰にグイッと力を入れて車を停める)。
(5)側線にいた機関車は本線に戻り、ホームの方へ走っていって、客車と連結する。

こんな感じとなっています。機関者を側線に避けさせるのはわかるとしても、客車を自然の重力あるいは人力で動かすだなんて、とってもユニークです。

ご参考までに、これら2駅の機回しの様子を録画しました。もしよろしければご覧ください。




●バッテリー機関車
 
トロッコを牽引する機関車はバッテリーによって動くタイプのもので、鉱山鉄道が稼働していた時代から活躍している昭和46年・ニチユ(日本輸送機)製です。鉱山鉄道時代は全線電化されており、当時はパンタグラフで集電する機関車が働いていましたが、現在は架線が撤去されていますし、延々と低いトンネルが続く区間なのにディーゼル機関車を導入したら排ガスでお客さんが参っちゃいますから、復活に際しては当時のバッテリーロコに白羽の矢が立ったのでしょうね。


 
キャブに積まれているマスコンは一般的な電車と同じような立派なスタイルです。正面のボンネットっぽい部分にはバッテリー(GS蓄電池)が48個も積まれているんだとか。個人的には、ブレーキが丸ハンドルの手ブレーキである点に興味が惹かれました。自動車のような油圧でもなく、一般的な鉄道のように圧縮空気でも回生制動でもなく、人力によってハンドルをグルグル回して制動力を得るんですから、21世紀とは思えないほどローテクです。



キャブからの前方視界はこんな感じ。意外とスッキリしているじゃありませんか。


●客車
 
客車は復活に際して新たに製造されたんだそうですが、当時の鉱山列車風に再現されており、かまぼこ型の屋根を戴く客車の躯体は木造です。後部には黒いゴムの緩衝器が2つ取り付けられており、また車内照明のため、電線が引き通されています。


 
トロッコ車内の様子です。軌間が610mmしかありませんから、かなり狭く感じられます。車内の壁面は木目がむき出しになっており、ベンチには座布団が載せられ、窓にはガラスが嵌められています(窓はちゃんと開けられます)。木造ですから走行中は線路から伝わる振動をモロに受けてしまい、あちこちガタピシ鳴ってとっても賑やかでした。


●紀和鉱山資料館の展示車両

鉱山鉄道の起点であった板屋地区には紀州鉱山が稼働していた当時の様子を今に伝える「紀和鉱山資料館」があります。


 
入口に立つ看板の上には、鎚を振り上げる鉱山夫のモニュメントが立っていました。今回は時間の都合で資料館の内部を見学することができなかったのですが、屋外には当時の鉱山鉄道の車両が保存されているので、それらだけをササッと簡単に見学することに。


 
610とナンバリングされているこの車両は、電気機関車610号なのでしょう。車体と同じくらいに大きなパンタグラフが目を引きますが、上述のように紀州鉱山が稼働していた当時の鉱山鉄道は全線電化されていたので、このパンタで集電していたわけです。


 
610号キャブを覗いてみます。低い屋根で囲われたキャブは、右側と後方に窓が開けているものの、左側は完全に遮蔽されており、上下左右ともにスペースが限られているため、相当狭苦しそうです。マスコンは日立製で、その上に開閉器や各種スイッチが並んでいます。手ブレーキで制動するのは現在のバッテリーロコとほぼ同様のようですね。


 
軌間者の後ろには木造の客車と鉱石運搬用のかわいらしい貨車が並んでいました。運搬用索道も展示されていますね。現在の客車のモデルになった当時の客車も木造で、現在の車両以上にコンパクトであり、一見するとワム(有蓋貨車)のようでもあります。客車内には木のベンチが取り付けられていますが、とても狭いので、向かい合わせに座ると、膝が触れ合うどころか密着しちゃいそうです。現在のトロッコは窓にガラスが嵌め込まれていますが、当時は格子窓の吹きさらしだったんですね。


 
黄色いテントの下にはスイッチャーと思しき小さなバッテリーロコとレールバイクが前後に並んでおり、その後ろには小さなターンテーブルも設けられていました。ターンテーブルの先は資料館と一体になっている格納庫へ伸びているのですが、これが回転する機会ってあるのかな?


・トロッコ列車問い合わせ先
熊野市ふるさと振興公社
三重県熊野市紀和町湯ノ口10
0597-97-1126
湯ノ口温泉ホームページ

・熊野市紀和鉱山資料館
三重県熊野市紀和町板屋110-1
0597-97-1000
紀和鉱山資料館ホームページ
コメント (6)
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