パパと呼ばないで

再婚した時、パパと呼ばないでくれと懇願した夫(←おとうさんと呼んで欲しい)を、娘(27)「おやじ」と呼ぶ。良かったのか?

街結君と太郎君⑳

2016年09月03日 | 野望
俺はさ、恋愛とかも、それほどのめりこまないタイプなんだ。
結婚も、妻のほうからアプローチされて、流れるように結婚して、流れるように離婚した。
別に、妻じゃなくても良かったんだと思う。
千春とのことも、あ、千春さん、ま、いっか。太郎君の前じゃないし、千春で。
千春と同じ部署になって、河合さんと3人で営業で行動するようになって、二人とも俺に気があるなって気が付いて。
そういう時も俺、そつがないっていうかさ、天秤にかけるわけさ。
河合さんは若くて可愛いけど、いろいろ面倒だろうなとか。
俺はもう結婚とか子どもとかはいいかなって。
そうなると千春の方が付き合うなら楽だなって。
で、軽い気持ちで付き合い始めたんだけど、千春が「太郎に隠れてこそこそ付き合うようなことはしたくない。
結婚する気もないし、経済的に頼る気もないし、何も変わらないとは思うけど、
ただ太郎と、スマートのマスターには付き合ってることを隠したくない。」って言って。
俺、何度か会ったけど、太郎君もマスターもいい人たちだなって思ってたし、嫌われてないだろうなって思ってたから
軽い気持ちであの日スマートに行ったんだ。
千春は、マスターのことをお兄さんみたいなものだって言ってたし、太郎君ともいい親子関係を築いてる感じだったから、「よろしくな!」みたいな軽い挨拶ですむって思ってた。
でもさ、千春が俺たちのことを言った瞬間のマスターの顔見て「この人は千春に惚れてるんだ。」って気付いて、
太郎君のうろたえたような顔見て、俺の方が百倍うろたえたよ。
太郎君はうろたえた顔した後、すぐに「すみません、少し頭冷やします。」って一礼してスマート出て行ったんだ。
千春は「大丈夫。あの子は大丈夫よ。」って言いながら、一番自分が大丈夫じゃなくて、
マスターだけがいつもの表情に戻って「コーヒー飲みますか。」って、場を作ってくれようとしたんだけど、マスターの気持ちに気付いた俺はもういてもたってもいられなくなって「とりあえず今夜はこれで帰ります。」って
逃げるように帰ってしまったんだ。

太郎君が家を出たって聞いて、初めはさ、18歳くらいでもまだ母親の恋愛って認められないものかな、まだまだ子どもだななんて思ったりした。
千春はすごく落ち込んでて、「しばらくは会えない。」って言ってきた。
でも、その落ち込みぶりを見ながら、俺は心のどっかで、「千春にとって一番が太郎君で二番が俺なんだな。」って。
俺の方がよっぽど子どもだな。
もし、千春が「別れよう」って言っても引き止めるようなことはしないで、潔く別れてあげよう、なんてこと考えてた。
上から目線ってやつだな。
もめ事の嫌いな、そつのない俺らしいだろ。
俺、絶対マスターに負けてるな。千春への気持ちも、太郎君への気持ちも。
っつーか、俺には愛が足りないな。
妻にも娘にも、恋人にも、人類にも、犬にも猫にも。」
コーラの氷を見つめながら聞いてたオレは、荒木さんの声のトーンが少し変わったことに気付き目を上げると
荒木さんは静かに泣いていた。

荒木さんと駅で別れ、オレはまた耳がちぎれそうになりながら公園を突っ切り家へ帰った。
荒木さんは「ごめんごめん。俺に泣かれても困るよなあ。
今日はありがとな。いろいろ話してくれて。
俺って、スマートじゃアウェーだろ。いろいろ気にはなっても千春からだけの情報しかないから
いつも通りの受け身な俺になってたんだ。
今日、街結君から連絡もらって、ちょっとびっくりした。
太郎君から呼び出されることは覚悟してたんだけどね。
俺には、そんな友達いないなあ、この年にもなって。
今日はさ、『くれは』とのこともあって、ちょっと涙腺が緩んじゃって、お見苦しいとこをお見せしました。
ゴメンな。
千春とも、もっと話してみる。
また連絡するよ。
今度はマックじゃなくて、焼肉とかをがっつりご馳走するよ。」と、いつものしゅっとした荒木さんに戻ってさわやかに去っていった。
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朗読に適した本探し

2016年09月03日 | ボランティア
9月3日(土)晴れ

北陸旅行だのRSPだの送別ランチだの浮かれて、ボランティア活動をサボっていた夏。
先日久々の会合に顔を出すと・・・
鬼会長がさらりと「nさん!次の朗読会、お願いするよ。先週お休みだったからそれをいいことに決めてしまったから!」
お隣のHさんが申し訳なさそうな小声で「欠席裁判ね」
え〜〜〜っっっ!
何度か、ご指名は受けつつも「金曜日は仕事なので・・・」
会長「仕事って夕方だろ?朗読会は1時から30分間だけだよ。さっと読んでさっと帰っていいから!」
n「え〜〜〜っ!なんか落ち着かないし・・・」と、子どもの様な言い訳をし続けていた。
が、とうとう逃げられないところまできてしまったってことね。

さて、何を読もうか(自分で読むものを選ばねばならない)
前回は、会長が「落語の本」から落語をやった。
その前は小川糸さんの、ちょっと感動系のやつ。
その前は海老名香葉子さんの、戦争関係の泣ける感じ。
その前は時代小説だったかなあ、でも導入部だけで、あとはCDにするから聞いてね、というパターン。
ワタクシの希望としては・・・おもしろいもの、ちょっと話題になったもの、読みやすいものにしたい。
で、キチンと終わりにしたい。
本屋さんをのぞいてみる。
最近、本を読んでない。さらには流行りの本を知らない。
ざ〜っと見渡しながら・・・
文藝春秋9月号に『コンビニ人間』全掲載とある。
これどう?話題になったよね。
ただ、時間的にどうだ?30分では読み終わらなそうだな。
となると、直木賞のほうの『海の見える理髪店』どうよ。
これって短編集でしょ?30分くらいでまとまりそうなものないかな。
昨日は久し振りに近所の小さい図書館に行き、なんとなく気になったもの三冊借りてきた。
群ようこ著『寄る年波には平泳ぎ』
佐野洋子著『私の息子はサルだった』
西加奈子著『まにまに』
結論から言うと、これらは雑誌に連載されてたエッセイなので一話だと短か過ぎるし、かといっておもしろいもの感動的なものばかりをチョイスしても少し伝わりにくいというかあざとさが出てしまう気がする。
とはいえ、まず『私の息子はサルだった』はあっという間に読み終えた。おもしろかった。
時々運が良ければ巡り合えるEテレ『ヨーコさんの言葉』
あの声の感じで淡々と読む。
男の子のアホさ真っ直ぐさかわいさなどを感じつつ、母の強さやおもしろさなどを感じつつ。
あ〜なんかに似てるこの感じ。
そうそう!西原理恵子著『毎日かあさん』だ。
そして、毎日かあさんではポン美さんというレトリバーに泣かされたが、この『私の息子は〜』では、犬の花子と息子に泣かされた。
強い母佐野洋子は、瀕死の飼い犬花子を病院に見舞った後、帰り道の車の中で「動物は動物らしく死ぬべきだ」と持論を展開する。
だから点滴なんてしてほしくないと。
中学生の息子は反論する。
「母さんは犬かよ、花子がもっと生きたいと思ってるかいないか、わかるのかよ。」
動物と人間を同じに考えては動物に失礼だ、ペットだからこそ、野生をそこなわないようにしてやるべきという母。
「じゃあなんで花子を飼ったんだ」と反論する息子。

    「動物っていうのは、もっと堂々と死ぬものだよ。点滴している犬なんか情けないよ。」
    「なんで死ぬって決めるんだよ。わかんないじゃないか。ひでえよ。」
    息子は握りこぶしでごしごし目を拭いた。中学生の男の子が泣く。
    もしかしたら、親の前で泣くなんて最後かもしれないな、と思って、
    じっくり見なきゃ損かな、と運転しながら横目でみた。

何度読み返してもここのシーンで泣けるので、絶対これは朗読できん!ボツっ!!!

そして・・この続き・・・
    しかし花子は死ななかった。
    次の日、頭を持ち上げ、立ち上がると、点滴の管を引きちぎったのだ。
    家へ連れ戻して庭へ放すと、ガブガブ水をバケツ半分くらい飲んだ。
    それから、ものすごく大きなあくびをして、尻尾をぷりぷり振った。
    息子はそれを見て、私の顔をにらみ殺すかと思うほどにらんだ。

いやぁ〜〜〜なんかすごい。この『にらみ殺す』ってのは、娘だけしか持たない母には想像もつかない。
いや、娘もにらみますよ、親の敵でも見るような目で、親を・・・
でも、にらみ殺されはしない。

そういう、自分とは違う視点からの子供というのがとても興味深い。
もう一カ所、同じその花子の話のところ。
    「ハナコ」ともう一度息子はささやいて、耳と耳の間をそっとなでた。
    私は一生の間、男にさえ、あんなに優しくなでられたことない、と思って見ていた。
    (中略)
    私は自分が死ぬ時、誰か一番愛している人に、手でも足でも握っていて欲しいと思っているのだ。

佐野洋子さんが亡くなる時、息子さんは手を握ってくれていたかなあ。
髪の毛をやさしくなでてあげてたかなあ。
ワタクシも、死ぬ時には娘に手を握っていて欲しいとは思うが、佐野さんとは少し違う感情のような気がする。
「毎日かあさん」を読んだときも感じたが、ワタクシはやっぱり娘で良かったなあと思う。
神様はよく見ている。
ワタクシは、ただただまわりの「息子を持つ母」の話をおもしろおかしく聞く側でよい。
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