さきち・のひとり旅

旅行記、旅のフォト、つれづれなるままのらくがきなどを掲載します。 古今東西どこへでも、さきち・の気ままなぶらり旅。

ホテル・オブライエン

2011年04月18日 | アイルランド



 ホテルの女主人は、ビヤ樽のように膨らんでいた。しかも鼻の下には、長いひげが生えている。話していると、つい目線がそちらに下がってしまうぜ。彼女もあの印象的なアイリッシュ・ブルー・アイズの瞳をしている。アイルランドの女性は、十代は細身で、すばらしく美しい人が多い。さらりとした金髪、空色の瞳。それが30を境に、ほぼ例外なくこのように変身してゆくのだ…。

 さてホテル入り口の正面から、堂々と上に向かった階段を登り部屋に入ってみる。天井が高く、今はガスストーブが置いてあるが暖炉があり、たんすなどの調度品は実に時代を感じさせる立派なものだ。いまは薄暗く寂れているとはいえ、むかしは格式の高い高級ホテルだったのだろう。

 トイレに入ってみると、紙がロールではなく、レストランのテーブルに置いてあるような、表面がつるつるの小さな紙片の束がおいてある。ああ情けなや。こんなもので拭けるのかw こんなときのために、ポケットティッシュは必携だ。地球の反対側の繁華街で配られている消費者金融の広告を、こんなところで見てしまう。どうする、アイ○ル?

 風呂はバスタブがある部屋を選んだ。少々料金が高くても、シャワーブースでは足の疲れが取れないのだ。しかあし、その棺おけのように縦長のバスタブのはじに、それぞれ冷たい水と熱湯が出る二つの蛇口が別々についているだけで、シャワーはない。湯を張るのは問題ない。しかし頭と体を洗えば、湯は石鹸とシャンプーだ。そのまま拭いて上がれというのか。

 顔を洗うくらいなら、まず両手に水をためてサッと熱湯の蛇口に横移動し、手のなかで適温にすることで対応できる。しかしシャンプーのついた頭をゆすぐとなると大変すぎる。しかたなく湯船にはった湯でゆすいだあと、いったん石鹸の湯を抜き、ふたたび湯を張る。水はけは悪く、さらに湯の出も遅い。

 この作戦は完全に失敗した。濡れた体で再び湯船が一杯になるのを待つのは寒くてしかたがない。ここは北国の冬なのだ。水と湯の蛇口が合体していれば、温度調節が出来て問題はないのだがなあ。結局いっぱつで風邪気味だ。だいたいバスタブといっても高さは低く、大きな「水受け」といった感じで、湯を張って温まる構造ではない。英国ではいつもそうだが、横になると身動きできないようなスッポリ棺おけタブに寝そべり、首だけ上に曲げて腹筋の訓練のような格好をするのは情けないものである。

 くしゃみ連発と鼻水が出るので、早速大きなベッドのなかにもぐりこむ。これもヨーロッパの宿ならよくあることだが、真ん中がぐっと沈むのだ。あまりひどいので横に立ってみてみると、人が乗ってもいないのにベッドの中心が、透明の大きなボールが乗っているかのようにへこんでいる。

 スプリングが古すぎるのであろう。仰向けになると両手両足を空中にバンザイしたような姿勢になる。落っこちていくんじゃないんだからw(゜゜)w

 うつ伏せになれば、逆エビ固めをくらったように背骨がきしむ。横向きになると、人間の胴体は腰を中心に横に曲がるようにはできていないことがよくわかる。しかたなく消去法で仰向け落下スタイルだ。両足と上半身の体重が腰の一点にかかってくる。

 普段は意識しない重力を痛いほど感じる。リンゴが落ちるのを見なくたって、こんなベッドに寝ていれば万有引力の存在に気がつくぞ。この姿勢で寝返りは許されないのだ。この日は朝から一日がかりの移動、しかも長い列車の旅に加えて荒れた海を渡ってきたのに、疲れきった体を休めることも許されない夜なのであった。ああ格式高い、歴史を積み重ねたホテルの夜よ。



コメントを投稿