さきち・のひとり旅

旅行記、旅のフォト、つれづれなるままのらくがきなどを掲載します。 古今東西どこへでも、さきち・の気ままなぶらり旅。

ダブリンの人々

2011年04月19日 | アイルランド

       
街中で見つけたジョイスの銅像。アイルランドが世界に誇る文学者ですからね^^

 
アイルランドの朝を迎えた。ハンモック・ベッドのおかげで腰が痛いヽ(`益´)ノ 朝食の席につくと、例のヒゲおばさんが食堂の切り盛りをしている。「ジョン」と呼ばれている亭主は、何もせずブラブラと玄関で煙草を吸っている。給仕は娘の「レイチェル」、翌日は弟の「マーク」だった。典型的なカトリック家族のようだったので、我々はヒゲのおかみを勝手に「メアリー」と呼ぶことにした。敬虔なカトリックはバース・コントロールをしない。従って子沢山が非常に多い。ここも何人兄弟がいるやら。

 ここでアイルランド作家ジェイムス・ジョイスの短編集『ダブリンの人々』より、「イーヴリン」というお話を紹介しましょう。

 
場所はダブリンの貧しい地区、とある家の窓ぎわ。19歳の少女イーヴリンは、夕暮れの並木道を眺めながら、物思いに耽っている。彼女は子供の頃から、この寂れた並木道や向こうの原っぱで遊んでいたことを思い出している。その遊び仲間も、ある子供は死んでしまい、また別の子供は一家で逃げるように出て行ってしまった。彼女のすぐ上の兄、そして母も病気で死んでしまった。ひとりずつこの地を去ってゆく。そして彼女も今、この地を去ろうとしているのだ。

 彼女の人生はつらい事の連続だった。母が死んでから家事の一切を任され、幼い弟たちの世話をするのは大変だった。父は次第に酒で荒れるようになり、生活費にも困った。店番の仕事も毎日夜までで、そこの女主人はいつも彼女につらくあたるのだった。

 そこから彼女は逃げ出そうとしている。思いもよらなかったフランクとの出会い。彼は船乗りで、やさしく男らしく、さっぱりしていた。彼は彼女にブエノスアイレスで一緒に住もうと誘ってくれたのだ。歌が好きで、帽子をあみだにかぶり、日焼けしたフランクと初めて会ったときのことがつい先日のことのようだ。

 若い船乗りとつきあっていることを知った父は怒り、フランクと喧嘩をしてしまった。もう出てゆくしかない。でも出てゆくとなると、最近すっかり老けこんだ父が気になった。こんな父でも、ときどきはやさしくなるときもある。彼女は母が生きていた頃、家族みんなでピクニックに出かけたことを思い出した。父は母の婦人帽を頭にのせて、子供たちみんなを笑わせたのだった。

 そんな思い出に耽っていると、通りの向こうで流しのオルガンのもの悲しい曲が聞こえてきた。母の臨終のときにも、このオルガンが聞こえていた。そのとき、イーヴリンに母の生涯のみじめな幻影が襲ってきた。最後は狂気となった母のおそろしい意味不明の叫び声が、ありありと甦った。

  
デレヴォーン、セローン! デレヴォーン、セローン!

 
彼女は脱出しなければならない!この惨めな境遇から、幸せをつかむために出てゆかねばならない!フランクはきっと彼女を愛して救ってくれるはずだ!

 
暗い夜の港の雑踏で、イーヴリンはフランクに手を引かれていた。大きな汽船が横づけになっている。彼女の頬は、冷たく青ざめていた。いまさら引き返すことなど可能だろうか?彼女の苦悩は体に悪寒を催させた。出発を知らせる汽笛が彼女の胸に響いた。フランクが「行こう」と手を引く。

 とつぜん彼女は両手で堅く鉄柵を握りしめた。いや!いけない!「イーヴリン!イヴィー!」うしろから押されながらも、フランクは柵の向こう側でついてこいと叫び続けた。彼女は蒼白の顔で、うつろな目を彼に向けるだけであった…。

 
イーヴリンはこのままダブリンで、死んだ母親のようにつらく厳しいことばかりの一生を送ることになるのでしょうか。老いた父親や幼い弟たちを置き去りにしてアルゼンチンへ渡ったならば、幸せな奥様として暮らすことができたでしょうか?相手も若い船乗りだし、信用なんでできるものか?でもここにいて幸せになるチャンスはないかもしれない…。どちらにしてもつらい選択。その境遇で、彼女は麻痺状態に陥ってしまうのだった。

 
こんな物語が思い出されるダブリンのホテル。アイリッシュの雰囲気が充満しているうら寂しいホテル。ついにこんなところまで来てしまったんだなあ~。


ダブリンの海岸。中ほどに見える丸い塔は、一時ジョイスが住んでいたので「ジョイス・タワー」と呼ばれています。私はここを歩いていて濡れた岩に滑って転び、ズボンを汚しました。しかたなく街に戻ってズボンを買ったのです…。(゜゜)げー





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