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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ライラの冒険 琥珀の望遠鏡【軽装版】上下

2008-12-06 00:38:08 | 物語・ファンタジー・SF
 「神秘の短剣」の最後にさらわれたライラを探してウィルがさまよい、ライラをめぐってアスリエル卿と教会側が争奪を繰り広げ、ウィルはライラ救出後ライラとともに死者の国へ行って幽霊たちを解放し、メアリー・マローン博士が「ダスト」の究明を続ける世界にたどり着いてライラとウィルが愛に目覚めるが・・・というお話。
 3部作の完結編ですが、完結しても、シリーズの通しテーマのはずのダストの正体と、ダストの異常な動きが回復する理由、魔女の予言にあった、教会側も恐れていたライラの使命も、釈然としません。お転婆娘ライラが思春期になり愛に目覚め少年と結ばれるのが、ダストの異常を元に戻し人類を救うこと(教会側からは人類を堕落・破滅させること)なんですか?1巻、2巻と大風呂敷を広げたのが巧く収拾できずに、児童書だからこれくらいでいいかって適当にぶん投げた感じがします。
 この「琥珀の望遠鏡」では、ライラは前半「いばら姫」状態ですし、後半もウィルに付き従うだけで、自信に満ちたライラは消え去り自信なげにおびえるライラばかりです。これまた「ライラの冒険」と呼ぶのはかなりの違和感を覚えます。この流れだったら、何がライラの使命だったにしても、ライラが果たしたのではなくてウィルとライラが果たしたと評価すべきですし、それなら最初から「ウィルとライラの使命」でライラが「イヴ」ならウィルも「アダム」だと予言しておくべきでしょう。
 そして、その野心と狡猾さで怪しげな魅力を振りまくコールター夫人も、結局は、突然の母性愛で毒気が抜かれ、やはり誇大妄想とも言うべきスケール感で圧倒的な存在感のあったアスリエル卿もあっけないし、1巻で設定したキャラの魅力が活かされない感じというかキャラ設定が裏切られる感じがします。
 形式面でも「琥珀の望遠鏡」になって突然、章ごとにエピグラフがついて衒学趣味的な感じが強まり、児童書として読みにくくなっています。
 3巻を通して一貫しているのは、児童書にしては異例に強い反教会の姿勢、特に神をあっさり崖鬼に喰わせたり天上界を敗北させる大胆さくらいでしょうか。


原題:THE AMBER SPYGLASS
フィリップ・プルマン 訳:大久保寛
新潮社 2008年7月30日発行(単行本は2002年、原書は2000年) 
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ライラの冒険 神秘の短剣【軽装版】上下

2008-12-06 00:21:08 | 物語・ファンタジー・SF
 「黄金の羅針盤」でアスリエル卿が開いた異世界への窓をくぐり抜けて別世界にやってきたライラが、私たちの世界から逃げ込んだ少年ウィルとともに異世界への窓を自由に切り開くことができる「神秘の短剣」を得て、失踪した冒険家のウィルの父を捜して旅をし続けるというお話。
 「黄金の羅針盤」では自信満々のお転婆娘だったライラが、12歳の少年ウィルと出会うや、おとなしくなり、ウィルに従い、「黄金の羅針盤」でライラの最大の武器だった真理計を使うことまで封印してしまいます。ライラはウィルの陰に隠れてしまい魅力がなくなります。この「神秘の短剣」を「ライラの冒険」と呼ぶのはかなり疑問です。「ライラの冒険」は日本語版で独自につけたシリーズタイトルだからでしょうけど。
 しかも、このウィルが、どこかウジウジした暗さがあって、ファンタジーの主役を張るには役不足。暗黒物質研究者のメアリー・マローン博士と気球乗りのリー・スコーズビー、魔女のセラフィナ・ペカーラが代わりに活躍しますが、あくまでも脇役ですから、やはりファンタジーとしての醍醐味を感じにくい。
 設定も、パラレルワールドを渡って行った世界が子どもたちが支配できる世界とかキリスト教色の強さはいかにも「ナルニア国物語」を意識させますし、境界が崩壊したことで世界の均衡が崩れたっていうのは日本では「ゲド戦記」と名付けられている “BOOK OF EARTHSEA” を思い起こしますしね。大人の魂をむさぼり食って廃人にする「スペクター」はハリー・ポッターのディメンターそっくりですが、これはハリー・ポッターの方が後ですね。
 お話自体というか、アスリエル卿と教会の戦いは、「黄金の羅針盤」よりも大きくなっていくんですが、空回り感が強くなり、主役の魅力減少もあって、読んでいて疲れました。


原題:THE SUBTLE KNIFE
フィリップ・プルマン 訳:大久保寛
新潮社 2008年6月25日発行(単行本は2000年、原書は1997年)
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ライラの冒険 黄金の羅針盤【軽装版】上下

2008-12-06 00:06:23 | 物語・ファンタジー・SF
 異世界の学寮で育った11歳のお転婆娘ライラが、さらわれた友人を助け出そうと、「ジプシャン」や鎧熊、魔女などとともに戦うファンタジー。
 この「黄金の羅針盤」では、ライラは元気いっぱいで嘘つきでタバコは吸うし酒は飲むし、(後で協力するものの)ジプシャンやタタール人への偏見といい、怪力でないピッピ(長くつしたのピッピ)のようなキャラで、親の目からは問題がありますが、子どもの目には魅力たっぷりに描かれています。また、ライラ以外の登場人物も、当初はライラの伯父とされ実は父親のアスリエル卿のマッドサイエンティストぶり、ライラを捨てた母コールター夫人の権力志向と狡猾さと妖艶で怪しげな魔性の女ぶり、勇壮で一本気な鎧熊イオレク・バーニソン、さらにはジプシャンの長老や魔女まで含めて魅力的な人物が多数登場します。それらの登場人物が、波瀾万丈、虚々実々の戦いを見せ、ファンタジーの作りとしてはとても魅力的です。さらに言えば、児童書でありながら、これだけ反教会的なテーマ設定も珍しい。「黄金の羅針盤」だけで完結されていれば、私はかなり満足して読み終えられたと思うのですが。
 残念ながら、「黄金の羅針盤」だけでは、大テーマの「ダスト」の正体や役割は全くわかりません(実は3巻まで読み終えてもよくわからないというか釈然としないのですが)し、アスリエル卿の反教会の戦いも予言だけですし、もちろんお話としても途中です。
 新潮社の表紙見返しには「<カーネギー賞>で創設以来70年間のベストワン作品に選ばれた、世界的ベストセラーの冒険ファンタジー!」と紹介されていて、確かに「黄金の羅針盤」を読んでいる間はそれらしい高揚感と期待は感じましたが、2巻以降はそう評価すべきでしょうか。2巻以降はどうも話が小粒になりどこかで見たような気がし、雰囲気が変わって、私には今ひとつに思えました。
 そして、日本語版のシリーズタイトルの「ライラの冒険」も「黄金の羅針盤」に限って言えばふさわしいと思いますが、2巻以降をそう呼ぶのは違和感を覚えます。原作のシリーズタイトルには「ライラ」は出て来ず “His Dark Materials” です。この原書のシリーズタイトルは「黄金の羅針盤」冒頭のエピグラフの「失楽園」(もちろん、渡辺淳一のではなくミルトンのです。念のため)の引用部に登場するのですが、日本語版では原書のシリーズタイトルであることを意識していないのか、「失楽園」の訳文をそのまま当てて「玄妙な材料」と訳しています。この本のシリーズタイトルとしてはとんちんかんな気がしますが。


原題:NORTHERN LIGHTS
フィリップ・プルマン 訳:大久保寛
新潮社 2007年9月25日発行(単行本は1999年、原書は1995年)
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