伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

怪人二十面相・伝

2008-12-28 23:30:20 | 小説
 遠藤曲馬団の曲芸師で動物飼育係だった武井丈吉が、30人そこそこの見物人を相手にするのは飽きて、金持ちの物を盗む見せ物をしようと怪人二十面相となり、明智小五郎とライバルとなって競うが、気球で脱出する際に小林少年が乗り込んで気球を銃で撃って気球が爆発してその後行方不明となるまでを、丈吉と遠藤曲馬団での弟子だった遠藤平吉らの視点で描いた小説。
 二十面相の側から、富豪から盗むことの美学を描き、明智小五郎の欲と悪知恵、子どもを使えば手を出せまいという少年探偵団結成の狡猾さを批判的に描いています。サーカスの団員の視点ですから、貧民の立場から、多くの民を飢えさせ、空襲で死亡させた政治の誤りが指摘されます。ただ、それでも怪人二十面相については、貧者の怒りではなく、あくまでも個人的な美学が強調され、そこは直線的ではないのですが。
 映画「K-20」の原作とされていますが、少なくとも、ここまでは全然別の作品です。映画で登場するのは、一番最後の「ノガミ」(上野)のバラックで死にかけた子どもを養うために食べ物を持ち帰る子ども(この子どもが「葉子」!)のエピソードくらいです。続編の「怪人二十面相・伝Part2」では平吉が修行して怪人二十面相を継ぐという話のようですから、映画に近づくかも知れませんが(読んでませんからわかりませんが)。
 映画よりは、庶民目線を感じる小説です。


北村想 小学館文庫 2008年9月10日発行 (単行本は1989年)
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2008-12-28 00:02:11 | 小説
 1992年2月1日の首都圏大雪の日を題材に、アムステルダム行き航空便の乗務後にパリで恋人と会う約束をしている客室乗務員が、成田まで行き着く苦労、出発の遅れ、乗員チームの不安と疲れなどの経過を経てようやくパリにたどり着くが・・・という小説。
 なんとか便が飛んで欲しいと思い続ける主人公と、疲れなどからできれば飛びたくないと思う同僚、職業意識からみんなを奮い立たせようとしまた思いやる乗務員、さらには主人公の相手の男の甲斐性なさを知る故に会わせたくないと思う同僚の思惑の心理描写を読ませる小説です。
 一面では、国際線運行スタッフの業界話としても楽しめます。
 しかし、読み終わって初出を見ると「すばる」の1997年。今頃何で1992年の話とは思いましたが、どうして今頃になって単行本化されたんでしょうか。「同じ制服を来た」(15頁)なんて今頃では考えられない変換ミスも、その頃のワープロならではのものを敢えてそのまま単行本でも再現したのでしょうか?


高橋治 集英社 2008年11月10日
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