尖閣諸島近海での巡視船と中国漁船の衝突事件で中国漁船が巡視船に体当たりするビデオをYoutubeに投稿して公開した海上保安官が、その動機等を書き綴った本。
著者の思いは、尖閣諸島をめぐる問題と事件の真相解明のために人々が考え行動して欲しいというところにあり、それが繰り返し書かれていますが、著者自身は事件の当事者ではなくただ神戸で一海上保安官として10時間に及ぶビデオのうち44分を入手してみることができたに過ぎず事件については報道と噂レベルのことしかわからないため、事件をめぐるノンフィクションとしては読んでいて隔靴掻痒という感じがします。
著者自身が直接体験した部分に関しては、ビデオの入手方法や当時の閲覧状況がかなりぼかした書き方ですし、sengoku38のハンドルネームについても「ハンドルネームの意味は・・・」という見出しがあるにもかかわらず結局書かれていません。
ノンフィクションとしての部分は、事件当事者になってみて報道の半分しか本当のことは書かれず後半分はおもしろくするための作り話だとわかった(175ページ)とか、「それまでは、よく取り調べで自分がやっていないことをやったと言う人がいるのを不思議に思っていたが、この調子で1カ月近く取り調べが続いたらと思うと、理解できないことはないと思うようになった」(148ページ)、「その連日のような取り調べで痛感したことは、自分の記憶力のなさである。1カ月前のことは日にちははっきりと思い出せないし、自分の行った行動の内容もはっきりと思い出せないのである」(177ページ)などの部分に読みでがあります。特に著者が海上保安官として取調をする側であったことを加味すれば、この実感の重みがわかると思います。そして、私には、著者が退職を迫られた際に、退職に抵抗すると、著者の処分によって他の人の処分が決まるといって迫られたという下り(182~183ページ)が胸に迫りました。言うことを聞かない人間に言うことを聞かせるため、おまえが言うとおりにしないと他の人に迷惑がかかると知人・友人を人質にとって強要するという役所の手口。海上保安庁に限らず、役所・役人の醜さ汚さをよく示している例だと思います。
他方、著者の動機部分の話は、外国人と外国政府の悪意を強調して排外主義を煽る論調が強く、ちょっと辟易します。
一色正春 朝日新聞出版 2011年2月28日発行
著者の思いは、尖閣諸島をめぐる問題と事件の真相解明のために人々が考え行動して欲しいというところにあり、それが繰り返し書かれていますが、著者自身は事件の当事者ではなくただ神戸で一海上保安官として10時間に及ぶビデオのうち44分を入手してみることができたに過ぎず事件については報道と噂レベルのことしかわからないため、事件をめぐるノンフィクションとしては読んでいて隔靴掻痒という感じがします。
著者自身が直接体験した部分に関しては、ビデオの入手方法や当時の閲覧状況がかなりぼかした書き方ですし、sengoku38のハンドルネームについても「ハンドルネームの意味は・・・」という見出しがあるにもかかわらず結局書かれていません。
ノンフィクションとしての部分は、事件当事者になってみて報道の半分しか本当のことは書かれず後半分はおもしろくするための作り話だとわかった(175ページ)とか、「それまでは、よく取り調べで自分がやっていないことをやったと言う人がいるのを不思議に思っていたが、この調子で1カ月近く取り調べが続いたらと思うと、理解できないことはないと思うようになった」(148ページ)、「その連日のような取り調べで痛感したことは、自分の記憶力のなさである。1カ月前のことは日にちははっきりと思い出せないし、自分の行った行動の内容もはっきりと思い出せないのである」(177ページ)などの部分に読みでがあります。特に著者が海上保安官として取調をする側であったことを加味すれば、この実感の重みがわかると思います。そして、私には、著者が退職を迫られた際に、退職に抵抗すると、著者の処分によって他の人の処分が決まるといって迫られたという下り(182~183ページ)が胸に迫りました。言うことを聞かない人間に言うことを聞かせるため、おまえが言うとおりにしないと他の人に迷惑がかかると知人・友人を人質にとって強要するという役所の手口。海上保安庁に限らず、役所・役人の醜さ汚さをよく示している例だと思います。
他方、著者の動機部分の話は、外国人と外国政府の悪意を強調して排外主義を煽る論調が強く、ちょっと辟易します。
一色正春 朝日新聞出版 2011年2月28日発行