伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

空気の名前

2013-07-04 00:09:21 | 小説
 北アフリカのイスラム圏の港町モガドールに住む16歳の少女ファトマが寡黙になり窓から外を見つめ、港に佇み公衆浴場に通いながら妄想/幻想の愛を求め身を任せる姿を中心に、周囲の人々の思い・幻想・妄想を描いた小説。
 前半の「1 空気の手のなかで」は、もっぱら幻想/瞑想にふけり寡黙になったファトマの他者からの印象とファトマの幻想を描き、次第にファトマの幻想を色濃く描き出して行きます。具体的なことがら・行為の描写はほとんどないのですが、次第に濃密になるファトマの性的なファンタジーが官能的で、ドキドキしてしまいます。
 後半の「2 名前」は、尊大な男と初心な男の、どちらも独りよがりなファトマへの欲望と求愛、思い込みと、ファトマのカディヤに寄せる思いとカディヤの宿命を描いていますが、男たちの独りよがりな思い込みは、あまりにもわかりやすくて恥ずかしく、ファトマとカディヤの噛み合わなさとあわせて、収拾がつかない印象です。
 前半だけで終わったら、どこか落ちつかなさ、すわりの悪さを感じるだろうとは思いますが、それでもその方が余韻が残ってよかったかもしれないと思います。それは、前半のファトマの妄想が私には理解できない思いを持たせる故に不思議・不可解さと憧憬を感じるのに対し、男たちの妄想には品のない恥ずかしさだけを感じてしまうためかもしれませんが。


原題:Los nombres del aire
アルベルト・ルイ=サンチェス 訳:斎藤文子
白水社 2013年3月5日発行 (原書は1987年)
コメント
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