1970年代初頭からの最高裁事務総局による裁判官統制、青法協・裁判官懇話会所属裁判官に対する人事差別、その中での民主的志向の裁判官と出世志向の裁判官の軋轢を1つの軸に、原発訴訟をめぐる最高裁事務総局の画策と担当裁判官の対応をもう1つの軸として1970年代から福島原発事故直前までの裁判所業界を描いた小説。
出世に響くと再三言われ現実に出世コースから外され地方の裁判所支部を転々とさせられる露骨な人事差別を受けながら青法協・裁判官懇話会をやめず、丁寧な審理を続け周囲の人望も厚く、クライマックスの「日本海原発」差し止め訴訟で裁判長を務める村木判事を一方の極に、最高裁事務総局で局長の横滑りを続け最高裁の人事政策を牛耳ってきた誰が見ても矢口洪一そのものの「弓削晃太郎」を対極におき、それぞれに同調する仲間と敵対する人物を配置してドラマが展開していきます。前半の両者の激しい対立から1999年の「弓削」の裁判官懇話会での講演と人事の見直しへと進む後半まで、概ねドキュメンタリーに近い話で、青法協攻撃以降の裁判所の人事政策に関心を持つ人々には聞き知っているエピソードが多くあまり違和感は感じません。「弓削」の側近に人事積極見直しを図る架空の人物と思われる改心良識派「津崎」を置き、終盤で最高裁側の人事政策転換を描いているのは、私にはやや楽観的に過ぎる印象ですが。
原発訴訟に関しても、伊方原発訴訟、志賀原発訴訟中心ではありますが、詳しめに書き込まれています。原発訴訟の歴史的な流れとしても、原発訴訟をやってきた弁護士(って福島原発事故以前はそんなにいるわけではないですけど)の目から見て違和感はありません。下巻214ページから219ページの志賀原発1号機差し止め訴訟での妹尾弁護士の証人尋問は、1990年に私が助っ人で行った北陸電力の原子力本部の部長を務める技術者の尋問の証人調書をまとめたもので、ずいぶん懐かしい話だなぁと思いながら読みました。念のために当時の証人調書を引っ張り出してみましたところ、60枚の証人調書からとりまとめたものですから大幅に省略されていますが、ポイントとしてはかなり正確にピックアップなり要約されていて、現実に法廷で行われた尋問の紹介として充分な正確性を持っていると思います。
終盤は最高裁事務総局サイドにも理解を示し希望を見いだしているように見えますが、序盤・中盤ははっきり青法協・裁判官懇話会側に正義がある描き方で、この小説が産経新聞に連載されたことには驚きました。産経新聞、意外に度量が広いのかも。
黒木亮 産経新聞出版 2013年7月14日発行
出世に響くと再三言われ現実に出世コースから外され地方の裁判所支部を転々とさせられる露骨な人事差別を受けながら青法協・裁判官懇話会をやめず、丁寧な審理を続け周囲の人望も厚く、クライマックスの「日本海原発」差し止め訴訟で裁判長を務める村木判事を一方の極に、最高裁事務総局で局長の横滑りを続け最高裁の人事政策を牛耳ってきた誰が見ても矢口洪一そのものの「弓削晃太郎」を対極におき、それぞれに同調する仲間と敵対する人物を配置してドラマが展開していきます。前半の両者の激しい対立から1999年の「弓削」の裁判官懇話会での講演と人事の見直しへと進む後半まで、概ねドキュメンタリーに近い話で、青法協攻撃以降の裁判所の人事政策に関心を持つ人々には聞き知っているエピソードが多くあまり違和感は感じません。「弓削」の側近に人事積極見直しを図る架空の人物と思われる改心良識派「津崎」を置き、終盤で最高裁側の人事政策転換を描いているのは、私にはやや楽観的に過ぎる印象ですが。
原発訴訟に関しても、伊方原発訴訟、志賀原発訴訟中心ではありますが、詳しめに書き込まれています。原発訴訟の歴史的な流れとしても、原発訴訟をやってきた弁護士(って福島原発事故以前はそんなにいるわけではないですけど)の目から見て違和感はありません。下巻214ページから219ページの志賀原発1号機差し止め訴訟での妹尾弁護士の証人尋問は、1990年に私が助っ人で行った北陸電力の原子力本部の部長を務める技術者の尋問の証人調書をまとめたもので、ずいぶん懐かしい話だなぁと思いながら読みました。念のために当時の証人調書を引っ張り出してみましたところ、60枚の証人調書からとりまとめたものですから大幅に省略されていますが、ポイントとしてはかなり正確にピックアップなり要約されていて、現実に法廷で行われた尋問の紹介として充分な正確性を持っていると思います。
終盤は最高裁事務総局サイドにも理解を示し希望を見いだしているように見えますが、序盤・中盤ははっきり青法協・裁判官懇話会側に正義がある描き方で、この小説が産経新聞に連載されたことには驚きました。産経新聞、意外に度量が広いのかも。
黒木亮 産経新聞出版 2013年7月14日発行