伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

移行化石の発見

2015-04-04 18:38:15 | 自然科学・工学系
 進化論を実証するための生物種の進化の隙間をつなぐ化石(ミッシングリンク、移行化石)の発見をめぐる歴史と近年の情報について、さまざまな分野、特に魚と両生類、恐竜と鳥、哺乳類、クジラ、象、馬、人などの領域を横断して解説した本。
 もともとダーウィンの進化論は、現生種間での進化など論じておらず、現生種はいずれも共通の祖先から枝分かれして枝分かれした後にもそれぞれに進化を続けてきたと論じていたのだから、そもそも現在の種の間の中間種などは議論する必要もないのですが、進化論にそういった誤解を持つ人も少なくないので、そういったことから説き明かし、しかし、化石で見つかる過去の生物とそれを祖先とする現生種との間の移行化石が見つからないことはやはり進化論の弱みとなり得るので、それがこれまでどのように発見され、どのように同定され(少なくない発見が誤り/インチキとわかり)てきたかを執念深く論じています。
 この本は、進化論に反対するキリスト教原理主義者(この問題にはイスラム教原理主義者も同調)への反論という動機もあり、恐竜・鳥にしても哺乳類の祖先にしても象にしても馬にしても、そして人にしても、さまざまな多数の種が同時併存的に存在し進化し続け、そのほとんどが絶滅した結果現生種が生き残り繁栄していること、その進化も絶滅も極めて偶然的なものである(「優れた」「高等な」方向に進化が直線的に進むわけではない)ことが強調されています。終盤でまったく同じ大腸菌12群を20年にわたり4万4000世代以上培養を繰り返した実験(よくもまぁ飽きもせずというか、根気よく…)において大腸菌群はクエン酸塩を含む物質を付与されていたが、クエン酸塩を利用できるように進化した個体群は1群だけでその進化には10年以上、3万世代以上を要し、他の11群ではまったく同じ先祖と環境にもかかわらずその進化は生じなかったことを紹介し、進化は毎回同じプロセスをたどるものではないことが語られます。「この事実が物語っているのは、わたしたちヒト族はこうなるように運命づけられていたのではなく、レンスキーの研究室の細菌と同じく、偶発的なプロセスから生まれた珍しい産物であり、進化をもういちどやり直しても、おそらくふたたび生まれることはない、ということだ」(473~474ページ)というまとめが印象的です。
 かつて習った理科・生物での比較的少数で単純な種と系統とは比べものにならない近年の種と化石の発見状況を読み、驚き、勉強になりました。


原題:WRITTEN IN STONE
ブライアン・スウィーテク 訳:野中香方子
文春文庫 2014年11月10日発行 (単行本は2011年4月、原書は2010年)
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