伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

天空の蜂

2015-11-03 23:33:18 | 小説
 原発テロをテーマにしたサスペンス小説。
 映画を見て、今ひとつ犯人の動機がピンとこないので原作を読んでみました。
 錦重工業(こと三菱重工)が防衛庁に納品する初めてのフライバイワイヤ(操縦者の操作を機械的にではなく電気信号に変えて機器に伝達する)方式の超大型ヘリ「ビッグB」を遠隔操作で乗っ取った「天空の蜂」を名乗る犯人が、ビッグBを敦賀市にある高速増殖原型炉「新陽」(こともんじゅ)上空でホバリング状態にし、政府に対して全国の原発を使用不能にする(沸騰水型原発は再循環ポンプを、加圧水型原発は蒸気発生器を破壊する)ことを要求し、錦重工側では航空機事業本部の開発担当者がヘリの墜落阻止に向けて思案を重ね、新陽と政府側では犯人の裏をかく方策をもくろみ、警察は犯人捜しに奔走するというストーリーです。
 小説の1ページ目に犯人の名前は「ハチダ」と記載され、おやおやと思っていたら、その後「ハチダ」は犯人間で決めた符丁だとされて、やはり犯人は最後に明らかにされるのだなと思ったら、全体の3割足らずのところで唐突に犯人が明かされます。そこからは、読者の関心は、まぁもう一人の犯人の正体の問題はありますが、基本的には、犯行の動機と結末がどうなるかに絞られていきます。
 しかし、犯行の動機については、今ひとつピンときません。犯人2人とも、特に元自衛官の方に至っては、どうして犯行に至ったのかほとんどわからないという状態です。説明されている犯行の動機は、結局のところ、国民が原発について無関心でいることへの警告ということになっています。しかし、それについてさえ、犯人が、そしてエンジニア出身の作者も、原発の安全性を信頼するスタンスのため、犯人が希望する通りに展開した場合でも、超大型ヘリが墜落しても原子炉は安全、使用済み燃料プールに爆発物が落下した場合を考えると防護が弱いという結論になります。そうなると、予想される展開としては、「新陽」に超大型ヘリが墜落しても原子炉は破壊されず安全は確保されたということで政府は安全性を大宣伝、国民は原発の安全性への信頼を強めて原発反対運動は後退、ただテロの防護のため自衛隊を増強しろというだけになりそうです。そういう方向性を犯人と作者は希望しているのでしょうか。そうなるであろう日本の政府と原発推進勢力の、そしてマスコミと世論への不信を読者が読むことを作者が期待しているとすれば、やや期待しすぎに思えますが。
 この小説が出版された1995年11月の翌月にはもんじゅでナトリウム漏洩、火災事故が発生しました。もんじゅの安全性を主張したこの作品を誤りと見るべきか、この作品でもナトリウム火災は覚悟しているが大火災にはならないと説明している(389ページ)ので想定の範囲内とみるべきか、評価が分かれるところでしょう。


東野圭吾 講談社文庫 1998年11月15日発行(単行本は1995年11月)
コメント
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