脳はコンピュータなどの機械とは大きく異なり、ニューロン(神経細胞)による信号伝達は確率的なもので不確実であること、それにもかかわらず多くの場合にうまく機能するしくみを始め、脳の活動、特に(死んだ/実験用に統制された脳ではなく)生きて働いている脳の活動にはわからないことが多いこと、世間に流布されているわかりやすい説明の多くが誤りであることを解説した本。
わからないという話が多いところはモヤモヤ感が募りますが、例えば、記憶の曖昧さを説明しているところで、車同士で衝突した映像を見せた後、「車が激突(smashed)したとき、どのくらいの速さでしたか」と聞いた後に車のガラスが割れたかを聞いたグループではガラスが割れたと答える者が多く、「車がぶつかった(hit)とき、どのくらいの速さでしたか」と聞いた後に車のガラスが割れたかを聞いたグループではガラスは割れなかったと答えた者が多かった、しかし見せた映像には車のガラスは映っていなかった(89ページ)というエピソードは、目撃証言がいかに当てにならないかということを示していて、弁護士にはショッキングです。
AIが人間の脳とはまったく異なるという説明で、AIは人の認識には影響しない些細なノイズで不可解な答えを出すことが説明され、「止まれ」と書かれた標識の一部に小さなテープを貼ると「時速45キロメートル制限」とまったく異なる標識と認識した、パンダの画像に人にはほとんどわからないようなノイズを重ねると雄牛であると判定し、全体の色調を変えるとテディベアと判定したということを紹介し、AIによる自動運転の車などまだとても怖くて乗れないとか、AIによる病理診断などまだとても信用できないと述べています(152~153ページ)。
脳の話プロパーのところでも、認知症、アルツハイマー病の判定で脳の萎縮が重視されていますが、脳の萎縮の程度と認知機能の低下は必ずしも明確には対応していない、萎縮がほとんど見られない段階でも認知機能の低下がはっきり現れる人もいれば、大きな萎縮がありながら、日常生活が可能な人もいる(103ページ)とか、脳のある部分が壊れたときに機能代償が起こるときと起こらないときがあるがその理由はよくわかっていない、機能代償が起こるときもどこがその機能を代償するかはほとんど予測できない(105ページ)など、楽観材料にも悲観材料にもなる話題が満載です。
わかったという話に比べてまだほとんどわかっていないという話は耳に入りにくいですが、脳について多くの迷信/俗説が流布されていることを認識しておくことはたぶんよいことだと思います。
櫻井芳雄 岩波新書 2023年4月20日発行
わからないという話が多いところはモヤモヤ感が募りますが、例えば、記憶の曖昧さを説明しているところで、車同士で衝突した映像を見せた後、「車が激突(smashed)したとき、どのくらいの速さでしたか」と聞いた後に車のガラスが割れたかを聞いたグループではガラスが割れたと答える者が多く、「車がぶつかった(hit)とき、どのくらいの速さでしたか」と聞いた後に車のガラスが割れたかを聞いたグループではガラスは割れなかったと答えた者が多かった、しかし見せた映像には車のガラスは映っていなかった(89ページ)というエピソードは、目撃証言がいかに当てにならないかということを示していて、弁護士にはショッキングです。
AIが人間の脳とはまったく異なるという説明で、AIは人の認識には影響しない些細なノイズで不可解な答えを出すことが説明され、「止まれ」と書かれた標識の一部に小さなテープを貼ると「時速45キロメートル制限」とまったく異なる標識と認識した、パンダの画像に人にはほとんどわからないようなノイズを重ねると雄牛であると判定し、全体の色調を変えるとテディベアと判定したということを紹介し、AIによる自動運転の車などまだとても怖くて乗れないとか、AIによる病理診断などまだとても信用できないと述べています(152~153ページ)。
脳の話プロパーのところでも、認知症、アルツハイマー病の判定で脳の萎縮が重視されていますが、脳の萎縮の程度と認知機能の低下は必ずしも明確には対応していない、萎縮がほとんど見られない段階でも認知機能の低下がはっきり現れる人もいれば、大きな萎縮がありながら、日常生活が可能な人もいる(103ページ)とか、脳のある部分が壊れたときに機能代償が起こるときと起こらないときがあるがその理由はよくわかっていない、機能代償が起こるときもどこがその機能を代償するかはほとんど予測できない(105ページ)など、楽観材料にも悲観材料にもなる話題が満載です。
わかったという話に比べてまだほとんどわかっていないという話は耳に入りにくいですが、脳について多くの迷信/俗説が流布されていることを認識しておくことはたぶんよいことだと思います。
櫻井芳雄 岩波新書 2023年4月20日発行