伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

奴隷制の歴史

2023-11-08 23:18:59 | 人文・社会科学系
 奴隷制度の歴史を解説し論じた本。
 「はじめに 奴隷制とは何か」で奴隷制はほとんどすべての文明で存在し、今なお存在していると述べているので世界各地の現在に至る記述がなされているのかと思いましたが、アメリカでの南北戦争前までの奴隷制とそれに至るまでアフリカからアメリカに黒人奴隷を供給した大西洋奴隷貿易についての記述が中心で、その前史として古代以来の各地での奴隷制が比較的さらりと言及され、南北戦争以後の奴隷制については触れられていませんでした。
 大部分を占めるアメリカでの奴隷制についての解説では、歴史的事実の説明とともに有名でない個人の体験や声が挟まれて(私の感覚ではもう少し長く具体的な紹介だといいと思いましたが)個人の痛みを感じられるところがこの本の読みどころかと思います。
 黒人奴隷の中で、女性の方が過酷な状況に置かれていた(性奴隷としての側面のみならず、労働も男性奴隷が熟練労働であったり家事等の負担がなく労働時間が短い等恵まれた状況にあった)という視点に力点が置かれているように見えること、奴隷側の抵抗・反抗を意識的に拾い上げていることなどが、著者の姿勢を示し特徴的に思えました。そういう点からすると焦点を当てられてもよさそうなハリエット・タブマンが「メリーランドのハリエット・タブマン ( Harriet Tubman ) は、身体に障害を抱えた女性だったが、一九八四年に一人で脱走した。その後、南部に戻って他の七〇人以上の解放を支援した」(241ページ)の3行だけなのはちょっと意外でしたが。
  gafa というのは、ガラ( Gullah )人(サウスカロライナ州とジョージア州に居住するアフリカ系アメリカ人)の言葉では「悪霊」の意味なんですね(137ページ)。現代の金の亡者に昔ながらのふさわしい呼び名があったのは興味深い。奴隷制とは関係ないですが。


原題:WHAT IS SLAVERY?
ブレンダ・E・スティーヴンソン 訳:所康弘
ちくま学芸文庫 2023年8月10日発行(原書は2015年)

 

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