伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

クリスティーヌ

2024-03-13 23:01:55 | 小説
 シングルマザーの下で育った13歳のクリスティーヌが、母がクリスティーヌの認知を求めた際にやってきた欧州評議会の翻訳部統括を務める父ピエール・アンゴから性的な行為を求められ、困惑しながらそれに従い、精神的に不安定になり、父と離れたり会って関係を続けたり、他の男と関係を持ったり結婚したり別居したりしながら自らの経験を書く作家となった35歳までとその後を描く小説。
 近親姦あるいは性的虐待が子どもに与える被害の深刻さ・重大さ、そしてそれがシンプルなものではなく被害者の置かれる境遇と心理の複雑な様子を描こうとしているのはわかりますし、実際そうなのだろうと思います。
 しかし、近親姦の経験から男性を受け入れられなくなったというのはわかりますが、夫との性行為は緊張してできない一方で、行きずりの男を誘い込んであっさりセックスし、誰とでもすぐセックスするような日常と夫の元に戻るときを繰り返すクリスティーヌを、また父に対しても拒絶して長らく会わなくなったと思ったら自分から会いに行ってまた肉体関係を持つというクリスティーヌを、父の性的虐待の被害者だからとまるごと受け止めるのは、なかなか難しい気がします。
 作者が最終盤で経験してみないとわからない、世間の人は近親姦被害者を理解しないと声高に言う姿と合わせて、読者をどこまで付いてこれるかと挑発する作品のように思えます。そこまでしたくなる心情を持つに至る経験と経緯に哀しみは感じますが、同時に付き合いきれなさも感じてしまいます。


原題:Le Voyage dans l'Est
クリスティーヌ・アンゴ 訳:西村亜子
アストラハウス 2024年2月9日発行(原書は2021年)
メディシス賞受賞作

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