砂川事件で米軍駐留は憲法第9条違反として米軍基地敷地への侵入を重く処罰する刑事特別法は無効であるから米軍敷地内へのデモ隊の侵入を刑事特別法により起訴された被告人は全員無罪とした1審判決(伊達判決)を覆そうと画策するアメリカ駐日大使とその指示に従う日本政府高官と検察庁、そしてアメリカ大使と私的な交流を続ける田中耕太郎最高裁長官の動きを1つの軸に、ベトナムへの戦車輸送のための橋の通行に対して飛鳥田横浜市長が道路法に基づく車両制限令の積載重量オーバーを理由に不許可としたことに対してアメリカが圧力をかけてわずか2か月のうちに日本政府が米軍車両を車両制限令の対象外とする改正を行ったことをもう一例として、安保法体系と米軍の憲法体系への優越と、日本政府の対米従属のありさまを解説した本。
砂川事件への対応では、この本では田中耕太郎最高裁長官の言動に重点を置いていますが、私の感覚では、マッカーサー大使から1969年3月31日(伊達判決の翌朝)午前8時に最高裁に跳躍上告すべきだと言われた藤山外相が即座に全面的に同意すると言い午前9時からの閣議で上告を承認するよう促したいと述べた(16~21ページ)とか、最高裁での弁論で弁護側から駐留米軍が台湾海峡事件の際に出動したことを指摘したのに対してアメリカのハーター国務長官が台湾海峡作戦の際に日本の基地は実際に使われたが検察は「第七艦隊は西太平洋中で同艦隊が利用できるさまざまな基地を活用した」と述べることができるとあいまいな表現でごまかすことを示唆しこれを受けた最高検は最高裁で「外務省を通じて米大使館に問い合わせたが、『合衆国艦隊の一部が一九五四年五月南支那海に、一九五七年台湾海峡にそれぞれ存在したが、これらの艦艇には安保条約にもとづいて日本またはその周辺に配置された艦艇を含まず、またこれらの艦艇は日本の海軍施設を基地として使用しなかった』むねの回答に接した。すなわち日本基地より出動したことのないことはあきらかである」と虚偽の弁論した(106~113ページ)といったあたりの方が驚きでした。安保改定で対等の条約になる、重要な変更には「事前協議」がなされると国民には言いつつ改定前と同様の権利を米軍に保証し核持ち込みは事前協議の対象としないなどの密約を交わしていたこととあわせ、自民党の政治家たちのアメリカへの追従ぶりは、文字通り売国奴と呼ぶべきものだと思いますし、検察官というものはこれほどまでに平然と嘘の弁論ができるのだということがよくわかります。
砂川事件に関して検察は最高裁では「刑事特別法2条は(軽犯罪法ではなく)住居侵入罪の特別法にあたりこれと比較して刑罰は重くない」と主張したようです(87ページ)。そうだとすれば米軍を特に守っているということではなくなってこの事件では憲法判断の必要性がなくなるとも言え、ある意味で実務的には工夫の跡が見られるおもしろい論点ではあります。しかしそれなら検察は最初から住居侵入罪で起訴すべきだったわけで、1審で無罪になったから慌ててそれを言うのでは説得力を持ち得ません。
砂川事件最高裁判決に焦点を当てた部分と、安保改定を中心とする日米政府の交渉と密約、日本政府の国会答弁等の変遷、アメリカの秘密指定解除文書の発見の経緯などを論じる部分が、時間的関係や論理的な関係が今ひとつ整理されずに並びダブりもあって、全体としての「雰囲気」は統一されているものの、論述としてはやや散漫な印象が残りました。時代背景や遡った説明を省略して秘密指定解除文書関係に絞り込んだ方が迫力があっただろうと思います。
吉田敏浩、新原昭治、末浪靖司 創元社 2014年7月20日発行
砂川事件への対応では、この本では田中耕太郎最高裁長官の言動に重点を置いていますが、私の感覚では、マッカーサー大使から1969年3月31日(伊達判決の翌朝)午前8時に最高裁に跳躍上告すべきだと言われた藤山外相が即座に全面的に同意すると言い午前9時からの閣議で上告を承認するよう促したいと述べた(16~21ページ)とか、最高裁での弁論で弁護側から駐留米軍が台湾海峡事件の際に出動したことを指摘したのに対してアメリカのハーター国務長官が台湾海峡作戦の際に日本の基地は実際に使われたが検察は「第七艦隊は西太平洋中で同艦隊が利用できるさまざまな基地を活用した」と述べることができるとあいまいな表現でごまかすことを示唆しこれを受けた最高検は最高裁で「外務省を通じて米大使館に問い合わせたが、『合衆国艦隊の一部が一九五四年五月南支那海に、一九五七年台湾海峡にそれぞれ存在したが、これらの艦艇には安保条約にもとづいて日本またはその周辺に配置された艦艇を含まず、またこれらの艦艇は日本の海軍施設を基地として使用しなかった』むねの回答に接した。すなわち日本基地より出動したことのないことはあきらかである」と虚偽の弁論した(106~113ページ)といったあたりの方が驚きでした。安保改定で対等の条約になる、重要な変更には「事前協議」がなされると国民には言いつつ改定前と同様の権利を米軍に保証し核持ち込みは事前協議の対象としないなどの密約を交わしていたこととあわせ、自民党の政治家たちのアメリカへの追従ぶりは、文字通り売国奴と呼ぶべきものだと思いますし、検察官というものはこれほどまでに平然と嘘の弁論ができるのだということがよくわかります。
砂川事件に関して検察は最高裁では「刑事特別法2条は(軽犯罪法ではなく)住居侵入罪の特別法にあたりこれと比較して刑罰は重くない」と主張したようです(87ページ)。そうだとすれば米軍を特に守っているということではなくなってこの事件では憲法判断の必要性がなくなるとも言え、ある意味で実務的には工夫の跡が見られるおもしろい論点ではあります。しかしそれなら検察は最初から住居侵入罪で起訴すべきだったわけで、1審で無罪になったから慌ててそれを言うのでは説得力を持ち得ません。
砂川事件最高裁判決に焦点を当てた部分と、安保改定を中心とする日米政府の交渉と密約、日本政府の国会答弁等の変遷、アメリカの秘密指定解除文書の発見の経緯などを論じる部分が、時間的関係や論理的な関係が今ひとつ整理されずに並びダブりもあって、全体としての「雰囲気」は統一されているものの、論述としてはやや散漫な印象が残りました。時代背景や遡った説明を省略して秘密指定解除文書関係に絞り込んだ方が迫力があっただろうと思います。
吉田敏浩、新原昭治、末浪靖司 創元社 2014年7月20日発行