伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

できる大人の「要約力」 核心をつかむ

2023-07-07 20:01:27 | 実用書・ビジネス書
 文章を読むときになんとなく読むのではなく、筆者の主張の根幹とその根拠・理由を中心とした要約をして思考の軸を獲得する習慣をつけ、それを他の文章を読んだり会話をする際にその視点を活用しようということを提唱する本。
 後半では、その実践として杉原泰雄の「憲法読本 第4版」の地方自治に関する文章(94~96ページ)、庵功雄編著の「『やさしい日本語』表現事典」からの外国人等に対する標識等の表示に関する文章(142~146ページ)、「The Asahi Shinbun GLOBE+」からの難民支援NGOの試みに関する文章(168~171ページ)を課題文として、小刻みに要約のプラクティスの過程を示しています。この要約の過程自体は、繰り返しが多くくどい感じがしますが、要約の技法自体よりも、課題文の選択に著者の立ち位置が見えて、そちらに少し共感しました。


小池陽慈 青春出版社 2023年6月5日発行
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薔薇のなかの蛇

2023-07-06 23:26:57 | 小説
 イギリスのミステリーサークルの遺跡近くの古い屋敷「ブラックローズハウス」に当主のオズワルド・レミントンのバースデーパーティのために招集された長男のアーサーは、そこで弟のデイヴ、妹のアリスとアリスが連れてきた友人リセ(水野理瀬)を始め多数の招待客とともにブラックローズハウスに逗留することになったが、直前に起こった近隣の遺跡に残された切断死体を話題にしているうちに、間近でも切断死体が発見されて警察官が殺到し、オズワルドが「聖なる魚」を名乗る者から脅迫状を送られていたことが発覚して招待客は足止めされ…というミステリー小説。
 最初は陰惨なミステリーで始まりその流れが中盤まで続きますが、最後は枠組みが大きくなりすぎてミステリーというイメージはどこか消え去ってしまい、ミステリーとしてよりも、水野理瀬というキャラクターの魅力で読ませる作品だと思いました。
 水野理瀬は、私は初見でした(恩田陸作品で水野理瀬が登場する作品は読んでいませんでした)が、文庫版解説によれば作者の作品の相当数に登場していて、「理瀬シリーズ」と呼ぶべき作品群があるのだそうです。私もこの魅力的なキャラのシリーズを少し読んでみようと思いました(さっそく長編2冊予約入れました)。


恩田陸 講談社文庫 2023年5月16日発行(単行本は2021年5月)
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52ヘルツのクジラたち

2023-07-05 21:13:04 | 小説
 母と義父から虐待され続けて来た三島貴瑚が、母が嫌っていた祖母と幼い頃に暮らしていた大分県の海辺の町に移り住み、そこで母に虐待され続け同居している祖父からも無視され続けている言葉を口に出せない13歳の少年と知り合い、心を通じ合わせて行くという小説。
 表題は、ふつうのクジラの歌声よりも高周波数のためにその声が他のクジラには聞こえず届かない孤独なクジラを自らと、自分と同じ境遇の者になぞらえたもの。
 こういうと、同じ体験をした者同士が理解し合えるとか、傷をなめ合うというような話のように聞こえますが、この作品の真骨頂は、虐待から解放された主人公が、しかしその後大事な人の発していたメッセージを聞くことができずに傷つけてしまう、人は意図せずに他人を傷つけてしまう、悪意がなくても人を傷つけてしまうし、容易に他人に聞こえないSOSを聞こうとしていても気づかずに放置してしまう、その経験と後悔の過程の描写にこそあるのだと思います。
 とてもほろ苦く切ないお話です。


町田そのこ 中央公論新社 2020年4月25日発行
2021年本屋大賞受賞作
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崩れる脳を抱きしめて

2023-07-04 23:17:26 | 小説
 脳内に手術不可能な疾患を抱え富裕層向けの療養型病院「葉山の岬病院」の特別室でいつ訪れるかもしれない死に怯えつつ日々を過ごす28歳の女性患者と、アンティークショップを経営していた父親が従業員に金を持ち逃げされて巨額の借金を背負いヤクザまがいの取立屋に追われたあげく母に離婚を求めた後失踪し1年後に山で滑落死したことにトラウマを持ち借金を返すために金儲けにこだわる歪んだ思考を持つ広島の大学から研修に訪れた研修医碓氷蒼馬が、お互いの境遇について知り、話し合ううちに惹かれて行くが、碓氷の側のためらい、相手の気持ちを測りきれない不安と戸惑い、女性患者側の言動の不審さなどから告白できないうちに研修期間が終了し、碓氷は広島に戻るが、その後思いがけない事態が展開し…という恋愛ミステリー小説。
 文体、分量、謎の程度など、軽く読むのにほどよい加減で、エンタメとして手頃な読み物です。
 ただ、弁護士の立場から言わせてもらうと、自分が襲われる危険を感じながら、遺言を確実に実行させたいと考える人が、弁護士事務所で遺言を作成してそれを自分で持ち帰るというのは考えられません。遺言書を奪われる可能性を感じるなら、遺言書は弁護士に預ける、さらに言えば公正証書遺言にするのが確実です。そうしちゃったらミステリーとしておもしろくないということかもしれませんが、ちょっと非現実的に感じました。
 あと、プロローグの「もうすぐだ。もうすぐ、僕の前から彼女を消した犯人に会える」(5ページ)は、不適切で、その場面にたどり着いて、これはないだろうと思いました。


知念実希人 実業之日本社文庫 2020年10月15日発行(単行本は2017年9月)
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新社会人のための法律知識 働くときのギモンQ&A

2023-07-03 23:09:47 | 実用書・ビジネス書
 会社で働くに当たって新人が持つ不満や疑問について、法律的な観点から説明した本。
 基本的には会社側の業務秩序維持を優先し、学生気分を払拭して社会人として心得よという姿勢での回答が多くなっています。
 労働者側の弁護士の視点で見ると、Q1で問題とされているサイトの募集条件(やハローワークの求人票の記載)と入社時に示された労働条件が違う場合については、募集されていた社員・職種区分の有無・異同や入社に至る経緯での説明等によって合意・適用される労働条件が変わってくると思いますが、それについて論じることなく「会社にだまされたのではないか、と心配するよりも、人事担当者に率直に聞いてみることをお勧めします」(20ページ)というのはいかがなものかと思います。またQ3の書きぶりでは、「就業規則の内容は、労働契約書の内容よりも優先されます」(25ページ)とされているだけでは、労働契約書の方が就業規則よりも労働者に有利な場合でもそうなのかと誤解されかねませんし、懲戒解雇とは別に普通解雇があることも説明されていないなど、労働法の本としては不親切に思えます。
 基本的に、怪しいところは会社側の目線で書かれていますので、この本の線で行動していれば会社から睨まれにくいという意味では安全かなと思います。それを行動原理として息苦しくない人はそうすればいいかと思いますが、それでは不満があり疑問を生じた人は、労働者側の弁護士によく相談してみるといいと思います。


千葉博 経営書院 2023年2月1日発行
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不倫 実証分析が示す全貌

2023-07-02 20:19:11 | 人文・社会科学系
 どれくらいの人が不倫をしているのか、誰(どういう人)が不倫をしているのか、誰(どういう人)と不倫をしているのか、不倫関係はどの程度続きどのように終わるのか、不倫を責める人はなぜどのような動機で責めるのかなどについて、既存調査のレビューと、著者らが行った調査の分析に基づいて論じた本。
 サブタイトルにあるように、また著者が繰り返し言及しているように、著者らがNTTコムオンラインに登録しているモニター6651人に対して2020年3月に行った結婚生活と不倫に関する調査がこの本の中心的な根拠となっています(50ページ)。それにもかかわらず、この調査の質問紙も回答結果の直接の集計もどこにも掲載されていません。学者さんが独自調査を行いそれを最重要の根拠材料として、「実証分析」と銘打って書くのにそれはどうか、と私は思います。そういう姿勢を見せられると、書かれているいろいろな数字をどの程度信頼してよいのか心許なく感じます。著者が行った別の「実験調査」のサンプルの調整の説明で、「対象者は年齢・性別・婚姻状態・居住地を平成27年に行われた国勢調査の割合を再現するような形で収集した。これはつまり、例えば30~34歳の女性で北海道に居住している人が日本の全体人口の2%を占める場合、この属性の人が全体の2%になるように回収することを指す」としています(58ページ)。私はこれを見て目を疑いました。「30~34歳の女性で北海道に居住している人」が日本全体の2%というのはおよそあり得ません。実際に調べてみると2022年10月1日現在で119千人で日本の総人口124974千人の0.095%です。「例えば」というのだから架空の話でもよいではないかというのかもしれませんが、およそ数字で仕事をしている学者が統計に基づく実証分析をしているときに、このようなまったく外れた数字(20倍以上違う)を書くものでしょうか。
 不倫について、そうだろうと思うことも意外なことも取り混ぜていろいろ書かれていて興味深いところではありますが、データについての取扱姿勢に疑問を持ってしまったので、なんだかなぁと思ってしまいました。


五十嵐彰、迫田さやか 中公新書 2023年1月25日発行
コメント (2)
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ChatGPTの衝撃 AIが教えるAIの使い方

2023-07-01 11:31:15 | 実用書・ビジネス書
 ChatGPTで何がどの程度できるか、ChatGPTをどう使うかについて書いた本。
 著者自身が、この本の大半はChatGPTに書かせたと述べています(はしがき3ページ、あとがき189ページ)。
 それを読んだ感想としては、ありがちなパンフレットの説明文、文章力やオリジナリティに欠けるあまりできのよくないビジネス書という印象です。下手とは言えなくても、平板で熱意に欠ける興味を惹かれない文章で、平易であるにもかかわらず眠気を誘われました。話題ばかり聞いて実物に触れていなかった私には、率直にいえば、何だこの程度のものかというところです。
 著者は、ChatGPTを使いこなすべきというのですが、ChatGPTの作成した文書を元に修正するというのは、私にはあまり魅力を感じません。そのまま使うのなら労力の節約になりますが、それははっきり手抜きですし、そのまま使うクラスの文書なら自分で書いてももともと大した手間でもないと思います。他人が作ったテキストの修正というのは、実はけっこう手間がかかり、下手な元原稿ならない方がましということもありますし、一応完成した原稿があるとその原稿にどこか縛られてしまいます。きちんとした文書を作るつもりなら、私は最初から自分で書いた方がいい物ができると思っています。ChatGPTが下書きした原稿を元に自分のオリジナリティを加えていい文章を作れる人は、すごく強い意志とかなりの能力がある人に限られるのではないかと思います。大半の人は、ChatGPTに下書きをさせるなら、結局はChatGPTに使われるというか、面倒になってそのまま使い手抜きしつづけることになると予測します。
 ChatGPTが苦手なことに「倫理的・法律的な問題への対応」が含まれるそうです(26ページ)。そうだとすると、私たち法律家業界は安泰ということになりますし、契約書の作成とレビューをやらせているところ(113~119ページ)をみると、弁護士の目からは使い物にならないなとは思います。そこは今後の改良や使う側のやり方にもよるのでしょうけれども、先ほどの文書作成の場合と同じように、私は仕事に使いたいとは思えないですね。


矢内東紀 実業之日本社 2023年6月5日発行
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