「若冲」(辻惟雄、講談社学芸文庫)の前半「伝記と画歴」を読了。ページ数にして半分であるが、図版部分が管理多いので、文章としては3分の1位であろうか。
第一期から第四期まで、作品の年代確定や作品論の触りもあり、これだけでもおおいに勉強になる。辻惟雄の若冲へのこだわりの出発点であろう。
私は若冲の彩色された少しの隙も無いような稠密な彩色画も好きである。日本の絵画史上でも稀有の存在であると思う。だが、同時に水墨画にはもっと牽かれるものがある。特に第四期の米斗翁時代の水墨画に惹かれる。
「蔬菜図押絵貼屏風」「五百羅漢図」「果蔬涅槃図」などが私の好みである。
対象を大きく拡大して大写しに描く彩色画から背景を取り払ってさらに大写しにしたような「蔬菜図押絵貼屏風」だけでなく、群像図ともいうべき「五百羅漢図」「果蔬涅槃図」に若冲の特質が現われているように思っている。
若冲という人、人との交わりが不得意で絵画の世界に没頭したというが、社会を見つめる目もきちんとしていたと思うのは私だけだろうか。
市場全体のもめ事を粘り強い交渉で処理したという記録が見つかったということを「若冲」(狩野博幸、角川ソフィア文庫)の212頁以降で知った。処世・社交をキチンとこなし、人間の作る組織を切り盛りする能力にもたけていたということである。これらの作品からも想像できないだろうか。