Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

「異形のものたち」から

2021年06月06日 22時21分47秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等

 「異形のものたち 絵画の中の「怪」を読む」(中野京子、NHK出版新書)で取り上げてある絵画作品で一番私の心に残ったのは、ドイツの画家、カスバ―・フリードリヒ(1774-1840)の「ブナの森の修道院」。聖書の物語や神話に基づいた1700年代までの作品に比べると、やはり19世紀ともなると、象徴的な風景画などが、現代に通じているようだ。フリードリヒの作品は「雲海の上の旅人」(1818)と「氷の海」(1823-24)しか知らず、この作品がフリードリヒが世に認められた最初の作品ということになっている。カスバ―・ダーヴィド・フリードリヒはドイツの強烈な愛国思想家であったらしいが、その思想は別にして作品には惹かれる。なお、ネット上のウィキべディアでは「ブナの木の‥」ではなく「樫の木の‥」となっており、どちらが正しいのかは私にはわからない。
 この作品、現実の風景であるらしいが、画家の心象風景に沿って大きく変換されていると思える。解説では次のように述べている。
「細く白い三日月が空に浮く。葉をすべて落とした裸形のブナの木々は、ねじくれた無数の腕を揺らしながら低い呻き声をもらす。石造りの巨大な修道院の一部だけが、本体から引き剥がされて立ちつくす。中央のステンドグラスはとうに壊れて跡形もない。飾り枠も風雪に耐えきれず折れ曲がり、ところどころ欠けている。画面前景、暗闇にいくつもの墓標(小さな三角屋根付き十字架)が散らばる。新たに土も掘り返され、黒い修道僧たちがうごめいている。埋葬を終えたところらしい。とはいえ、彼ら自身も生者であろうはずがない。‥この建物は、フリードリヒの生まれ故郷にあったエルデナ修道院だ。‥その遺跡を彼は別の、もっと荒涼とした、もっと幻想的でゴシック・ロマン的な風景の中へと移し替えた。‥色のない世界に孤独で荒廃した身をさらす修道院は、フリードリヒ自身の傷ついた姿そのもの‥。」
と記している。
 少し過剰な思い入れもある記述だが、「死」がにおい、そして画家の心象を自由に想像させていることには異論はない。私は、背景の白夜を思わす鈍い光が、過去と現在の作者を行き来させるトンネルの出入口の象徴に思える。このトンネルを行き来する頻度が高くなると、精神のバランスを危うくさせる。記述のように黒い人影は幻想の死者である可能性は高い。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。