※「星野道夫さんまとめ」内に追加
語り:蒼井優
【内容抜粋メモ】
●北米最高峰の山 デナリ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/db/a08db2173907ded006b6419b993854ac.jpg)
その下に広がるアラスカの原野を見つめる青年 星野翔馬さん
父は写真家 星野道夫さんです
彼は幼くして父を亡くしています
アラスカは、父が命をかけて仕事に打ち込んだ場所です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/e3/d9b1ad0899b09ef324632900fae494a8.jpg)
翔馬さん:
21歳というところが自分と照らし合わせてみて
自分が21歳の時に何をやってたかなって考えた時に
大学入学して、普通にキャンパスライフを送っている中で
父親が21歳の時は、全く別の世界でシシュマレフに行く決断をしたのがすごく印象的で
●道夫さんはアラスカを舞台に多くの写真を残した
夕日に照らされたグリズリー
ブリーチングをするザトウクジラ
極北の厳しい自然とその中で懸命に生きる命
たくましくも儚い命の輝きを写し出しました
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●道夫さんは数々のエッセイも残している
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/33/054ceecad77467ab89c857edf82bc4f7.jpg)
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『長い旅の途上』
「私は厳しい自然条件の中で ひたむきに生きようとする アラスカの生命が好きである
それは 強さと脆さを秘めた 緊張感のある自然なのだ」
1996年 道夫さんは取材中に熊に襲われて亡くなります
その時、翔馬さんは1歳半 道夫さんの記憶はありません
22年の時を経て、父に出会う旅に出たのです
●翔馬さんは、23歳の大学生 これまで父の本を読もうとしなかった
【千葉県 市川】
翔馬さん:
なんだろう 今思うと、無意識的に見て見ぬふりじゃないですけれども
なるべく遠ざけてたのかなっていう気はしなくもないですね
自分と関係があるっていう認識がすごく薄かったから
それで、読もうっていう機会がなくて
もうあくまで他人の本っていうイメージだったから
全然読もうっていう気持ちにならなかった
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/94/88463df9a4e27ed7e31880eeffff8ba3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/ce/758fef86758455024cdce02d7b9f8ab2.jpg)
●道夫さんの写真を管理する事務所
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/c5/6ba993f187d4ce9f45fc6abce8838529.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/e0/348bd76c005ee3b2cc40315e46334468.jpg)
22年間、そのフィルムを守ってきた道夫さんの妻・直子さん
翔馬さんに父のことを知ってほしいという思いはありましたが伝えることができないでいました
直子さん:
亡くなったのが1歳半の時だったんですね
しばらくして「あれ、お父さん帰ってこないね」って言ったことがあって
まだ小さかったので、多分、何が起こっているのか分からなかったと思うんですね
その時「ちょっと天国に行ったんだよね」って言って
理解できるかどうか分からなかったんですけど
「だから、もっともっと大きくなって、向こうで会うまでは、今は会えないんだよ」
っていうことを言ったんです
そしたら「そっか」って、それきりお父さんの話を何もしなくなったので
私もそういう話し方でよかったのかなって
でも、それしか私には話が出来なかったので、そんなこともあって
ずっと、お互いそのことに触れなかったっていうか そんなことがありましたね
●転機は2年前
就職活動を控えた翔馬さんは、本当にやりたいことが見つからず悩んでいました
ふらりと入った道夫さんの写真展で、ひとつの言葉が胸に刺さりました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/7b/08c437a7acfa584249cfcb0f49468620.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/ab/dd855e9e03aec16ffa37549a1983957c.jpg)
「短い一生で 心魅かれることに 多くは出合わない
もし見つけたら 大切に・・・大切に・・・」
翔馬さん:
父親の見てきたアラスカの目線を見てみたいな
今のこの22歳の大学卒業前の、就職する前のタイミングと
定年した後にもう1回アラスカに行って風景を見るっていうのは
全く違うのかなっていう考えもあって
アラスカ、お父さんに真剣に向き合うようになった
●父が心惹かれたアラスカへ
最初の目的地は、アラスカの西の果て
飛行機を乗り継ぐこと3回 40時間の道のりです
そこは、45年前に道夫さんがアラスカを初めて訪れた土地です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/1e/01f642ca2e66576653211fe320f8b888.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/cf/20ad116378de9249f1760539f52bcbff.jpg)
●きっかけは1枚の写真
大学生だった道夫さんが、神田の古本屋で偶然見つけたものです
なぜこんな荒涼とした場所に人が暮らしているんだろうか 心を奪われました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/e7/20ce38e4e1503ea98543acbee7e0dec4.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/00/fdcda48812e224706c14a8d2bb747230.jpg)
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【アラスカ州 シシュマレフ】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/3d/b90828214faf0dd667bdb9f7654d9daf.jpg)
翔馬さんは、ここで会いたい人がいました
クリフォード・ワイオワナさん
大学生だった道夫さんを自宅に泊めてくれた人です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/12/3cddda8232a9c22a4f16d0d61d94598b.jpg)
シシュマレフは、人口およそ600人のエスキモーの村
今もアザラシやカリブーの狩猟が暮らしの根幹にあります
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/40/507343b0b96b6e37253060789c1e77d4.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/d8/a48123db513734e97f69fee925aa82e5.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/56/17e10d96546f5e509397a435d61e2e4c.jpg)
●クリフォードさんを訪ねる
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/cc/1567905d42973ed5b7d79df86e768ff4.jpg)
(今も元気ってびっくり!
そっかあ まだ息子さんが22歳なら、全然元気なはずだ
ク:君は翔馬かい? なんてこった! 会えて嬉しいよ
し:僕も会えて嬉しいです
ク:お母さんはどう?
し:元気です
ク:
ワオ! 君はお父さんと違って英語が話せるねw
君のお父さんが来た時、彼は全く英語が話せなかった
し:ジェスチャーだけですね
ク:あそこに彼の写真があるよ あれは2回目の時 彼はここに3回来てると思うよ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/df/7c0846febd7eeaa3b5e8ca61ae918d90.jpg)
●村長への手紙
写真を見て、どうしてもアラスカに行きたくなった道夫さんは、村長に手紙を出しました
「あなたの村の写真を見ました 村の生活にとても興味があります
仕事は何でもしますので、どこかの家においてもらえないでしょうか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/4c/1d8d84fc346d166ee1647725d47b0a6f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/19/49ad778a95b5f80693fb3d7664426f16.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/bf/9bd1a2e53b1b938e2a0b4b4a0977a8ab.jpg)
手紙を受け取ったのは、当時村長だったクリフォードさんでした
今も道夫さんを泊めた家に孫やひ孫たちと暮らしています
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/75/377a6781aeb1b1ce101d8753000bbc41.jpg)
●道夫さんはここで3ヶ月間、村の人たちの手伝いをして過ごした
小さな子どもたちの子守りをしたり、アザラシの干し肉を作る手伝いもしました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/ec/933e5f2b81f76226a73e1c08cfb9c369.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/d0/d0a29fe74fe55393e8d269f4a8132319.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/90/384ff9aeaff92704010fc6069ab9a3da.jpg)
クリフォードさんがその場所に連れていってくれました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/ad/46c225257bc60725aa7c0e18c57f98f4.jpg)
ク:
肉はここに干すんだよ 君のお父さんもよく手伝ったんだ 肉を吊るしてね
俺の母親、妻を手伝って働くんだ 肉をひっくり返してね
片方が乾いたら、もう片方も乾かすんだ 毎日君のお父さんは手伝ってくれた
し:父は働き者だったんだね
翔馬さんは、かつての道夫さんと同じように村の人たちとふれあいました
この日は結婚式
100人近くの人たちが集まり、若いカップルの門出を村をあげてお祝いします
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/17/1c46d540f25ad53a4a261f178ce45c4f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/a5/b5a3c57054104ea0c7e267a35e101bf2.jpg)
式が終わると声をかけてくれた人がいました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/f6/7db3b532883549ca635a9b61420a005d.jpg)
「彼の息子なの? とてもハンサムね 彼に似てるわ こんにちは 私はシャレンよ」
し:父に会ったことがあるんですか?
「クリフォードのところでね」
し:どんな人でした?
「楽しい人 彼はとてもフレンドリーな人だった」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/14/287192cedb30f8493e57994c855ffa80.jpg)
「こんにちは エルシーよ 私は何年も前にあなたのお父さんに会ったわ」
し:父が若者だった時?
「彼が最初に来た時 そろそろ行かないと ただあなたに挨拶したかったの
滞在を楽しんで 会えてよかった」
40年以上経った今も、多くの村人が道夫さんを覚えていました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/4d/e043e3bc8d62d762b6edbf412bac9d40.jpg)
●クリフォードさんの息子たちとアザラシ猟に同行
アザラシが呼吸をするために水面に顔を出す瞬間を狙って銃を撃つ 受け継がれてきた生業です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/f6/12a9c43b186749a86b483a12c0d434ef.jpg)
「やったぞ!」
(血に染まる海 目を少し背けながらも、尾を触る翔馬さん
し:一瞬でしたね
アザラシを解体するのは、昔から女性の仕事と決められていました
(ナイフで器用に切り裂いていく これは直視するのは難しい・・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/67/16dda6d6b1e6d49d49053d37a653052c.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/34/4800228dbf911bb07901c87be14b6e0c.jpg)
「そこのフックを取って 肉をあちら側へ引っ張ってくれる?
重いでしょ もう大丈夫よ 離していいわ ありがとう」
道夫さんもこの村でアザラシの解体を手伝いました
「私たちが生きていくということは
誰かを犠牲にして 自分が生き延びるという 日々の選択である
生命体の本質とは 他者を殺して食べる事にある
それは近代社会が忘れていった 血のにおいであり 悲しみという言葉に置き換えてもいい
その悲しみをストレートに受け止めなければならないのが 狩猟民なのだ」
●夕食は解体したばかりのアザラシのスペアリブ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/f2/e3761d64c2d87c5d3453d98d6d2ac716.jpg)
翔馬さんは初めて食べます
ク:俺たちがエスキモーの食べ物を食べる時はフォークを使わないんだ
し:手だけ? OK アザラシ美味しいよ
ク:時々甘いピクルスと一緒に食べるんだ あと生の玉ねぎと食べても美味しいよ
し:アザラシは特別なご飯ですか?
ク:いいや
し:アザラシを食べる時どんな気分?
ク:獲れたら食べるだけだよ 何もスペシャルじゃない
翔馬さん:
やっぱりこれが自分たちのあるべき姿なんだっていうのはすごく伝わってきた
ひと言で言うとそういう感じかな 生きる強さなのかなって ここで生きる強さ
それがアイデンティティとしての強さなのかなと強く感じましたね
●出発の朝
クリフォードさんと握手してハグ
ク:またいつかだな
し:またすぐ帰ってくるよ
ク:次に来るときは暖かい服で来いよ
(なぜだか涙が出る
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/4c/535c9e6f5915bb6f22fc74a19f868c65.jpg)
●南東アラスカの港町 シトカ
「アラスカで最も美しい町」と道夫さんは書いています
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/a0/26de38e6532c3b6605f6726d567bc2e1.jpg)
道夫さんは、この町に住む先住民の男性と親友になりました
ボブ・サムさん! すごい! エッセイの中の人たちが今も生きている
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/40/4ca531fa914aa23d0f45a027d53a2d0e.jpg)
し:父と出会った時のことを覚えていますか?
ボブ:
この場所が彼と最初に出会った場所なんだ この角でね
彼に話したひと言目が“ワタリガラスの巣を見に行こう”
彼はそれを聞いてとても喜んでいた
●ワタリガラス
アラスカの先住民の神話では、あらゆるものに魂を与えたとされています
道夫さんはこの鳥に強く魅かれていました
『森と氷河と鯨』
「ワタリガラスの神話 そのことが気にかかるようになったのはいつの頃からだろう
クリンギット族 ハイダ族にとどまらず
アサバスカンインディアン そしてエスキモーに至るまで
なぜワタリガラスが人々の創生神話の主人公なのか
つまり かつて人々はどんな目で世界を見ていたのかを知りたかったのである」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/53/471a23e2c4bbc70b6ac7cf3906f43037.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/35/fd4d3f3457f0777164579e1fa88ee94f.jpg)
●クリンギット族の墓守りのボブさん
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/53/4c70d849513e2f72482addb927ceb831.jpg)
ワタリガラスの神話を受け継ぐ語り部です
道夫さんにワタリガラスの巣を見せた場所へ連れて行ってくれました
ボブ:
彼が言うにはワタリガラスの巣を見られる人は少ない それらは隠されているから
だから彼はとても喜んでいた その瞬間から私たちは良い友だちになったんだ
ワタリガラスの神話を記録する計画があったんだ
他の先住民の元へ旅をして、長老たちの声、ワタリガラスの神話、道筋を記録したかった
最初、それは道夫の夢だった
ワタリガラスが人々に何を運んだか見つけることが
そして彼が私に夢を話してくれた時、それを聞いてとても嬉しかった 私も同じ思いだったから
●道夫さんに語ったというワタリガラスの神話
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/36/7c2943c9a2e5540b0ab9f86e56461177.jpg)
それは、はるか昔にさかのぼる
その頃、まだ人間は自然と話せた そして動物は人間と話せた
ワタリガラスは海へ行った
彼が歩いている時、大きな炎が出てくるのを見た 海の中から
そこには若い鷹がいた
ワタリガラスは言う 「助けてくれないか?」
そして鷹は振り向いた 「私に何をして欲しい?」
「あなたにあの炎を取ってきてほしい
それを取ってきた時、あなたはこの世界の全ての人のために役に立つ だから勇敢であれ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/4a/0e9e9469653eb25afc04b575dc352959.jpg)
鷹は炎に焼かれながらも、それを持ち帰った
ワタリガラスはその炎を地上、崖そして雪の中へ投げ入れ、全てのものに魂がもたらされた
我々はすべてを尊敬する 木、岩、大地
すべてはワタリガラスが投げたものから魂を授かっているから
この物語を君の父に話した
そして今、君に話した 未来につないでいくために ありがとう
道夫はどこか自然の中にいると思う 感じるんだ
だからもうあまり孤独に感じない
自然の中で特別な瞬間を過ごすと、道夫の魂を感じる 今でも
君の中にもね
君は彼の特徴を持っているよ 私には分かる
彼の性格を 君の笑い方さえも
私には感じられる だから私は未来が楽しみだ
し:それを聞けて良かったです
翔馬さん:
父親に似てるって言われて、それは素直に嬉しいことかな
自分ではどこがどう似てるのか分からないけれども やっぱり嬉しいよね
【ハイダグワイ@カナダ】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/ee/d872ab4de421059b0e0701d7fcb70b9a.jpg)
シトカの南に、ワタリガラスの神話を持つハイダ族が暮らしてきた港町があります
ここに翔馬さんがどうしても見たいものがありました
(ボートに乗る
それは、父の写真の中で気になっていた1枚
トーテムポールが自然の中で朽ちていく風景です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/92/211181344d94e806105b964ae417fb31.jpg)
父は、朽ち果てたトーテムポールに何を見たのか
同じ場所に立てば、その思いを理解できるかもしれない
●ハイダ族の聖地
5日間天気が良くなるの待ち、1時間だけ上陸を許されました
100年以上も前に人が去った村 ハイダ族の男性が案内してくれました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/a1/e423cbc770f955f424449563c71c53cf.jpg)
「この場所に残るトーテムポールは、全て死者を弔うためのものです
ここにあるものはすべて墓か墓標だよ だから残してあるんだ
他の大きいトーテムポールは全部持っていかれて博物館にあるよ
これらには人の遺体が埋葬されていたから触れずに残しているんだ
ここに箱があって遺体が入っていたんだ
もともとこれが立っていて、遺体の入った箱には覆いと蓋がついていた」
し:この上の植物はどうやって生えているのか不思議です
「鳥が種を落とす あの上で種を食べてこぼすんだ」
道夫さんが注目したのは、この新たに生まれた命でした
『旅をする木』
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/64/63f34cdb897c3d87ef13ebac4a1d0d47.jpg)
「偶然落ちたトウヒの種子が、人間の体の栄養を吸収しながら根付き
歳月の中でトーテムポールを養木として成長したのだろう
人間が消え去り 自然が少しずつ そして確実にその場所を取り戻していく
悲しいと言うのではない ただ ああそうなのかという ひれ伏すような感慨があった」
父と同じ風景を目にした翔馬さん
大学に入ってから始めたカメラのシャッターを夢中になって押していました
そこに写っていたのは、朽ちたトーテムポールから生まれた命の数々
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/ea/be4ff754269177b58515fb43bb476508.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/f8/8041be986ac018dd23c5a322860b2c31.jpg)
翔馬さん:
こういうトーテムポールを見ると、やっぱり父親が求めていた
自然と人との関わりだったり、時の流れ方
一見、醜い自然の中でも時は流れていたり
そこに人が昔根付いてたりっていう見えにくいところだったり
またそのスピリチュアルな部分を
自分で見て、肌で感じて、その求めていたものが分かる気がする
●道夫さんが見つめ続けたアラスカの命 その象徴がカリブー
群れで何千キロも移動しながら、親から子へと命を繋いでいきます
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/be/862a4091a56b0566ebdbae85e3e453b0.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/8a/7344ee3e9c2d0a955e97536e2d32b968.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/4b/e3ebae27076affb5ce6b228d869f7772.jpg)
道夫さんのカリブーの撮影に協力していたのが、パイロットのドン・ロスさん!
10年以上のパートナーでした
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/26/9f9385e542ecdde73f27f36903aa3f76.jpg)
(本の中の人々が次々と出てくる!
翔馬さんは絶妙なタイミングで訪れたんだな これも偶然なんかじゃない
道夫さんがきっと見守っていてくれるんだ
ドン:
道夫はよくそこに座っていたから君もそこに座るといいよ
あれはユーコン川の上を飛んでいた時
彼は理想的な一枚が撮りたくて、俺たちは1、2回旋回したんだ
彼は思い通りにならなかったのか、少し首をかしげたんだよ
そして指を1本あげて“もう1回”って言うんだw
し:なるほど きりがないですねw
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/0c/913ac16048f7c9ffb11a03e9674f9ce4.jpg)
2人でカリブの移動を追いかけて撮影した写真です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/62/819cab3a438fff3bde76655cdbdc587d.jpg)
ドン:
俺の考えだけど、道夫はその時の魂を撮ることができる写真家だった
そしてそれが他の写真家と違うところだ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/f5/73c2ecd7b898441134fd2f62b2ba5888.jpg)
し:
僕は、2、3ヶ月前から父の本を読み始めたんです それで少しずつ父のことが分かってきました
僕にとってこのタイミングで知ることはとても重要だと思うんです 社会に出る前だから
ドン:
もし、何か仕事を始めた時に、それに情熱的になれるのは良いことだ
もし、その中で人のために何か出来ることを見つけられたら、なおさらね
道夫もそうしていた 写真を撮ってそれを人々と共有するという形でね
し:アラスカに来てから、それについて考え始めています
●道夫さんがいつも泊まっていたお気に入りの宿
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/ae/cfcf263a30ed752f2a8b628e87b99ffa.jpg)
宿の主人バーサ・ケイラスさん:
誰が道夫の息子だい? 会えて本当に嬉しいわ これって本当に素晴らしいわ
し:お父さんはここに何回くらい来てますか?
バ:
毎年 年に2回か3回の時もあったわ
あなたのお父さんがこう言っていつも私を笑わせるの
“僕はずっと結婚したくないよ 写真を撮るのが好きすぎるんだ
そしたら直子に会ったんだ 僕は彼女に恋をしたんだ”
だからあなたに会えて本当に嬉しいわ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/28/7b33abf75ee352e4af68a2e0ef111c9c.jpg)
直子さんと結婚してからも、2人でこの宿を訪れて家族ぐるみの付き合いでした
バーサさんの夫ピーターは、3年前、脳梗塞で倒れました
バ:
ピーター、道夫の息子と写真を撮ってもらいましょう
あなたが許可してるって分かるように彼に笑ってみせて
し:こんにちは 僕は翔馬です 道夫の息子です
バ:
枕の下に手を入れてあげて あのカメラを見て スマイル!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/32/97ea3b0ade5734912b1c705aa8d534c3.jpg)
彼は道夫が好きだったのよ ずっと一緒にいたから
道夫が来るや否や、すごく興奮してね
船を準備して、ガソリンも満タンにしてね
一緒に水上の家に行くのよ 覚えてる?(うなずく夫
し:僕のお父さんを助けてくれてありがとう
バ:彼は分かっているわ あなたと会えて嬉しいですって言える?
ピ:あなたと会えて嬉しい
し:僕も会えて嬉しいです
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/60/d813deb6861dceb0dab0503c089667e9.jpg)
近所の人も来て、夕食の準備が始まりました 翔馬さんもお手伝い
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/ea/768036900d3956041f755b48a103086f.jpg)
バ:道夫もちょうどこのカウンターで働いていたのよ 日本食を作って いい調子じゃない
し:ほんとに? そうは思わないけどw
翔馬さんの切ったサーモンは、味噌を使ったスープになりました
今夜は道夫さんがいた頃のように日本食です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/ce/58a632473c8c0cd60101a5530c8d73ab.jpg)
バ:
これ、とても美味しいわね
“こんにちは”ってどういう意味?
し:ハロー 挨拶だよ
バ:じゃあ、thank you はどう言うの?
し:ありがとう
バ:ああそうだ! ありがとう 習っても忘れちゃうの
(もうお別れ
し:ありがとうございました
バ:
私もあなたに会えてとても幸せよ 最高の1日になったわ
“グナチーシクレイナ” 私たちの言葉で本当にありがとう
残りも良い旅をね また帰っておいで
(ベランダの上から手を振ってくれる
●フェアバンクス
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/e7/5465dd483c7333e085b48c1e6a61b366.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/25/6251958de855ac6da4229a05d449f90f.jpg)
道夫さんは12年にわたってアラスカを旅した末、この土地に根を下ろします
家を建て、翔馬さんはここで1歳半まで育ちました
(直子さんがキレイに保っているおかげで、家がそのまま残っているんだ
『旅をする木』
「頬を撫でる極北の風の感触
夏のツンドラの甘い匂い
白夜の淡い光
見過ごしそうな
小さなワスレナグサのたたずまい
何も生み出すことのない
ただ流れてゆく時を 大切にしたい
あわただしい人間の日々の営みと並行して
もうひとつの時間が流れていることを
いつも心のどこかで感じていたい
そんなことを いつの日か
自分の子どもに伝えてゆけるだろうか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/d1/866a7d02a66171d7d734daf95c0bd78b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/b3/93220fc69cad683d54eea4b173b6d572.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/3e/a014313144d128f4fb834dd19907416c.jpg)
この文章を書いたおよそ1年後 道夫さんは熊に襲われて亡くなります
●カレンと夫のマイク
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/97/002d671d6798b12c545006db72de758e.jpg)
翔馬さんが生まれた頃の道夫さんをよく知る人たちがいます
カレンさんと夫のマイクさんです
道夫さんとは15年以上の付き合い
フェアバンクスに土地を買うことを勧めたのもこの夫婦でした
翔馬さん:
カレンは結構一番近いところでお父さんを見てきた人な感じがするので
一度会って、そこから父親が見えてくるんじゃないかと思って
2人は家の外で翔馬さんを待っていてくれました
案内されたのはカレンさんの書斎
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/2e/0baf6943871cdb50302a6ff81d06d715.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/47/a6932cc66b6c80466f881ba45f9f8395.jpg)
アラスカ大学で日本の研究をしていたカレンさん
カ:道夫さんのための特別な本棚を作りました(日本語で話す
本棚は道夫さんの写真集やエッセイでいっぱいです
カレンさんは、道夫さんの作品の英語版の翻訳もしてきました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/ef/42bdfdc0aede1cbe8aed2e2dbc1c645b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/b2/583a7679b4c82f5b7a370043a154abda.jpg)
カ:翔馬さん お父さんの本を読んで質問があるところはどこですか? 印象はどうですか?
翔馬さん:自然と同じ目線で見たいっていうのがお父さんの考え方だったんですかね?
カ:
はい 自然の中にいた時はすごく幸せでした
フェアバンクスに帰ったらすぐ話しに来てくださった
直子さんと結婚して、本当に家庭が作れると思って、お父さんはとても嬉しかったんです
翔馬さんが生まれて、本当にこれから幸せになるんだとお父さんは思った
家庭を作るというのが夢でした 自分の子どもも夢でしたね
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/f9/c7c9b70e985dd0ba132933341032b0ac.jpg)
翔馬さん:
父親が結婚する前までのアラスカの生活と、
結婚して、僕が生まれて、何か変わったところはありましたか?
カ:
お父さんらしさという感じが表れたw
そんなに取材に行きたくなかったんですよね
子どもが可愛くて 家でその成長を見守りたいと思って
●旅を振り返る
(自然に焚き火をしたり、英語を話せるのは、お母さんのおかげなのかな
それとも、無意識に、将来の自分のためにしてきたことなのか
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/40/2d1c6c2bc574ec482ab6c4e67d04018c.jpg)
翔馬さん:
一番印象的だったのは、母親と結婚して、自分が生まれて
またその人生観が変わった ものすごく喜んでいたっていう話を聞けたのは
本に載っていないことだったし、言われて初めて それが一番印象的だった
(本にも書いてあったよ あれは直子さんの著書だったかな?
写真家としてではなくて、やっぱり一人間としての父が見れたかな
それが今回見たかったところだったし 会えてよかった
Q:もし道夫さんが生きていたら、今の翔馬さんに何て声をかけると思うか?
翔馬さん:
やっぱり、自分の行きたい道を行けって言うんじゃないかな
それこそ、あの本のひと言みたいに
人って一緒に限られた時間を生きていて
その中で本当の自分として生きてるか
常に意識しなければいけない
そういったものを追い続けられる 常に立ち帰られる人間になってほしいということを伝えたかった
そうかけてくれた言葉なんじゃないかな
帰国する日の朝 フェアバンクスに雪が降りました
まもなく本格的な冬が訪れます アラスカの冬は道夫さんが一番好きな季節でした
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/b8/6425ef69076be740544be4066b87ce4b.jpg)
(もう雪! アラスカの短い夏が終わったんだね
あ、 このリスは道夫さんが好きだった! ホッキョクジリスさんだっけ?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/f8/0b35bd7f1f211aa2b387a5750a9e986e.jpg)
帰りの機内で翔馬さんは心に決めていました
いつか父のように心惹かれるものを見つける
父から子へ 命の旅は続きます
大学の時に写真を勉強し始めたのか
父親の存在が大きすぎて、なかなか写真家への道へは進みづらいと思っているのかなあ
もうすでに道夫さんに惹かれて、似たようなスタイルで撮っているカメラマンもいるし
星野さんファンにとっても特別な旅だった
語り:蒼井優
【内容抜粋メモ】
●北米最高峰の山 デナリ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/db/a08db2173907ded006b6419b993854ac.jpg)
その下に広がるアラスカの原野を見つめる青年 星野翔馬さん
父は写真家 星野道夫さんです
彼は幼くして父を亡くしています
アラスカは、父が命をかけて仕事に打ち込んだ場所です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/e3/d9b1ad0899b09ef324632900fae494a8.jpg)
翔馬さん:
21歳というところが自分と照らし合わせてみて
自分が21歳の時に何をやってたかなって考えた時に
大学入学して、普通にキャンパスライフを送っている中で
父親が21歳の時は、全く別の世界でシシュマレフに行く決断をしたのがすごく印象的で
●道夫さんはアラスカを舞台に多くの写真を残した
夕日に照らされたグリズリー
ブリーチングをするザトウクジラ
極北の厳しい自然とその中で懸命に生きる命
たくましくも儚い命の輝きを写し出しました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/6d/279706ee0e49eb40ec747f872df32a12.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/b2/b21f198dd31e1945726d352c6096ca00.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/18/4c9beab79c932912dd08fa79e56d9dee.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/f4/9d6146a0a98697d99c78a6f47fdaab1d.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/fa/2daf7d5b0662dcaee5669ff0dedfe2f6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/fd/b8a04db03b50ec9b79ee8a9f4f5eeea8.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/51/6aada10c77bc33722c97e4ed8acb9636.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/ff/34a0b35cb76e52d7c6158ee543563a2b.jpg)
●道夫さんは数々のエッセイも残している
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/33/054ceecad77467ab89c857edf82bc4f7.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/4f/2e70ef716ab285583dca98a45d9a002a.jpg)
『長い旅の途上』
「私は厳しい自然条件の中で ひたむきに生きようとする アラスカの生命が好きである
それは 強さと脆さを秘めた 緊張感のある自然なのだ」
1996年 道夫さんは取材中に熊に襲われて亡くなります
その時、翔馬さんは1歳半 道夫さんの記憶はありません
22年の時を経て、父に出会う旅に出たのです
●翔馬さんは、23歳の大学生 これまで父の本を読もうとしなかった
【千葉県 市川】
翔馬さん:
なんだろう 今思うと、無意識的に見て見ぬふりじゃないですけれども
なるべく遠ざけてたのかなっていう気はしなくもないですね
自分と関係があるっていう認識がすごく薄かったから
それで、読もうっていう機会がなくて
もうあくまで他人の本っていうイメージだったから
全然読もうっていう気持ちにならなかった
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/94/88463df9a4e27ed7e31880eeffff8ba3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/ce/758fef86758455024cdce02d7b9f8ab2.jpg)
●道夫さんの写真を管理する事務所
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/c5/6ba993f187d4ce9f45fc6abce8838529.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/e0/348bd76c005ee3b2cc40315e46334468.jpg)
22年間、そのフィルムを守ってきた道夫さんの妻・直子さん
翔馬さんに父のことを知ってほしいという思いはありましたが伝えることができないでいました
直子さん:
亡くなったのが1歳半の時だったんですね
しばらくして「あれ、お父さん帰ってこないね」って言ったことがあって
まだ小さかったので、多分、何が起こっているのか分からなかったと思うんですね
その時「ちょっと天国に行ったんだよね」って言って
理解できるかどうか分からなかったんですけど
「だから、もっともっと大きくなって、向こうで会うまでは、今は会えないんだよ」
っていうことを言ったんです
そしたら「そっか」って、それきりお父さんの話を何もしなくなったので
私もそういう話し方でよかったのかなって
でも、それしか私には話が出来なかったので、そんなこともあって
ずっと、お互いそのことに触れなかったっていうか そんなことがありましたね
●転機は2年前
就職活動を控えた翔馬さんは、本当にやりたいことが見つからず悩んでいました
ふらりと入った道夫さんの写真展で、ひとつの言葉が胸に刺さりました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/7b/08c437a7acfa584249cfcb0f49468620.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/ab/dd855e9e03aec16ffa37549a1983957c.jpg)
「短い一生で 心魅かれることに 多くは出合わない
もし見つけたら 大切に・・・大切に・・・」
翔馬さん:
父親の見てきたアラスカの目線を見てみたいな
今のこの22歳の大学卒業前の、就職する前のタイミングと
定年した後にもう1回アラスカに行って風景を見るっていうのは
全く違うのかなっていう考えもあって
アラスカ、お父さんに真剣に向き合うようになった
●父が心惹かれたアラスカへ
最初の目的地は、アラスカの西の果て
飛行機を乗り継ぐこと3回 40時間の道のりです
そこは、45年前に道夫さんがアラスカを初めて訪れた土地です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/1e/01f642ca2e66576653211fe320f8b888.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/cf/20ad116378de9249f1760539f52bcbff.jpg)
●きっかけは1枚の写真
大学生だった道夫さんが、神田の古本屋で偶然見つけたものです
なぜこんな荒涼とした場所に人が暮らしているんだろうか 心を奪われました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/e7/20ce38e4e1503ea98543acbee7e0dec4.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/00/fdcda48812e224706c14a8d2bb747230.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/13/d770973ebd3bddde2e754b1bd091e587.jpg)
【アラスカ州 シシュマレフ】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/3d/b90828214faf0dd667bdb9f7654d9daf.jpg)
翔馬さんは、ここで会いたい人がいました
クリフォード・ワイオワナさん
大学生だった道夫さんを自宅に泊めてくれた人です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/12/3cddda8232a9c22a4f16d0d61d94598b.jpg)
シシュマレフは、人口およそ600人のエスキモーの村
今もアザラシやカリブーの狩猟が暮らしの根幹にあります
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/40/507343b0b96b6e37253060789c1e77d4.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/d8/a48123db513734e97f69fee925aa82e5.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/56/17e10d96546f5e509397a435d61e2e4c.jpg)
●クリフォードさんを訪ねる
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/cc/1567905d42973ed5b7d79df86e768ff4.jpg)
(今も元気ってびっくり!
そっかあ まだ息子さんが22歳なら、全然元気なはずだ
ク:君は翔馬かい? なんてこった! 会えて嬉しいよ
し:僕も会えて嬉しいです
ク:お母さんはどう?
し:元気です
ク:
ワオ! 君はお父さんと違って英語が話せるねw
君のお父さんが来た時、彼は全く英語が話せなかった
し:ジェスチャーだけですね
ク:あそこに彼の写真があるよ あれは2回目の時 彼はここに3回来てると思うよ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/df/7c0846febd7eeaa3b5e8ca61ae918d90.jpg)
●村長への手紙
写真を見て、どうしてもアラスカに行きたくなった道夫さんは、村長に手紙を出しました
「あなたの村の写真を見ました 村の生活にとても興味があります
仕事は何でもしますので、どこかの家においてもらえないでしょうか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/4c/1d8d84fc346d166ee1647725d47b0a6f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/19/49ad778a95b5f80693fb3d7664426f16.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/bf/9bd1a2e53b1b938e2a0b4b4a0977a8ab.jpg)
手紙を受け取ったのは、当時村長だったクリフォードさんでした
今も道夫さんを泊めた家に孫やひ孫たちと暮らしています
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/75/377a6781aeb1b1ce101d8753000bbc41.jpg)
●道夫さんはここで3ヶ月間、村の人たちの手伝いをして過ごした
小さな子どもたちの子守りをしたり、アザラシの干し肉を作る手伝いもしました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/ec/933e5f2b81f76226a73e1c08cfb9c369.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/d0/d0a29fe74fe55393e8d269f4a8132319.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/90/384ff9aeaff92704010fc6069ab9a3da.jpg)
クリフォードさんがその場所に連れていってくれました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/ad/46c225257bc60725aa7c0e18c57f98f4.jpg)
ク:
肉はここに干すんだよ 君のお父さんもよく手伝ったんだ 肉を吊るしてね
俺の母親、妻を手伝って働くんだ 肉をひっくり返してね
片方が乾いたら、もう片方も乾かすんだ 毎日君のお父さんは手伝ってくれた
し:父は働き者だったんだね
翔馬さんは、かつての道夫さんと同じように村の人たちとふれあいました
この日は結婚式
100人近くの人たちが集まり、若いカップルの門出を村をあげてお祝いします
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/17/1c46d540f25ad53a4a261f178ce45c4f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/a5/b5a3c57054104ea0c7e267a35e101bf2.jpg)
式が終わると声をかけてくれた人がいました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/f6/7db3b532883549ca635a9b61420a005d.jpg)
「彼の息子なの? とてもハンサムね 彼に似てるわ こんにちは 私はシャレンよ」
し:父に会ったことがあるんですか?
「クリフォードのところでね」
し:どんな人でした?
「楽しい人 彼はとてもフレンドリーな人だった」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/14/287192cedb30f8493e57994c855ffa80.jpg)
「こんにちは エルシーよ 私は何年も前にあなたのお父さんに会ったわ」
し:父が若者だった時?
「彼が最初に来た時 そろそろ行かないと ただあなたに挨拶したかったの
滞在を楽しんで 会えてよかった」
40年以上経った今も、多くの村人が道夫さんを覚えていました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/4d/e043e3bc8d62d762b6edbf412bac9d40.jpg)
●クリフォードさんの息子たちとアザラシ猟に同行
アザラシが呼吸をするために水面に顔を出す瞬間を狙って銃を撃つ 受け継がれてきた生業です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/f6/12a9c43b186749a86b483a12c0d434ef.jpg)
「やったぞ!」
(血に染まる海 目を少し背けながらも、尾を触る翔馬さん
し:一瞬でしたね
アザラシを解体するのは、昔から女性の仕事と決められていました
(ナイフで器用に切り裂いていく これは直視するのは難しい・・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/67/16dda6d6b1e6d49d49053d37a653052c.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/34/4800228dbf911bb07901c87be14b6e0c.jpg)
「そこのフックを取って 肉をあちら側へ引っ張ってくれる?
重いでしょ もう大丈夫よ 離していいわ ありがとう」
道夫さんもこの村でアザラシの解体を手伝いました
「私たちが生きていくということは
誰かを犠牲にして 自分が生き延びるという 日々の選択である
生命体の本質とは 他者を殺して食べる事にある
それは近代社会が忘れていった 血のにおいであり 悲しみという言葉に置き換えてもいい
その悲しみをストレートに受け止めなければならないのが 狩猟民なのだ」
●夕食は解体したばかりのアザラシのスペアリブ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/f2/e3761d64c2d87c5d3453d98d6d2ac716.jpg)
翔馬さんは初めて食べます
ク:俺たちがエスキモーの食べ物を食べる時はフォークを使わないんだ
し:手だけ? OK アザラシ美味しいよ
ク:時々甘いピクルスと一緒に食べるんだ あと生の玉ねぎと食べても美味しいよ
し:アザラシは特別なご飯ですか?
ク:いいや
し:アザラシを食べる時どんな気分?
ク:獲れたら食べるだけだよ 何もスペシャルじゃない
翔馬さん:
やっぱりこれが自分たちのあるべき姿なんだっていうのはすごく伝わってきた
ひと言で言うとそういう感じかな 生きる強さなのかなって ここで生きる強さ
それがアイデンティティとしての強さなのかなと強く感じましたね
●出発の朝
クリフォードさんと握手してハグ
ク:またいつかだな
し:またすぐ帰ってくるよ
ク:次に来るときは暖かい服で来いよ
(なぜだか涙が出る
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/4c/535c9e6f5915bb6f22fc74a19f868c65.jpg)
●南東アラスカの港町 シトカ
「アラスカで最も美しい町」と道夫さんは書いています
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/a0/26de38e6532c3b6605f6726d567bc2e1.jpg)
道夫さんは、この町に住む先住民の男性と親友になりました
ボブ・サムさん! すごい! エッセイの中の人たちが今も生きている
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/40/4ca531fa914aa23d0f45a027d53a2d0e.jpg)
し:父と出会った時のことを覚えていますか?
ボブ:
この場所が彼と最初に出会った場所なんだ この角でね
彼に話したひと言目が“ワタリガラスの巣を見に行こう”
彼はそれを聞いてとても喜んでいた
●ワタリガラス
アラスカの先住民の神話では、あらゆるものに魂を与えたとされています
道夫さんはこの鳥に強く魅かれていました
『森と氷河と鯨』
「ワタリガラスの神話 そのことが気にかかるようになったのはいつの頃からだろう
クリンギット族 ハイダ族にとどまらず
アサバスカンインディアン そしてエスキモーに至るまで
なぜワタリガラスが人々の創生神話の主人公なのか
つまり かつて人々はどんな目で世界を見ていたのかを知りたかったのである」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/53/471a23e2c4bbc70b6ac7cf3906f43037.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/35/fd4d3f3457f0777164579e1fa88ee94f.jpg)
●クリンギット族の墓守りのボブさん
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/53/4c70d849513e2f72482addb927ceb831.jpg)
ワタリガラスの神話を受け継ぐ語り部です
道夫さんにワタリガラスの巣を見せた場所へ連れて行ってくれました
ボブ:
彼が言うにはワタリガラスの巣を見られる人は少ない それらは隠されているから
だから彼はとても喜んでいた その瞬間から私たちは良い友だちになったんだ
ワタリガラスの神話を記録する計画があったんだ
他の先住民の元へ旅をして、長老たちの声、ワタリガラスの神話、道筋を記録したかった
最初、それは道夫の夢だった
ワタリガラスが人々に何を運んだか見つけることが
そして彼が私に夢を話してくれた時、それを聞いてとても嬉しかった 私も同じ思いだったから
●道夫さんに語ったというワタリガラスの神話
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/36/7c2943c9a2e5540b0ab9f86e56461177.jpg)
それは、はるか昔にさかのぼる
その頃、まだ人間は自然と話せた そして動物は人間と話せた
ワタリガラスは海へ行った
彼が歩いている時、大きな炎が出てくるのを見た 海の中から
そこには若い鷹がいた
ワタリガラスは言う 「助けてくれないか?」
そして鷹は振り向いた 「私に何をして欲しい?」
「あなたにあの炎を取ってきてほしい
それを取ってきた時、あなたはこの世界の全ての人のために役に立つ だから勇敢であれ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/4a/0e9e9469653eb25afc04b575dc352959.jpg)
鷹は炎に焼かれながらも、それを持ち帰った
ワタリガラスはその炎を地上、崖そして雪の中へ投げ入れ、全てのものに魂がもたらされた
我々はすべてを尊敬する 木、岩、大地
すべてはワタリガラスが投げたものから魂を授かっているから
この物語を君の父に話した
そして今、君に話した 未来につないでいくために ありがとう
道夫はどこか自然の中にいると思う 感じるんだ
だからもうあまり孤独に感じない
自然の中で特別な瞬間を過ごすと、道夫の魂を感じる 今でも
君の中にもね
君は彼の特徴を持っているよ 私には分かる
彼の性格を 君の笑い方さえも
私には感じられる だから私は未来が楽しみだ
し:それを聞けて良かったです
翔馬さん:
父親に似てるって言われて、それは素直に嬉しいことかな
自分ではどこがどう似てるのか分からないけれども やっぱり嬉しいよね
【ハイダグワイ@カナダ】
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/ee/d872ab4de421059b0e0701d7fcb70b9a.jpg)
シトカの南に、ワタリガラスの神話を持つハイダ族が暮らしてきた港町があります
ここに翔馬さんがどうしても見たいものがありました
(ボートに乗る
それは、父の写真の中で気になっていた1枚
トーテムポールが自然の中で朽ちていく風景です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/92/211181344d94e806105b964ae417fb31.jpg)
父は、朽ち果てたトーテムポールに何を見たのか
同じ場所に立てば、その思いを理解できるかもしれない
●ハイダ族の聖地
5日間天気が良くなるの待ち、1時間だけ上陸を許されました
100年以上も前に人が去った村 ハイダ族の男性が案内してくれました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/a1/e423cbc770f955f424449563c71c53cf.jpg)
「この場所に残るトーテムポールは、全て死者を弔うためのものです
ここにあるものはすべて墓か墓標だよ だから残してあるんだ
他の大きいトーテムポールは全部持っていかれて博物館にあるよ
これらには人の遺体が埋葬されていたから触れずに残しているんだ
ここに箱があって遺体が入っていたんだ
もともとこれが立っていて、遺体の入った箱には覆いと蓋がついていた」
し:この上の植物はどうやって生えているのか不思議です
「鳥が種を落とす あの上で種を食べてこぼすんだ」
道夫さんが注目したのは、この新たに生まれた命でした
『旅をする木』
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/64/63f34cdb897c3d87ef13ebac4a1d0d47.jpg)
「偶然落ちたトウヒの種子が、人間の体の栄養を吸収しながら根付き
歳月の中でトーテムポールを養木として成長したのだろう
人間が消え去り 自然が少しずつ そして確実にその場所を取り戻していく
悲しいと言うのではない ただ ああそうなのかという ひれ伏すような感慨があった」
父と同じ風景を目にした翔馬さん
大学に入ってから始めたカメラのシャッターを夢中になって押していました
そこに写っていたのは、朽ちたトーテムポールから生まれた命の数々
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/ea/be4ff754269177b58515fb43bb476508.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/f8/8041be986ac018dd23c5a322860b2c31.jpg)
翔馬さん:
こういうトーテムポールを見ると、やっぱり父親が求めていた
自然と人との関わりだったり、時の流れ方
一見、醜い自然の中でも時は流れていたり
そこに人が昔根付いてたりっていう見えにくいところだったり
またそのスピリチュアルな部分を
自分で見て、肌で感じて、その求めていたものが分かる気がする
●道夫さんが見つめ続けたアラスカの命 その象徴がカリブー
群れで何千キロも移動しながら、親から子へと命を繋いでいきます
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/be/862a4091a56b0566ebdbae85e3e453b0.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/8a/7344ee3e9c2d0a955e97536e2d32b968.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/4b/e3ebae27076affb5ce6b228d869f7772.jpg)
道夫さんのカリブーの撮影に協力していたのが、パイロットのドン・ロスさん!
10年以上のパートナーでした
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/26/9f9385e542ecdde73f27f36903aa3f76.jpg)
(本の中の人々が次々と出てくる!
翔馬さんは絶妙なタイミングで訪れたんだな これも偶然なんかじゃない
道夫さんがきっと見守っていてくれるんだ
ドン:
道夫はよくそこに座っていたから君もそこに座るといいよ
あれはユーコン川の上を飛んでいた時
彼は理想的な一枚が撮りたくて、俺たちは1、2回旋回したんだ
彼は思い通りにならなかったのか、少し首をかしげたんだよ
そして指を1本あげて“もう1回”って言うんだw
し:なるほど きりがないですねw
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/0c/913ac16048f7c9ffb11a03e9674f9ce4.jpg)
2人でカリブの移動を追いかけて撮影した写真です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/62/819cab3a438fff3bde76655cdbdc587d.jpg)
ドン:
俺の考えだけど、道夫はその時の魂を撮ることができる写真家だった
そしてそれが他の写真家と違うところだ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/f5/73c2ecd7b898441134fd2f62b2ba5888.jpg)
し:
僕は、2、3ヶ月前から父の本を読み始めたんです それで少しずつ父のことが分かってきました
僕にとってこのタイミングで知ることはとても重要だと思うんです 社会に出る前だから
ドン:
もし、何か仕事を始めた時に、それに情熱的になれるのは良いことだ
もし、その中で人のために何か出来ることを見つけられたら、なおさらね
道夫もそうしていた 写真を撮ってそれを人々と共有するという形でね
し:アラスカに来てから、それについて考え始めています
●道夫さんがいつも泊まっていたお気に入りの宿
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/ae/cfcf263a30ed752f2a8b628e87b99ffa.jpg)
宿の主人バーサ・ケイラスさん:
誰が道夫の息子だい? 会えて本当に嬉しいわ これって本当に素晴らしいわ
し:お父さんはここに何回くらい来てますか?
バ:
毎年 年に2回か3回の時もあったわ
あなたのお父さんがこう言っていつも私を笑わせるの
“僕はずっと結婚したくないよ 写真を撮るのが好きすぎるんだ
そしたら直子に会ったんだ 僕は彼女に恋をしたんだ”
だからあなたに会えて本当に嬉しいわ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/28/7b33abf75ee352e4af68a2e0ef111c9c.jpg)
直子さんと結婚してからも、2人でこの宿を訪れて家族ぐるみの付き合いでした
バーサさんの夫ピーターは、3年前、脳梗塞で倒れました
バ:
ピーター、道夫の息子と写真を撮ってもらいましょう
あなたが許可してるって分かるように彼に笑ってみせて
し:こんにちは 僕は翔馬です 道夫の息子です
バ:
枕の下に手を入れてあげて あのカメラを見て スマイル!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/32/97ea3b0ade5734912b1c705aa8d534c3.jpg)
彼は道夫が好きだったのよ ずっと一緒にいたから
道夫が来るや否や、すごく興奮してね
船を準備して、ガソリンも満タンにしてね
一緒に水上の家に行くのよ 覚えてる?(うなずく夫
し:僕のお父さんを助けてくれてありがとう
バ:彼は分かっているわ あなたと会えて嬉しいですって言える?
ピ:あなたと会えて嬉しい
し:僕も会えて嬉しいです
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/60/d813deb6861dceb0dab0503c089667e9.jpg)
近所の人も来て、夕食の準備が始まりました 翔馬さんもお手伝い
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/ea/768036900d3956041f755b48a103086f.jpg)
バ:道夫もちょうどこのカウンターで働いていたのよ 日本食を作って いい調子じゃない
し:ほんとに? そうは思わないけどw
翔馬さんの切ったサーモンは、味噌を使ったスープになりました
今夜は道夫さんがいた頃のように日本食です
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/ce/58a632473c8c0cd60101a5530c8d73ab.jpg)
バ:
これ、とても美味しいわね
“こんにちは”ってどういう意味?
し:ハロー 挨拶だよ
バ:じゃあ、thank you はどう言うの?
し:ありがとう
バ:ああそうだ! ありがとう 習っても忘れちゃうの
(もうお別れ
し:ありがとうございました
バ:
私もあなたに会えてとても幸せよ 最高の1日になったわ
“グナチーシクレイナ” 私たちの言葉で本当にありがとう
残りも良い旅をね また帰っておいで
(ベランダの上から手を振ってくれる
●フェアバンクス
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/e7/5465dd483c7333e085b48c1e6a61b366.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/25/6251958de855ac6da4229a05d449f90f.jpg)
道夫さんは12年にわたってアラスカを旅した末、この土地に根を下ろします
家を建て、翔馬さんはここで1歳半まで育ちました
(直子さんがキレイに保っているおかげで、家がそのまま残っているんだ
『旅をする木』
「頬を撫でる極北の風の感触
夏のツンドラの甘い匂い
白夜の淡い光
見過ごしそうな
小さなワスレナグサのたたずまい
何も生み出すことのない
ただ流れてゆく時を 大切にしたい
あわただしい人間の日々の営みと並行して
もうひとつの時間が流れていることを
いつも心のどこかで感じていたい
そんなことを いつの日か
自分の子どもに伝えてゆけるだろうか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/d1/866a7d02a66171d7d734daf95c0bd78b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/b3/93220fc69cad683d54eea4b173b6d572.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/3e/a014313144d128f4fb834dd19907416c.jpg)
この文章を書いたおよそ1年後 道夫さんは熊に襲われて亡くなります
●カレンと夫のマイク
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/97/002d671d6798b12c545006db72de758e.jpg)
翔馬さんが生まれた頃の道夫さんをよく知る人たちがいます
カレンさんと夫のマイクさんです
道夫さんとは15年以上の付き合い
フェアバンクスに土地を買うことを勧めたのもこの夫婦でした
翔馬さん:
カレンは結構一番近いところでお父さんを見てきた人な感じがするので
一度会って、そこから父親が見えてくるんじゃないかと思って
2人は家の外で翔馬さんを待っていてくれました
案内されたのはカレンさんの書斎
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/2e/0baf6943871cdb50302a6ff81d06d715.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/47/a6932cc66b6c80466f881ba45f9f8395.jpg)
アラスカ大学で日本の研究をしていたカレンさん
カ:道夫さんのための特別な本棚を作りました(日本語で話す
本棚は道夫さんの写真集やエッセイでいっぱいです
カレンさんは、道夫さんの作品の英語版の翻訳もしてきました
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/ef/42bdfdc0aede1cbe8aed2e2dbc1c645b.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/b2/583a7679b4c82f5b7a370043a154abda.jpg)
カ:翔馬さん お父さんの本を読んで質問があるところはどこですか? 印象はどうですか?
翔馬さん:自然と同じ目線で見たいっていうのがお父さんの考え方だったんですかね?
カ:
はい 自然の中にいた時はすごく幸せでした
フェアバンクスに帰ったらすぐ話しに来てくださった
直子さんと結婚して、本当に家庭が作れると思って、お父さんはとても嬉しかったんです
翔馬さんが生まれて、本当にこれから幸せになるんだとお父さんは思った
家庭を作るというのが夢でした 自分の子どもも夢でしたね
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/f9/c7c9b70e985dd0ba132933341032b0ac.jpg)
翔馬さん:
父親が結婚する前までのアラスカの生活と、
結婚して、僕が生まれて、何か変わったところはありましたか?
カ:
お父さんらしさという感じが表れたw
そんなに取材に行きたくなかったんですよね
子どもが可愛くて 家でその成長を見守りたいと思って
●旅を振り返る
(自然に焚き火をしたり、英語を話せるのは、お母さんのおかげなのかな
それとも、無意識に、将来の自分のためにしてきたことなのか
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/40/2d1c6c2bc574ec482ab6c4e67d04018c.jpg)
翔馬さん:
一番印象的だったのは、母親と結婚して、自分が生まれて
またその人生観が変わった ものすごく喜んでいたっていう話を聞けたのは
本に載っていないことだったし、言われて初めて それが一番印象的だった
(本にも書いてあったよ あれは直子さんの著書だったかな?
写真家としてではなくて、やっぱり一人間としての父が見れたかな
それが今回見たかったところだったし 会えてよかった
Q:もし道夫さんが生きていたら、今の翔馬さんに何て声をかけると思うか?
翔馬さん:
やっぱり、自分の行きたい道を行けって言うんじゃないかな
それこそ、あの本のひと言みたいに
人って一緒に限られた時間を生きていて
その中で本当の自分として生きてるか
常に意識しなければいけない
そういったものを追い続けられる 常に立ち帰られる人間になってほしいということを伝えたかった
そうかけてくれた言葉なんじゃないかな
帰国する日の朝 フェアバンクスに雪が降りました
まもなく本格的な冬が訪れます アラスカの冬は道夫さんが一番好きな季節でした
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/b8/6425ef69076be740544be4066b87ce4b.jpg)
(もう雪! アラスカの短い夏が終わったんだね
あ、 このリスは道夫さんが好きだった! ホッキョクジリスさんだっけ?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/f8/0b35bd7f1f211aa2b387a5750a9e986e.jpg)
帰りの機内で翔馬さんは心に決めていました
いつか父のように心惹かれるものを見つける
父から子へ 命の旅は続きます
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大学の時に写真を勉強し始めたのか
父親の存在が大きすぎて、なかなか写真家への道へは進みづらいと思っているのかなあ
もうすでに道夫さんに惹かれて、似たようなスタイルで撮っているカメラマンもいるし
星野さんファンにとっても特別な旅だった