メランコリア

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少年少女新しい世界の文学 25 森の少女ローエラ マリア・グリーペ/著 学研

2023-09-23 15:13:29 | 
1973年初版 1989年 第14刷 大久保貞子/訳 ハラルド・グリーペ/挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


今作もとても素晴らしい物語で、最後は泣いた

12歳の少女が双子の弟たちの世話をしながら
森の奥のぼろぼろな一軒家で暮らしている
過酷なはずなのに、少女の硬い意志に救われる

自然豊かで、閉鎖的な人間関係の村に暮らす少女が
騒々しく、誰も目を合わせない都市の生活を見た時の新鮮な驚きも
ひとことずつ響くものがある

文章の妙、ストーリー構成、登場人物の魅力、、、
この著者の他の作品も読みたくなった



【内容抜粋メモ】

登場人物
ローエラ 森で暮らす12歳の少女
ルドルフとコンラード 双子の弟 ローエラと父が違う
イリス 母 船の炊事婦をしている
アディナ・ベッテルソン 近所に住み、なにかと世話を焼いてくれる
ダビード アディナの夫 無口
フレドリク・オルソン 古い切手収集が趣味
アグダ 双子を引き取る 母の友人
イェスタ アグダの夫
スベア・シェーベルイ 児童ホームの院長
リスベート お手伝い
スコーグ先生 学校の担任
モナ 児童ホームのルームメイト








●ノミのローエラ
晩秋の森で雨降る中、1人キノコを探すローエラ
家には双子の弟ルドルフとコンラードがお腹を空かして待っている

母は数か月前に家を出て、船に乗り、各国を旅している
「遅くても10月には帰る」という空約束を待っているローエラ
父の居所は分からない

村の人々はこの変わった少女を「ノミのローエラ」と呼んで噂のタネにしている

「黒アネモネ、月の光、オオカミイチゴ!」
この3つは、不機嫌な時、より不幸にならないために唱える呪文

機嫌の良い時は「白アネモネ、日の光、ヒメマイヅルソウ」


●アディナおばさん




近所に住む敬虔な信者、アディナおばさんだけがローエラの味方
昔はローエラを毛嫌いしていたが、父の形見の時計を拾って届けたことをきっかけに親切になった

冬になる前に3人で引っ越しておいでと誘う
学校に通う話になると怒るローエラ


●フレドリク・オルソン




90歳を越える独居老人で、ローエラ自作のかかしパパ・ペッレリンのポケットに
手紙を入れたり、ちょっとした食べ物を入れてくれる

お礼の代わりに、世界各地から送られてくるママからの手紙の切手を入れておくローエラ
フレドリクは古い切手収集が趣味で、2人は姿の見えないやりとりをしている

父の苗字はペールソン、母はニルソンだが
ローエラは自分をローエラ・ペッレリンと呼んでいる
かかしは鳥よけではなく、敵になる人よけとして役に立っている


●母からの手紙
無性に会いたいが、将来、ひと財産つくるためにアメリカ行きの船に乗る
友だちのアグダに事情を教えたら、双子を預かってくれると決まった

ローエラを引き取る余裕はないから、町の児童ホームに入れるよう手続きした
アグダの家から近いので、いつでも双子に会えるし
1年ほどで迎えに行く

ローエラは手紙を細かくちぎり、アグダが来たら追い払おうと決める

ローエラ:
子どもは親が産むのが普通よね
でも、私はあなたを作ったんだわ、パパ・ペッレリン
ママをつくればよかった


●盗み
アディナおばさんはローエラの家を訪ねた帰りに転倒して複雑骨折して入院
夫ダビードはローエラを迷惑がっているのを感じて
「なにかあれば言ってくれ」と言われても、何も要らないと答える

食べ物がなくなると、村に行き、肉屋からいたみかけたソーセージ
パン屋から酸っぱくなってブタのエサ用に捨てられたパンを拾ってくる
ローエラにとって、これが盗みとは思えない





人々が考えるほど、ローエラは孤独でもツラくもなかった
入院中のアディナおばさんから10クローナ札の入った手紙もきた

初めて一人での冬が来た
雪の中、また村に行って食料をもらって帰ると、アグダと夫が双子を迎えに来ていた

かかしの影に隠れて話を聞くと、ママはアグダにお金を払って双子を預けたと分かって驚く
アグダはローエラの父を知っていて、“神々しいほど美しくて高慢”“ローエラとうり二つ”
“女の子が欲しかったのに、イリス(ローエラの母)が渡すのを拒んだ”と話すのを聞く

ローエラは屋根にのぼり「消えてなくなれ!」と叫び
もらってきたケーキを顔にぶつけて追い払う


●児童保護委員会
ローエラは気が狂ってると思ったアグダは、すぐ児童保護委員会に連絡し
早速2人が派遣され、ローエラのご機嫌をとり、ママのサインのある紙を見せた
荷物をまとめて、さっさとクルマに乗せると、双子は喜んでローエラに手を振った


●初めての町
なんという光の洪水! すごい人の波!






児童ホームには3歳~16歳までの男女16人の子どもがいる
院長はスベア・シェーベルイ みんなはスベアおばさんと呼んでいる

ローエラは新しい環境に抵抗なく溶け込ませたが
自分のものの考え方、価値観はそのままで、町に適応できずにいた

町では自分の力を使う必要がない
部屋は暖かく、スイッチを押せば明かりがつく

火のない生活は理解できない
こういう明かりに照らされると、人間は灰色になり、抹殺されてしまうだろう

町ではあらゆる音が騒音に飲み込まれる

そして、ほんとうの空気がない においだけ
ガソリン、排気ガス、工場の煙、、、
どうやって呼吸ができるだろう 胸が苦しくなるだろうに

都会の人々は互いに挨拶さえしない
村ではどんなに仲が悪くても、顔を合わせれば会釈ぐらいはする

そしてよく微笑する 笑いすぎるくらいだ

ローエラは勉強ができて、全科目が合格だったため5年生に編入された
担当はスコーグ先生 とても美しく、いつも素晴らしい香りがする


●父の日の絵
アディナおばさんがよく言っていた
「この世の出来事は、みんななにかしら意味がある」

アグダが森に来たのも、ローエラがパパに再会することを示唆しているように思えてきた
後ろ姿の父と再会する自分の絵を描くと、みんなに褒められた







双子の弟は、アグダの5歳の息子トミーとすっかり仲良くなって、ローエラはやきもちを焼く
だが、大人の不実に比べたら、小さい子どもの不実を許すのはずっと易しい

ローエラは手持ち無沙汰で、娯楽で時間をつぶすなんて惨めなことに映った
あれで楽しんでるつもりらしいけれど・・・

アディナおばさんから手紙が来て、筆まめなローエラは早速返事を出した

「町の人は世界一のなまけ者です
 外へゴミを捨てるのも面倒でダストシュートに放りこみます
 建物はたちはちゴミだらけになりそうです
 だから、次々と高い家を建てるのでしょう」


●モナ
児童ホームは定員ギリギリで、これまで1人部屋はローエラだけだったが
突然、14歳のモナがやって来て、たくさんの荷物でいっぱいになる







ここではなんでももらえるけれど、自分のモノは何もない
森の家では何ももらえないけど、全部自分のモノだった

モナ:人間に生まれたからには、生きがいのある暮らしをしなくちゃね

髪にカーラーをたくさんつけて、顔がテカテカになるほどクリームを塗り
ヒットソングを自由に歌うモナだが、夜になるとお祈りは欠かさない

モナ:子どもたちを愛してくださる神さま どうぞお守りください・・・


●クリスマス
町ではほんものの星はひとつも見えない
デパートでは人々がひしめいてプレゼントを買っている
勝手に商品を持ってレジで支払うシステムも初めてなローエラ

買い物が楽しいというのは思いがけない発見だった
村では1つの必要悪で、みんな買わずに済むようギリギリの努力をしていたから

学校の同級生エーバとビルイッタにバッタリ会い
2人は父へのプレゼントを探している
ローエラはパパが船で各国を旅しているとウソをつく

外国切手のコレクションをしているエーバに頼まれて
次、手紙が来たら、切手をあげる約束をして後悔する

ビルイッタ:あなたもパパにこれを買ってあげたら?

すすめられたひげそりクリーム“ポップ・ビリル”は3クローナもした

3人で75エーレのソフトクリームを食べるのも初体験
他人をよく知らなくても、共通のものは持てると直感し
都会の生活が無意味で惨めだとは限らないと知った








●結婚
父はもう再婚して、子どももいるかもしれない、と不安になり
アグダにそれとなく聞くと

アグダ:
その気ならイリスと結婚できたのに、とても自尊心の強い人だから
結婚したがる人なんていないでしょうよ

かまやしない 私はパパが欲しいんだ


●青いブラウス
アディナおばさんから小包みが来て、アメリカにいるママからのお土産で
この世のものとは思えないほど美しい青いブラウスが届いた

モナとケンカになるたび、お手伝いのリスベートが仲裁に入る

リスベート:
私は子どもが善良な心の持ち主だと信じてるんですよ
児童ホームのみんなは1つの大きな家族のようなもの







モナ:父や母は取り換えられるけど、きょうだいが取り換えられると思ってるの?
ローエラは同感する きっとモナにもきょうだいがいるのだろう

学校に青いブラウスを着ていくと、羨ましがられて
父からのプレゼントだとまたウソをついてしまう
そのウソをローエラも信じ込み、白昼夢を見るようになる

あらゆる事故、災難から男性を救い、彼が言う
「ローエラだって? じゃあ、あんたは私の娘に違いない!」








●古い切手
切手の店に入ると、老店主を手伝ったお礼に1袋の外国切手をもらい
毎日のように「パパからの手紙がきた」と言ってエーバに切手をあげる

封筒に古切手を貼り、学校で手紙を読むフリもした
クラスメイトのユーノがいたずらで突然手紙を奪って見ると白紙に気づいて驚く

ローエラ:みんなに見られないように、パパは見えないインキで書いたのよ!
校長が仲裁に入り、ローエラに手紙を返すように言う
ローエラは恥ずかしくなり、手紙の魅力は失われた


●夜遊び
アディナおばさんから、春になったら家に越してこないかと手紙がきたが
パパに会うまでは帰れないと決心し、学年末までいると返事を書く

学校でインフルエンザが流行り、ローエラも熱を出して寝ていると
夜中に窓から外に出るモナを見る

別の日は、友人マッガンが部屋に来て、3人で霊媒ゲームをする
モナの叔母は交霊術の会員で霊能力を持っていると話す







マッガンのBFを取ったのは誰か、とコップに質問をこっそり吹き込み
コップに軽く指をそえると、アルファベットを書いた紙の上を動いて守護霊が答えてくれる

ローエラは父がいつ現れるか聞き「4月」と出る
その日は4月1日で、「今日こそきっと」「明日こそは」と毎日、緊張の日がつづく

アディナおばさん曰く、仕事は「俗界」のもの
考え事などは「霊界」のものに属している

田舎にいた頃はいつも仕事に追われていたが
都会にいると仕事はまったく不必要だ

人々は笑いと涙の中間を綱渡りして、幸せとも不幸せともいえない
田舎の人は泣く時は思いきり泣き、笑う時は思いきり笑う
そして、その理由をちゃんと知っている


町には言葉があふれて、多すぎて困るくらいだ
ある日、ラジオから詩人が自作の詩を朗読しているのを聞き
正しく使えば、言葉は俗界と霊界の境界をなくすことができると気づく


●バールボルイスメッソアフトン 春祭り前夜 4月最後の日
モナとマッガンの占いは当たったのに、ローエラのパパにはまだ会えない
ローエラは、モナの夜遊びに連れて行ってくれと頼む
この最後のチャンスに一切を賭けよう

10時半頃、口笛が聞こえ、外にクルマが待っていて
マッガン、ベッラ、ヨッケ、モナは夜の町を猛スピードで走る
ローエラはその幸福感に酔いしれた

ヨッケが港へ寄ろうと言い出したのも暗示に思えて、クルマを降りて
船から自分がよく見えるように立っていたが、誰も見ていない







クルマに戻ると、故障して路肩に停め、警官が2人来て
16歳のヨッケは無免許なため、警察に送られ、ホームに戻ったのは夜の12時
院長に怒られて、モナは夜に出かけることをしなくなった


●泣き声
夜、モナは泣いて「ウチが恋しい」と言う

モナ:
母は末っ子を連れて家を出て、再婚した
2人の兄はストックホルムで働いている

父もすぐ再婚して、自分が邪魔だと気づいて、不良仲間とつるむようになった
店のモノを万引きして、父にバレた

父はよくお金をくれて、夜遊びしても何も言わなかったが
急に物分かりが悪くなり、ここにきた
カミナリ親父みたいに叱ってくれたほうがいっそ良かった

どこでもいつも同じ中古レコードを聞かされる
「理解してます」「理解してます」
父は子どもを理解する必要はない いつも好いてくれればそれでいいんだ

ローエラはずっと聞きたかった質問をする
ローエラ:どうしてあの占い、当たらなかったのかしら?
モナ:エイプリルフールよ

霊にかつがれるなんてバカだった
こうあってほしいと願う心に惑わされたんだ

パパは私のことなど気にかけてない
人間は自分の力で生きなければならない
なにも期待しないことだ

アディナおばさんの有難みが身に染みて、すぐに手紙を書く
「この世で子どもが望みうるものの中で、一番ステキなのはパパだと信じていた
 学校が終わったらすぐウチに帰ります」

アディナおばさんから返事が来て、帰省の切符も同封されていた
駅まで迎えに行くと書かれている

私はもう自由の身なのだ
町はもうローエラをつなぎとめる力をもたない


●6月5日
ローエラは優等賞をもらった
スベアおばさんに刺繍のハンカチ、モナにはイヤリング
庭に植える花の種を買い、自分には都会の香りを買おうと思いつく

化粧品店で1つずつにおいをかいで、ようやくスコーグ先生の香りを探し出す
1箱8クローナの高級石鹸だが、店員はローエラのためにバラで売ってくれた

モナは叔母の所に行くことになった

当日の朝早く、ローエラは市役所前の古い泉に下着姿で入り、買った石鹸で体を洗う!
警官が声をかけて、公共の場だからと注意する

双子の弟をスベアおばさんのクルマに乗せるとモナになつく
小さい子はなんでもすぐ忘れてしまうものなのだ
列車が来て、手紙を書くと約束して、別れを惜しむ

ローエラはまた本来の自分を取り戻しかけている
さあ、これからは「現在」があるだけ

迎えに来たアディナおばさんの馬車を走らせると人々の視線が痛い
「おや、見違えるほど上品になったこと」


●パパ・ペッレリン
家に着いたが、かかしのパパ・ペッレリンがなく、代わりに見知らぬ男が話しかける






男:
数か月前からフレドリクの家で厄介になっている
昔、ここに住んでいて、戻っていいと手紙をもらい、すごく嬉しくてね
私には娘が1人いて、そこに行こうかと思ってるんだ
ローエラという名前なんだ

男は両手を広げて、パパ・ペッレリンと同じ格好をしている
これは白昼夢ではない

ローエラ:私もローエラって名前なの・・・
父:じゃあ、あんたは私の娘に違いない



訳者あとがき





原題は“Pappa Pellerins dotter”(パパ・ペッレリンの娘)
父への思慕をえがいた一種の心理小説
自分の孤独を見つけて、わが道をゆく少女

底流には現代文明批判がある
昭和40年に国連人間環境会議がストックホルムで開かれた

家庭崩壊から不良化したモナの告白から
非行の背後には、無気力で、妙にものわかりのよい親が多いと分かる


マリア・クリスチーナ・グリーペ
1923年 ストックホルム生まれ
1946年 グリーペと結婚 挿絵をほとんど描いている

スウェーデン児童文学では、リンドグレーンが有名だが
グリーペもそれに続く最重要作家の1人と言われる

『ヒューゴとジョセフィーン』の連作は映画化され
日本でも『天使のともしび』として上映された


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