1974年初版 白木茂/訳 小坂しげる/挿画
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
これまでの文学作品と趣きが違った作品
『ほらふき男爵』みたいなノリで陽気な南プロバンスのある村の会長が主人公
のんきで飄々とした性格で周りを知らずに振り回すのは『ぼくの叔父さん』ぽい
「世界の文学」シリーズの『罪と罰』などと並んでいるのがフシギな感じ
登山家の集まりの会長なのに、登山はからきしで
超やきもち焼きな副会長との選挙を控えて、名誉を守るため高山に登る決心をする
根っからのほらふきの元会員から、スイスはどこもかしこも観光会社が牛耳ってて
住民全員が金儲けに絡んでるため、どんなに過酷な山でもカンタンに登れちゃう
ってウソをまともに信じてるため、危険なクレバスを前にしても陽気に歌ったりしてるw
でも、よくよく考えると、不安や恐怖って、ヒトの思考が生み出した妄想で
この世は、自分が創造した仮想空間って説を
1880年代にすでに面白おかしく伝えていたのでは?
などと深読みすると興味深い
フランス人はみんな愛を語り、陽気でお喋り大好き、人生を楽しむイメージだけど
パリの北フランスと、南プロバンスでは性質が違っているという説は意外
南フランスはつねに暑くて退屈なほどだが
登山に行った先々は常に雨や雪で暗く閉ざされている描写も対照的
【内容抜粋メモ】
●訳者まえがき おもしろおかしさの奥にあるもの
古今のすぐれた文芸作品は、赤の他人を、私たちの友人にしてくれ
時代、国境を越えて、人生を知らせてくれる
すぐれた文学者は、人生を見つめ、よく考えた人たちだからです
登場人物
<タラスコン>
タルタラン タラスコン・アルプス・クラブ会長 ライオン狩りの話が自慢
コストカルド 銃砲店の店主 副会長 やきもち焼き
ベジュケー 薬剤師
パスカロン ベジュケー薬局の助手 タルタランの熱狂的ファン
ボンパール 生来のほら吹き
ソーニャ・ワシリエフ ロシア娘 病気の兄ボリスとスイスに逃亡中のアナキスト
マニロフ クレムリン宮殿を爆破したアナキストの首領格
●山上のワルツ
1880年 アウプス連山の女王と呼ばれるリギ山は吹雪
リギ・クルム館は贅沢なホテルで、ご来迎を見るために世界中から観光客が集まっているが
数日間ずっと霧に覆われて、みんなすっかり退屈している
そこにタラスコンからやって来たタルタランが
大仰な登山グッズをガチャガチャいわせて入ってきて注目を浴びる
夕食の席は米派とスモモ派できっちり分かれる(これがフシギw
そんなことにはおかまいなしの陽気なタルタランはのけ者にされる
金髪美人のロシア娘ソーニャに惹かれる
連れの兄は病気で部屋にいると言う
喫茶室も、読書室も、玉突き場も静寂で誰一人として喋りもせず
サロンに3人の楽隊が入って来た時、タルタランはここぞとばかり
シュワンタラ教授夫人をダンスに誘い、あっという間にあちこちがダンスパーティーと化す
●タラスコン
南フランスのプロバンス地方の豆つぶほどの町
人々は陽気で、ほら吹きで、感傷的
それらをすべて持ち合わせたのがタルタラン
タラスコン・アルプス・クラブ会長をしているが
銃砲店店主のコストカルド副会長は、自他ともに認める超やきもち焼きで
タルタランが目の上のたんこぶ
タルタランは登山をしないが、コストカルドは先頭に立って、連山を踏破している
次の選挙では、絶対にタルタランを追い落としてやろうと躍起になっている
なぜタルタランは登山をしないのかと問い詰めたため
命がけの遠征を計画して体力づくりから始め、登山用品を買い集める
遺言状まで書いて、憎き宿敵コストカルドにまで遺産を遺すと書いた
●さらば故郷よ
夜10時 ベジュケー薬局の薬剤師を訪ねて、心の内を話し
遺言状の代理人に選んだと話すと泣いて感激する
●リギ山
自分はフランスどこでもタラスコンと同じように有名だと信じて疑わないタルタラン
リギ山頂まで鉄道が走ってるのを無視して、豪雨の中、洪水のような坂道を登りはじめる
1、2時間で着く行程に6時間もかけて、ようやくホテルに着いた
ようやくご来迎が見れると、ボサボサ頭のまま観光客が詰めかけるが
霧が濃くて何も見えず、寒すぎて、みんな部屋に戻る
翌日、タルタランの部屋のガラスにメモが張ってある
“とんまなフランス野郎、そんな恰好で誤魔化そうったってムダだ”
政治犯などと間違われているのではないかと監視の目を怖がる
広間の壁にはギュスターブ・ドレの有名な版画『マッターホルンの惨事』が飾ってある
命綱のロープをした4人の登山者が垂直の雪の斜面を転げ落ちる場面
タルタランは信用のおけるガイドを探すと
今朝、ペルーの家族のポーターとして出かけて
カルトバートに向かい、今テルスプラットにいると教えてもらう
テルスプラットはタルタランが英雄視しているウィリアム・テルの巡礼地の1つ
日の出、日の入りの拝観料込みの勘定を払って、早速出発する
●ウィリアム・テル礼拝堂
船室も幽霊船のように陰気臭く、ホテルの米派・スモモ派も乗っている
テルスプラッテに着き、クック観光団についていくと
礼拝堂は工事中で、画家がウィリアム・テルの生涯を壁画に描いている
タルタラン:この大弓の構えはなっちょらん!
ピッケルを弓のように構えてみせると、画家は喜んでデッサンするw
画家:顔なぞどうでもいい どうせ実在の人物じゃないのだから
尊敬する人物が伝説と分かりガッカリするが
いもしない人を記念する像やお堂を建てたり
世界中からそれを観て大騒ぎをしていることが可笑しくなる
●ペテン師
テルスプラッテホテルにいるガイドを訊ねると
タラスコンで「ペテン師」として有名なボンバールで
2人は「とにかく」「なにせ」「ところで」などのタラスコン言葉で大いに語り合う
ボンパールはアルプス・クラブを辞めてから、いろいろな経験をしてきた
タルタランを人の少ない場所に連れて行って、スイスのからくりについて話す
ボンパール:
スイスにはからくりのない所などない
まるでオペラ座の舞台裏だ
滝には一晩中灯がついてるし
氷河の入り口にはゲートがある
山登りには水力鉄道やケーブルカーがある
ユングフラウ山も何の危険もない
クレバスの底にゃ門番がいて、「お客さま、荷物は?」てね(w
ウエッターホルンは売上が悪かったが
ちょっとした事故があってから収入はうなぎ登りだ
事故に遭った人もぴんぴんしてる
半年ばかり外国に消えてもらっただけだ
ガイドも旅館もみんな会社の使用人なんです
ソーニャは軍事参議院議長の将軍を銃殺して、兄ボリスを無期懲役にした
最近はスイスに住み、ボリスはシベリアから脱走したが
胸をやられて保養させている
連れのマニロフは、クレムリン宮殿を爆破したアナキストの首領格
スイスはアナキストらの亡命場所で、ロシアは大勢の監視人を送りこみ
変装して、行動を監視している
脅迫メモを張られたタルタランはすっかり怯えたため
ボンパールはタラスコンまでの遠回りの道を教える
●駅馬車
15台もの駅馬車隊の1つに乗ると、ソーニャ、ボリス、マニロフらと一緒で震え上がるが
一緒に旅すると、とても陽気なため凶悪犯には見えない
“そもそも人間は、互いを傷つけ合いながら、一生を過ごすことはできない”
ここでもタルタラン自慢の猛獣狩りの話になり
マニロフはタルタランからロープを借りて馬車を降りる
宮殿を爆破した際、大勢が死んだのに、目的の人物だけ逃げられた
射撃場でタルタランは見事に的を撃ちぬいて、歓声が上がる
●スイスの手紙
タラスコンではタルタランが急に姿を消して大騒ぎ
ベジュケーはタルタランからの手紙をもらいアルプス・クラブの会議に向かう
コストカルドはすっかり会長のイスに座ってご満悦だったが
手紙にこれからユングフラウに登るから旗を送ってくれとあり、やきもちで顔が黄色くなる
3人の代表が選ばれる
プラビダ、ペグラード、ベジュケーの代理としてパスカロン
●ユングフラウ・ホテル
保養地に来ても、どんどん痩せ細るボリス
タルタランはソーニャとボリスをタラスコンに誘う
タルタラン:
暴君をやっつけても、またぞろ、ほかの暴君が来て、繰り返す
そのうち年月が経ち、若い幸福な時が過ぎる
と説得するが、耳を貸さない
ボリビンは3年間、1人で革命新聞の印刷をする間、一歩も部屋から出なかったし
マニロフは宮殿の地下室に半年も潜み、チャンスを狙っていた
2人の周りには国外追放、死刑宣告を受けた者もたくさんいるが皆若者ばかり
タルタラン:わしはあんたが好きなんじゃ
ソーニャ:なら、それに値する仕事をおやりなさいな
3人の代表者がタルタランに旗を渡す
4人でユングフラウに登ることになる
●ユングフラウの空高く
ガイドは暗くなる前に第一宿営地の小屋に着きたいが
登山が初めてのタルタランは、ボンパールの会社説を信じているため陽気そのもの(w
ガイドは彼が有名な登山家で、シャンパンに酔っぱらっているだけだと誤解する
クレバスの前でも自信満々で、その陽気さはガイドまで伝染する
山小屋にアメリカ人親子が入って来る
有名な盲目の登山家と、彼のサポートをしている息子
真夜中の2時に出発して、昼に登頂の予定だが
雪で真っ白に変わり、ちょっとした音や振動で雪崩が起きる中でも
愉快に歌うタルタランを2人のガイドが支える(w
とうとう大きなクレバスに引っかかり、やっとのことでタルタランを引き上げる
頂上に着いて、旗をたてると、ホテルから望遠鏡で見ていた宿泊客が祝砲をあげる
太陽光が霧に反射し、タルタランを映し出した様はまさに伝説にある
“雪の中をさまようスカンジナビアの神々”
●ボニバールの土牢
モントルーにソーニャがいると知り、伝説の土牢を観たいとウソをついて立ち寄る
ソーニャを見かけて声をかけると、兄が22歳の若さで死んだ墓に着く
ソーニャ:
マニロフが国境で待っているから出発する
私が好きならついていらっしゃい
タルタランが断ろうとすると「おしゃべり!」と言って去る
その帰り、フルスピードの馬車に3人の代表者が憲兵と一緒に乗っているのを見る
タルタランも捕まり土牢に入れられるが、これもからくりの1つだと思い込む
土牢のかき入れ時に渋い顔をする番人は、お金を渡すと布団や食べ物を用意してくれる
そこにリギで一緒だったクック観光旅行団が観に来る(www
タルタランも観光で来ているフリをして、目の前でかんぬきをかけられて恥をかく
郡長に尋問され、マニロフと間違えられる
タルタランのロープでまた殺人を犯したため
イタリアのテノール歌手に扮していた警官が
彼はマニロフじゃないと証言して一行は釈放される
新聞にはタルタランの活躍が大きく書かれ、やきもちを焼いたコストカルドは
モンブランを踏破する予定と知り、それより先に登ろうと言い出すタルタラン
●なかったからくり
ホテルに着いて、ボンパールと再会
モンブランのガイドとしてバルテーじいさんを紹介する
か細く、厭世主義のノルウェー青年と議論になる
タルタラン:君みたいな若さで、人生を嫌がるなんて、何があったんだ
青年:なにもないから退屈なんです
タルタラン:
タラスコンは神の国だ
朝から晩まで笑ったり、歌ったり、踊ったり
●大ラバ小屋
山小屋の主人は、これまでのあらゆる遭難の記念品のコレクションを見せる
タルタラン:モンブランには、会社の設備はないのかね?
ボンパールは自分のついたウソもすっかり忘れていたが
会社の話もウソ、自分がガイドで登った名山の話もウソだと明かす
タルタランは真っ青になり、しばらく黙ったが、タラスコンの名誉を思い
タルタラン:いこう、ゴンザーグ!
ボンパールは登山隊に加えられ、不満たらたらについていくハメになる
ロチュール(大亀裂)の前に来て、スウェーデン青年は
手を離したくなる衝動にかられる
ロープで全員の命がつながっているため
タルタランは説得するもムダと分かり
タルタラン:
どうせ死ぬなら、モンブランの頂上なら素晴らしいと思わないかね?
と言って思いとどまらせる
しばらく進むと、頂上から煙が出て、間もなく猛吹雪になるとガイドが予想
今度はタルタランらが帰ろうと言い、スウェーデン青年は強行突破を主張し二手に分かれる
小屋まで戻るのに迷い、氷の穴に避難するタルタランとボンパール
タルタラン:
許してくれ、ゴンザーグ
わしはこれまでライオンを殺したことなど一度もない
ボンパール:驚きませんね タラスコンの人間は生まれた時からほら吹きなんだ
ボンパールがうっかりコストカルドの話をして、タルタランのプライドに再び火がつく
2人は逆の方向に進み、途中でロープが切れる
大ラバ小屋に着いたボンパールはボロボロで故郷に戻る
スウェーデン青年とガイドは頂上をきわめて戻るが
タルタランは1週間の捜索も空しく見つからない
●会長、ばんざい!
タルタランの葬式が行われ、町中が静まり返る
医師の娘トウルナトワールは、タルタランを密かに想い
30年以上も前の家を通るタルタランを見つめ続けてきたが
この日もボロボロになったタルタランを見て驚く
タルタランとボンパールは恐怖のあまり、同時にロープを切り
タルタランはイタリア側の小屋に着いて、後悔しながら帰郷した
教会の鐘はボンパールの葬式だろうと思う
クラブではボンパールがあることないこと話している
モンブラン登頂後、クレバスに落ちたタルタランを90回以上も探し回ったなど(w
その後ろに本人が現れ、2人は再会を喜び、コストカルドはまたやきもちで黄色くなる
■解説 作家と作品 ドーデについて
アルフォンス・ドーデ
1840年 南フランスのプロバンス地方に生まれる
幼い頃から病身、父は破産し、ドーデは自習教員になる
弟想いの兄がパリに誘い、好きな文学を学ぶ
18歳で『恋する女たち』を出版するが、どこからも断られる
政治家モルニー公爵が才能を認めて秘書に採用
公爵が亡くなり、パトロンを失うが、新聞に原稿を載せて自立していた
彼の名を不朽にした『風車小屋だより』を出版
結婚の翌年に、自伝的小説『プチ・ショーズ(ちびすけ)』を発表
普仏戦争に従軍
44歳頃から悪性のリューマチに悩まされる
1897年 享年57歳で死去
1872年『陽気なタルタラン』
1885年『アルプスのタルタラン』
1890年『タラスコン港』
三部作といえど、主人公が同じだけで、独立した作品
タルタランは、南フランスのプロバンス地方で見かける典型的人物
フランス人の祖先はゴール人
お喋り好き、勘が良く、陽気に明るく暮らす気質
パリをふくむ北フランスは、灰色の空に陰気な空気なのと正反対
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
これまでの文学作品と趣きが違った作品
『ほらふき男爵』みたいなノリで陽気な南プロバンスのある村の会長が主人公
のんきで飄々とした性格で周りを知らずに振り回すのは『ぼくの叔父さん』ぽい
「世界の文学」シリーズの『罪と罰』などと並んでいるのがフシギな感じ
登山家の集まりの会長なのに、登山はからきしで
超やきもち焼きな副会長との選挙を控えて、名誉を守るため高山に登る決心をする
根っからのほらふきの元会員から、スイスはどこもかしこも観光会社が牛耳ってて
住民全員が金儲けに絡んでるため、どんなに過酷な山でもカンタンに登れちゃう
ってウソをまともに信じてるため、危険なクレバスを前にしても陽気に歌ったりしてるw
でも、よくよく考えると、不安や恐怖って、ヒトの思考が生み出した妄想で
この世は、自分が創造した仮想空間って説を
1880年代にすでに面白おかしく伝えていたのでは?
などと深読みすると興味深い
フランス人はみんな愛を語り、陽気でお喋り大好き、人生を楽しむイメージだけど
パリの北フランスと、南プロバンスでは性質が違っているという説は意外
南フランスはつねに暑くて退屈なほどだが
登山に行った先々は常に雨や雪で暗く閉ざされている描写も対照的
【内容抜粋メモ】
●訳者まえがき おもしろおかしさの奥にあるもの
古今のすぐれた文芸作品は、赤の他人を、私たちの友人にしてくれ
時代、国境を越えて、人生を知らせてくれる
すぐれた文学者は、人生を見つめ、よく考えた人たちだからです
登場人物
<タラスコン>
タルタラン タラスコン・アルプス・クラブ会長 ライオン狩りの話が自慢
コストカルド 銃砲店の店主 副会長 やきもち焼き
ベジュケー 薬剤師
パスカロン ベジュケー薬局の助手 タルタランの熱狂的ファン
ボンパール 生来のほら吹き
ソーニャ・ワシリエフ ロシア娘 病気の兄ボリスとスイスに逃亡中のアナキスト
マニロフ クレムリン宮殿を爆破したアナキストの首領格
●山上のワルツ
1880年 アウプス連山の女王と呼ばれるリギ山は吹雪
リギ・クルム館は贅沢なホテルで、ご来迎を見るために世界中から観光客が集まっているが
数日間ずっと霧に覆われて、みんなすっかり退屈している
そこにタラスコンからやって来たタルタランが
大仰な登山グッズをガチャガチャいわせて入ってきて注目を浴びる
夕食の席は米派とスモモ派できっちり分かれる(これがフシギw
そんなことにはおかまいなしの陽気なタルタランはのけ者にされる
金髪美人のロシア娘ソーニャに惹かれる
連れの兄は病気で部屋にいると言う
喫茶室も、読書室も、玉突き場も静寂で誰一人として喋りもせず
サロンに3人の楽隊が入って来た時、タルタランはここぞとばかり
シュワンタラ教授夫人をダンスに誘い、あっという間にあちこちがダンスパーティーと化す
●タラスコン
南フランスのプロバンス地方の豆つぶほどの町
人々は陽気で、ほら吹きで、感傷的
それらをすべて持ち合わせたのがタルタラン
タラスコン・アルプス・クラブ会長をしているが
銃砲店店主のコストカルド副会長は、自他ともに認める超やきもち焼きで
タルタランが目の上のたんこぶ
タルタランは登山をしないが、コストカルドは先頭に立って、連山を踏破している
次の選挙では、絶対にタルタランを追い落としてやろうと躍起になっている
なぜタルタランは登山をしないのかと問い詰めたため
命がけの遠征を計画して体力づくりから始め、登山用品を買い集める
遺言状まで書いて、憎き宿敵コストカルドにまで遺産を遺すと書いた
●さらば故郷よ
夜10時 ベジュケー薬局の薬剤師を訪ねて、心の内を話し
遺言状の代理人に選んだと話すと泣いて感激する
●リギ山
自分はフランスどこでもタラスコンと同じように有名だと信じて疑わないタルタラン
リギ山頂まで鉄道が走ってるのを無視して、豪雨の中、洪水のような坂道を登りはじめる
1、2時間で着く行程に6時間もかけて、ようやくホテルに着いた
ようやくご来迎が見れると、ボサボサ頭のまま観光客が詰めかけるが
霧が濃くて何も見えず、寒すぎて、みんな部屋に戻る
翌日、タルタランの部屋のガラスにメモが張ってある
“とんまなフランス野郎、そんな恰好で誤魔化そうったってムダだ”
政治犯などと間違われているのではないかと監視の目を怖がる
広間の壁にはギュスターブ・ドレの有名な版画『マッターホルンの惨事』が飾ってある
命綱のロープをした4人の登山者が垂直の雪の斜面を転げ落ちる場面
タルタランは信用のおけるガイドを探すと
今朝、ペルーの家族のポーターとして出かけて
カルトバートに向かい、今テルスプラットにいると教えてもらう
テルスプラットはタルタランが英雄視しているウィリアム・テルの巡礼地の1つ
日の出、日の入りの拝観料込みの勘定を払って、早速出発する
●ウィリアム・テル礼拝堂
船室も幽霊船のように陰気臭く、ホテルの米派・スモモ派も乗っている
テルスプラッテに着き、クック観光団についていくと
礼拝堂は工事中で、画家がウィリアム・テルの生涯を壁画に描いている
タルタラン:この大弓の構えはなっちょらん!
ピッケルを弓のように構えてみせると、画家は喜んでデッサンするw
画家:顔なぞどうでもいい どうせ実在の人物じゃないのだから
尊敬する人物が伝説と分かりガッカリするが
いもしない人を記念する像やお堂を建てたり
世界中からそれを観て大騒ぎをしていることが可笑しくなる
●ペテン師
テルスプラッテホテルにいるガイドを訊ねると
タラスコンで「ペテン師」として有名なボンバールで
2人は「とにかく」「なにせ」「ところで」などのタラスコン言葉で大いに語り合う
ボンパールはアルプス・クラブを辞めてから、いろいろな経験をしてきた
タルタランを人の少ない場所に連れて行って、スイスのからくりについて話す
ボンパール:
スイスにはからくりのない所などない
まるでオペラ座の舞台裏だ
滝には一晩中灯がついてるし
氷河の入り口にはゲートがある
山登りには水力鉄道やケーブルカーがある
ユングフラウ山も何の危険もない
クレバスの底にゃ門番がいて、「お客さま、荷物は?」てね(w
ウエッターホルンは売上が悪かったが
ちょっとした事故があってから収入はうなぎ登りだ
事故に遭った人もぴんぴんしてる
半年ばかり外国に消えてもらっただけだ
ガイドも旅館もみんな会社の使用人なんです
ソーニャは軍事参議院議長の将軍を銃殺して、兄ボリスを無期懲役にした
最近はスイスに住み、ボリスはシベリアから脱走したが
胸をやられて保養させている
連れのマニロフは、クレムリン宮殿を爆破したアナキストの首領格
スイスはアナキストらの亡命場所で、ロシアは大勢の監視人を送りこみ
変装して、行動を監視している
脅迫メモを張られたタルタランはすっかり怯えたため
ボンパールはタラスコンまでの遠回りの道を教える
●駅馬車
15台もの駅馬車隊の1つに乗ると、ソーニャ、ボリス、マニロフらと一緒で震え上がるが
一緒に旅すると、とても陽気なため凶悪犯には見えない
“そもそも人間は、互いを傷つけ合いながら、一生を過ごすことはできない”
ここでもタルタラン自慢の猛獣狩りの話になり
マニロフはタルタランからロープを借りて馬車を降りる
宮殿を爆破した際、大勢が死んだのに、目的の人物だけ逃げられた
射撃場でタルタランは見事に的を撃ちぬいて、歓声が上がる
●スイスの手紙
タラスコンではタルタランが急に姿を消して大騒ぎ
ベジュケーはタルタランからの手紙をもらいアルプス・クラブの会議に向かう
コストカルドはすっかり会長のイスに座ってご満悦だったが
手紙にこれからユングフラウに登るから旗を送ってくれとあり、やきもちで顔が黄色くなる
3人の代表が選ばれる
プラビダ、ペグラード、ベジュケーの代理としてパスカロン
●ユングフラウ・ホテル
保養地に来ても、どんどん痩せ細るボリス
タルタランはソーニャとボリスをタラスコンに誘う
タルタラン:
暴君をやっつけても、またぞろ、ほかの暴君が来て、繰り返す
そのうち年月が経ち、若い幸福な時が過ぎる
と説得するが、耳を貸さない
ボリビンは3年間、1人で革命新聞の印刷をする間、一歩も部屋から出なかったし
マニロフは宮殿の地下室に半年も潜み、チャンスを狙っていた
2人の周りには国外追放、死刑宣告を受けた者もたくさんいるが皆若者ばかり
タルタラン:わしはあんたが好きなんじゃ
ソーニャ:なら、それに値する仕事をおやりなさいな
3人の代表者がタルタランに旗を渡す
4人でユングフラウに登ることになる
●ユングフラウの空高く
ガイドは暗くなる前に第一宿営地の小屋に着きたいが
登山が初めてのタルタランは、ボンパールの会社説を信じているため陽気そのもの(w
ガイドは彼が有名な登山家で、シャンパンに酔っぱらっているだけだと誤解する
クレバスの前でも自信満々で、その陽気さはガイドまで伝染する
山小屋にアメリカ人親子が入って来る
有名な盲目の登山家と、彼のサポートをしている息子
真夜中の2時に出発して、昼に登頂の予定だが
雪で真っ白に変わり、ちょっとした音や振動で雪崩が起きる中でも
愉快に歌うタルタランを2人のガイドが支える(w
とうとう大きなクレバスに引っかかり、やっとのことでタルタランを引き上げる
頂上に着いて、旗をたてると、ホテルから望遠鏡で見ていた宿泊客が祝砲をあげる
太陽光が霧に反射し、タルタランを映し出した様はまさに伝説にある
“雪の中をさまようスカンジナビアの神々”
●ボニバールの土牢
モントルーにソーニャがいると知り、伝説の土牢を観たいとウソをついて立ち寄る
ソーニャを見かけて声をかけると、兄が22歳の若さで死んだ墓に着く
ソーニャ:
マニロフが国境で待っているから出発する
私が好きならついていらっしゃい
タルタランが断ろうとすると「おしゃべり!」と言って去る
その帰り、フルスピードの馬車に3人の代表者が憲兵と一緒に乗っているのを見る
タルタランも捕まり土牢に入れられるが、これもからくりの1つだと思い込む
土牢のかき入れ時に渋い顔をする番人は、お金を渡すと布団や食べ物を用意してくれる
そこにリギで一緒だったクック観光旅行団が観に来る(www
タルタランも観光で来ているフリをして、目の前でかんぬきをかけられて恥をかく
郡長に尋問され、マニロフと間違えられる
タルタランのロープでまた殺人を犯したため
イタリアのテノール歌手に扮していた警官が
彼はマニロフじゃないと証言して一行は釈放される
新聞にはタルタランの活躍が大きく書かれ、やきもちを焼いたコストカルドは
モンブランを踏破する予定と知り、それより先に登ろうと言い出すタルタラン
●なかったからくり
ホテルに着いて、ボンパールと再会
モンブランのガイドとしてバルテーじいさんを紹介する
か細く、厭世主義のノルウェー青年と議論になる
タルタラン:君みたいな若さで、人生を嫌がるなんて、何があったんだ
青年:なにもないから退屈なんです
タルタラン:
タラスコンは神の国だ
朝から晩まで笑ったり、歌ったり、踊ったり
●大ラバ小屋
山小屋の主人は、これまでのあらゆる遭難の記念品のコレクションを見せる
タルタラン:モンブランには、会社の設備はないのかね?
ボンパールは自分のついたウソもすっかり忘れていたが
会社の話もウソ、自分がガイドで登った名山の話もウソだと明かす
タルタランは真っ青になり、しばらく黙ったが、タラスコンの名誉を思い
タルタラン:いこう、ゴンザーグ!
ボンパールは登山隊に加えられ、不満たらたらについていくハメになる
ロチュール(大亀裂)の前に来て、スウェーデン青年は
手を離したくなる衝動にかられる
ロープで全員の命がつながっているため
タルタランは説得するもムダと分かり
タルタラン:
どうせ死ぬなら、モンブランの頂上なら素晴らしいと思わないかね?
と言って思いとどまらせる
しばらく進むと、頂上から煙が出て、間もなく猛吹雪になるとガイドが予想
今度はタルタランらが帰ろうと言い、スウェーデン青年は強行突破を主張し二手に分かれる
小屋まで戻るのに迷い、氷の穴に避難するタルタランとボンパール
タルタラン:
許してくれ、ゴンザーグ
わしはこれまでライオンを殺したことなど一度もない
ボンパール:驚きませんね タラスコンの人間は生まれた時からほら吹きなんだ
ボンパールがうっかりコストカルドの話をして、タルタランのプライドに再び火がつく
2人は逆の方向に進み、途中でロープが切れる
大ラバ小屋に着いたボンパールはボロボロで故郷に戻る
スウェーデン青年とガイドは頂上をきわめて戻るが
タルタランは1週間の捜索も空しく見つからない
●会長、ばんざい!
タルタランの葬式が行われ、町中が静まり返る
医師の娘トウルナトワールは、タルタランを密かに想い
30年以上も前の家を通るタルタランを見つめ続けてきたが
この日もボロボロになったタルタランを見て驚く
タルタランとボンパールは恐怖のあまり、同時にロープを切り
タルタランはイタリア側の小屋に着いて、後悔しながら帰郷した
教会の鐘はボンパールの葬式だろうと思う
クラブではボンパールがあることないこと話している
モンブラン登頂後、クレバスに落ちたタルタランを90回以上も探し回ったなど(w
その後ろに本人が現れ、2人は再会を喜び、コストカルドはまたやきもちで黄色くなる
■解説 作家と作品 ドーデについて
アルフォンス・ドーデ
1840年 南フランスのプロバンス地方に生まれる
幼い頃から病身、父は破産し、ドーデは自習教員になる
弟想いの兄がパリに誘い、好きな文学を学ぶ
18歳で『恋する女たち』を出版するが、どこからも断られる
政治家モルニー公爵が才能を認めて秘書に採用
公爵が亡くなり、パトロンを失うが、新聞に原稿を載せて自立していた
彼の名を不朽にした『風車小屋だより』を出版
結婚の翌年に、自伝的小説『プチ・ショーズ(ちびすけ)』を発表
普仏戦争に従軍
44歳頃から悪性のリューマチに悩まされる
1897年 享年57歳で死去
1872年『陽気なタルタラン』
1885年『アルプスのタルタラン』
1890年『タラスコン港』
三部作といえど、主人公が同じだけで、独立した作品
タルタランは、南フランスのプロバンス地方で見かける典型的人物
フランス人の祖先はゴール人
お喋り好き、勘が良く、陽気に明るく暮らす気質
パリをふくむ北フランスは、灰色の空に陰気な空気なのと正反対