◇2人きりだった家族
息子がひき逃げされた道路に、母(42)は週2回立ち続ける。「なぜひいたのか。誰がひいたのか」。通り過ぎる車のナンバーを、ボールペンで1台ずつ書き取っていく。09年9月、埼玉県熊谷市の市道で、小学4年生の小関(こせき)孝徳(たかのり)君(当時10歳)がひき逃げされ死亡した。「子を亡くしたかわいそうなお母さん」とは思われたくない。母が、犯人に手が届くと信じて書きためたナンバーは2万を超えた。 孝徳君が4歳の時に父親が病死した。家族は2人きりだった。「行ってきまーす。お母さん、お仕事頑張ってね」「気を付けてね」。9月30日朝、玄関で交わした最後の声が耳に残る。ひき逃げされたのはその日の夕方。書道教室からの帰り道だった。乗っていたのは青いマウンテンバイク。自分がついていなくても乗るのを許してあげたのは半年前のことだ。 お母さん思いだった。「お父さんは力持ちだった」と聞かされると、「僕も力持ちだよ」と言って買い物袋を持った。夫の病死後に勤め始めた会社が忙しく、割引のお総菜が多い食卓で、たまにチャーハンや焼きそばを作ると、「すっごいおいしい」と喜んだ。初めて焼き肉店で食べ放題を注文した時は「こんなのあるんだ」とはしゃいだ。 学習塾やサッカー教室にも通った。「次はスイミングに行きたい」とねだった。「一生懸命仕事しなくちゃ」とうれしかった。疲れると「足の裏踏んであげる」と、小さな足でマッサージしてくれた。2010年5月23日
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