■「ジギー・スターダスト/Ziggy Stardust And The Spiders From Mars」(1973年・イギリス)
監督=ドン・アラン・ペネベイカー
主演=デビッド・ボウイ ミック・ロンソン
この映画はデビッド・ボウイがグラムロックのカリスマとして大活躍していた頃のドキュメンタリー。だが音質はこもっていて曲によっては聴きづらい。大好きな「屈折する星くず(Ziggy Stardust)」のイントロにもキレがなくってちとがっかりしてしまう。映像もなーんか粗い。それにドキュメンタリーとしては、基本的にライブの様子を追っただけなので”ジギー・スターダスト”を演じてきたボウイの内面に迫ったものとは言い難い。僕としては何よりもそこが見たかった。
しかしそれでも僕らは真剣に見入ってしまう。リアルタイムで聴くことがなかった僕ら世代には、当時のボウイが放つ妖しさを追体験する。次々と替えられる衣装も見どころのひとつだし、熱狂する女の子たちの陶酔の表情も印象的だ。そしてこのハマースミス・オデオンでのライブが、ボウイの突然の「ライブ休止宣言」の瞬間を収めているからである。”ジギー”というキャラクターを演じ始めたボウイ。だがプロモーションの成功でキャラが一人歩きを始め、演じ続けることが大きなプレッシャーとなっていく。この映画に収められた引退宣言はスタッフやバンドにも一切伝えられていなかったことだった。その内容故か、このドキュメンタリーは製作当時は公開されず、ずっと後になって上映されるに至った。
小学校高学年の頃、NHKのドラマ「男たちの旅路」を見た。「墓場の島」というエピソード。警備会社に勤める主人公水谷豊が、「墓場の島」をヒットさせている歌手根津甚八の警護を担当する。歌手は事務所のプロモーションによって歌の本来の意味も変えられ、歌い続けることに悩んでいた。彼はそんな胸中を主人公水谷豊に語り、次のショウで”引退宣言”をすることを明かす。主人公の上司で元特攻隊員だった鶴田浩二に諭されて、葛藤するお話。脚本の山田太一に、デビッド・ボウイが頭にあったかは知らない。ボウイにも葛藤はあっただろう。今回「ジギー・スターダスト」を観てこの頃のボウイに対する興味がさらに湧いてきた。
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