「アンジェラ/Angel-a」(2005年・フランス)
監督=リュック・ベッソン
主演=リー・ラスムッセン ジャメル・ドゥブーズ
10本目の映画を撮ったら監督から引退する、と宣言していたリュック・ベッソン。「アンジェラ」はその10本目である。題材に選んだのは、なんと純なラブストーリー。しかも全編モノクローム。主人公二人に焦点を絞り、橋から身投げするところから始まる・・・僕は映画館に行くまでは「ポンヌフの恋人」のベッソン版?とさえ思っていた。その考えは当たりじゃないけどそれほど外れでもない。奇妙な出会いから始まる二人のラブストーリーは、さすがベッソンらしく僕らをぐいぐい物語の中へ引きずり込む。
「人を愛することの大切さ」をこの映画でベッソンは強く訴えかけてくる。これは「愛の映画」だ。長年暖めていたテーマとはいえ、ミラジョボとの破局を経てこの境地にたどり着いたのか?と勘ぐってしまいたくもなる。それくらい私的な匂いのする映画だ。そう思うのは、どの場面からも愛が感じられるから。特にこの映画でベッソンが愛情を注ぎ込んだのは、パリの町並みだ。セーヌ河畔の風景が実に美しい。「パリが出てこないフランス映画は価値が失われていると感じる」とベッソンは語っている。ヒロインには「パリは世界で一番美しい町」と言わせている。
様々な形に変容してきたフランス映画。その立て役者の一人が他ならぬベッソンだった。僕は思う。この「アンジェラ」はベッソンなりの”フランス映画の原点回帰”なのではないだろうか。いろんな国の映画がお国柄で語られるとき、フランス映画は人を描くことはお家芸。様々な形の”愛”をこれまでも描き続けてきた。この映画はベッソン流の「オルフェ」(ジャン・コクトー)であり、「地下鉄のザジ」(ルイ・マル)であり、「巴里の屋根の下」(ルネ・クレール)だ。セーヌ河畔で右往左往する様はエリック・ロメールの「獅子座」をさえ思わせるじゃないか。そんなフランス映画の伝統を、ベッソンは彼流のやり方で昇華させたのだと僕は感じた。いつも映画の冒頭で水面を映し続けてきたベッソンの視線は、もう下を向いてはいなかった。輝ける空へと向かっていた。なんて幸せなラストシーンだろう!。映画の美に酔え!。