■「エリザベスタウン/Elizabethtown」(2005年・アメリカ)
監督=キャメロン・クロウ
主演=オーランド・ブルーム キルスティン・ダンスト スーザン・サランドン アレック・ボールドウィン
人生っていろんなものを失いながらもいろんな出会いが待っている。生きていく中で何かに節目をつける度に、これまでの関係や状況が失われることを寂しいと思う。だが、すぐに新たな人間関係や状況にも慣れていくことになる。その繰り返しだ。でもそこには人生において大きな意味をもつ出会いも少なくない。だから面白い。生きていくことも、人間も。
「エリザベスタウン」の主人公ドリュー(オーランド・ブルーム)は、靴のデザイナー。斬新な新作をデザインするがこれが見事に大失敗。会社が傾く大損害となり、恋人には去られ、自殺まで考えた。そこに入った父親の訃報。彼はいろんな思いを抱えて父の郷里エリザベスタウンに向かう。道中で知り合ったキャビンアテンダントのクレア(キルスティン・ダンスト)、父の郷里で触れる暖かい人情。葬儀という人生の大きな出来事を通じて、落ち込んでいた主人公が前向きな気持ちに立ち直るまでが優しい視線で描かれている。
この脚本はキャメロン・クロウ監督自身が父親の葬儀で感じた気持ちや、自らのルーツについて考えたことが織り込まれているものなんだとか。クロウ監督は自分の思い入れがどの映画にも反映されている。元ローリングストーン誌の記者だけに音楽に対する思い入れは特に強く、ここでこの選曲かよ!?と驚かされることもしばしばあるし、ビリー・ワイルダー監督作を思わせる演出もする人なので、映画と音楽に対する愛情はどの作品を見ても銀幕のこっち側にまでビシビシ伝わってくる。「エリザベスタウン」では、クラシック映画が突然インサートされて、それが実際の場面と重なるのがおしゃれ。「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーンがドレスの下で靴を脱いじゃう場面と、一夜を明かしたキルスティン・ダンストがベッドの下にある靴をとろうとする場面。音楽に関しては葬儀が終わるまではおとなしめの選曲だったのが、父親の遺灰を助手席に乗せてドリューが旅する場面から新旧ロックが満載。しかもその場面、クレアが、ナビマップに付けられていたオリジナル選曲のCDから流れてくるというから素敵。傍目から見れば、クレアの押しつけがましい行為でもあるのだけれど、それは同時にクロウ監督の思い入れでもある。友達に自分で選曲したカセットやCDをあげたことがあるような人なら、きっとこの映画のクライマックスは心に響く。夜通し携帯電話で話続けたり、夜明けを一緒に見ようと出かける場面とか、ほんわか恋愛ムードがナイス。
お葬式で亡き人の思い出をみんなの前で話すのは、あちらではよくある光景のようだ。次々に語られるエピソードや思い出話。日本の葬式ではない光景だけに、妻スーザン・サランドンが漫才みたいに語り倒す場面を不謹慎に感じる人もいるかもしれない。僕は亡き夫への思いが伝わってグットとくるいい場面だと思ったけれど。それにしてもこの映画に出てくる人々は、いい人ばっかりなんだけど、どこか世間一般とは違う変わった個性的な人が多い。そこも温かく包んでいるようでこの映画の魅力だ。主人公がずっと感じてきた"最後の視線"。「またね」と口では言ってくれていても、きっとその日は来ない。そんな社交辞令的な世の中を見る冷めた視点が主人公の言う"最後の視線"。それがクリスとの間はそうでなかった・・・という美しいラスト。クロウ監督が結局言いたかったのは、「一期一会って大事」ということ。少しだけ背中を押してくれる優しさをもった映画だった。キルスティン・ダンスト主演作と僕は相性がいいみたい。子役時代の「インタビュー・ウィズ・バンパイア」も、脇役の「エターナル・サンシャイン」も、地味な「ウィンブルドン」も「バージン・スーサイズ」も好きな映画。確かにかわい子ちゃんじゃないけど、あんまりブス、ブスって言わないでねw