Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

Swallow/スワロウ

2022-02-03 | 映画(さ行)


◼️「Swallow/スワロウ/Swallow」(2019年・フランス=アメリカ)

監督=カーロ・ミラベラ・デイビス
主演=ヘイリー・ベネット オースティン・ストウェル エリザベス・マーヴェル デヴィッド・ラッシュ

「スリラー」とジャンル分けされる映画たち。辞書的には、恐怖でドキドキさせたり、怖がらせたりする要素に満ちた作品が、映画だろうが小説だろうがスリラー。ふた昔くらい前の感覚と言われるかもしれないが、僕はスリラー映画は「恐怖映画」だけど、ホラーとは違うものだと思っている。例えば「サイコ」「何がジェーンに起こったか?」「ミザリー」「羊たちの沈黙」とか、グロテスクな描写に過剰に頼らずに、観客を最後まで怖がらせて精神的に追い詰めてくる映画たち。だけど近頃スリラーとカテゴリーされる映画って、ちょっと違う。怖がらせたり、不安にさせる要素は含みつつ、映画の主眼は別なところにある。つまり表現方法として、観客を怖がらせる「スリラー」なのだ。例えば「ゴーン・ガール」。さんざんハラハラさせておいて、最後は夫婦ってこんなもんでしょ?と開き直る。見せたかったのはハラハラじゃなくて結末。そこが昔のスリラー映画とは大きく違うのだ。

「Swallow」も一般にはスリラーとカテゴリー分けされている。何不自由のない結婚をしたヒロイン。妊娠してから夫とその両親からの過剰な干渉と孤独に追い詰められていく物語だ。ヒロインはそのストレスが原因なのか、異物を飲み込む"異食症"に陥ってしまう。精神的な原因を見つけて対処しようとするものの、目先の行為を抑え込むことに夫も両親も終始する。その為ヒロインはバスルームの中でしか、一人になれない状況に。

確かにこの状況は怖い。しかも彼女が飲み込むものは、ビー玉から始まって、押しピンになり、だんだん危険なものになる。血も流れるため、一見従来のスリラー的に見える。でも怖がらせることが主な目的のスリラー映画とは違う。押しピンを舌の先に乗せる映像から感じる恐怖は、僕らが肌感覚で感じる恐怖だ。従来のスリラーと違うのは、日常的な恐怖、しかも身内の執着とエゴの怖さが描かれていることだ。決してサイコパスや殺人鬼なんかじゃない。「ゴーン・ガール」で結婚なんて御免だと思ったり、「ファーザー」で認知症の不安を感じたりするのと同じ、手法としての恐怖なのだ。

しかし。この映画は恐怖で終わらない。家から逃げ出したヒロインが自由になろうと歩み出すところで終わるのだ。酷い仕打ちをした夫と両親が懲らしめられる訳でもない。だけど、女子トイレを延々と映し続けるエンドクレジットには、爽やかささえ感じる。そこで、僕らはこの映画が自立のドラマだったことを思い知るのだ。






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウディ・アレンの夢と犯罪

2022-02-01 | 映画(あ行)





◼️「ウディ・アレンの夢と犯罪/Cassandra's Dream」(2007年・イギリス)

監督=ウディ・アレン
主演=ユアン・マクレガー  コリン・ファレル ヘイリー・アトウェル トム・ウィルキンソン

ウディ・アレンがイギリスで撮った三部作の第3作。サスペンス色が強かった「マッチポイント」、コミカルなコメディ「タロットカード殺人事件」に続く本作は、シリアスな人間ドラマ。

事業に手を出す野心家のイアン、ギャンブル好きでなかなかやめられないテリーの兄弟。テリーが抱えた多額の借金返済とイアンが投資資金を工面するために、羽振りのいい叔父に相談した二人。ところが叔父からその対価として持ちかけられたのは殺人だった。

人が殺人に手を染めるきっかけはいろいろあるのだろうが、この映画の兄弟は、大それた犯罪が目的でも、相手への積もり積もった殺意でもない。自分が叶えたい身近な欲望の為に殺人を決行する。それが引き起こす悲劇。

二人が購入した船につけられた名前は、カサンドラズドリーム。ギリシア神話に登場する悲劇の王女で、予言を誰にも信じてもらえなくなる呪いをかけられる。アレン先生はこのギリシア悲劇をひっかけて、兄弟の過ちを現代の寓話のように描いていく。借りものの高級車で虚勢を張るイアンの投資話も、テリーが当てようとする大穴も、人には簡単には信じてもらえない話。それを実現しようと躍起になることから起こる悲劇。ラストは二人の間に起こった真実すら、誰も見つけてくれないのだ。

ユアン・マクレガーのギラついた情熱型キャラと、コリン・ファレルの心配性なのに自制の効かないキャラ。弟を説き伏せて犯行を計画するが具体的な策を出せない兄に対して、燃やせるピストルのアイディアを冷静に出すのは弟。二人の揺れる関係と、クライマックスの船上の二人にハラハラさせられる。テリーの彼女役は「ブルー・ジャスミン」でも好助演だったサリー・ホーキンス。叔父役トム・ウィルキンソンは、物語を大きく動かすキーパーソンで一人勝ちの貫禄。

日頃のアレン映画を期待すると、ニヤリと笑えるところもない。小粋なジャズも流れない。そこで好き嫌いが分かれる映画だと思う。虚飾のハリウッドと古巣ニューヨークを離れたアレン先生は、得意の色恋沙汰コメディを排除したイギリス三部作で、「簡単に人を信じちゃダメだよ」と言ってるように思う。

そしてわれらがアレン先生は、この後再び男と女のドラマに戻ってくる。「結婚って何なの?」と僕らに突きつける快作「それでも恋するバルセロナ」だ。






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする