この日の作業は「可能か不可能か⁉」とまあ、年老いたベルテルの悩みとでも言おうか「やるべきかやらざるべきか⁉」とロミオの苦悶みたいなもんだった。この歳になると夜間頻尿で目を覚ますのだが、悩みは夜間頻尿でなく床に入ってからの煩悶なのであった。「ああでも無い、こうでも無い」から「こうするか、ああやるか」と我が哲学的探究は眠気を覚ますには十分な課題だ。相手は直径50cm、長さにして9メートルの大径木であって、これを増水で突破され洗堀溝となった部分の更なる浸食防止に据えたいのである。
使える道具は牽引力500kgの携行牽引器だから重量計算をするまでも無くオーバー重量なのだった。危険を避けるためには「無理をしない」のは鉄則であるけれど仕上がりの耐久品質を高めるには無理も無駄も必要なのであって、それはとりもなおさず孤老の膝腰肩の負担を更に増加させるのである。深夜の悶々も「楊貴妃にするか、クレオパトラか、はてまたソフェア・ローレンか⁉」のような悶々ならば大歓迎で深夜頻尿も睡眠障害も屁の河童なれど現実は厳しい。深い思索に没入するために「オペラ・アリア集」をBGMとして光頭部に置いたラジカセで聴きながら出した結論は「そうだ孟宗竹を使おう!」という結論である。このやり方で失敗ならば大径木の長さは分割するしかなく、その結果は水流や水圧に対する抵抗力は大幅に減じてしまうだろう。重量物の移動にはコロが使われるけれど今回はコロではなく滑り材として河床砂礫の抵抗を減じ重量物を滑りやすくする方便だ。
孟宗竹を運搬できる長さで用意して横たわった大径木の下に差し入れてから7mの長さに切断した。中折れ木なので先端部は割れや裂けがあるから2mほどは使えない。これで気持ち分だけ重さが減って、後は牽引器で据え付け場所まで引寄せるだけである。とは言え牽引器で一回に曳ける距離は10m未満なので、この距離を有効に使いながら右岸左岸の樹木を交代させながら支点として曳きを開始した。金梃子は重いので荷揚げが嫌で携行しなかったから先端の向きを変えるのもすべてが牽引器によってだったから左岸右岸それぞれ3回ほ支点として曳いたのである。これだけでは所定の位置に寄せるのは難しく、更に林内の立ち木に支点を取ってどうにか寄せる事が出来たが、この日の作業はここまでだった。更に下流側に曳きたいのだけれど使いたい支点となる立ち木まで届かず、そんなときのためのロープを用意しておらず「馬鹿ね!」てなもんや三度笠。