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村田エフェンディ滞土録 梨木香歩

本当に素晴らしい本である。映画のラストのように登場人物の「その後」が淡々と語られる部分は、読み手の心に、登場人物1人1人、場面の1つ1つをしっかりと焼き付ける。絵画をキャンバスに定着させるフィキサチーフのようなものだった。若い主人公、主人公の携わる仕事も始まったばかりの若い学問で、日本という国そのものが若く、本書全体が若さに満ちている。英国人、ドイツ人、ギリシャ人、トルコ人と過ごした短い時間のなかで、回りのものに対する感受性、日常生活のなかでこうしたものを忘れてはいけないなぁ、とつくづく感じた。本書の大きな教訓はもう1つ、異文化との交流における、アバウトであることの大切さである。「そんなものかもしれない」と全てを受け入れていく受容力、すべてはそこから始まるのかもしれない。私自身、感性も理性も年々すこしずつ柔軟さがなくなっていくような気がしていたので、大いに反省した。(「村田エフェンディ滞土録」、梨木香歩、角川文庫)
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