みずな
茅野を横切り、薄暗い杉林の中を少し歩くと、斜面の終わり辺りから水も無い、石だけの沢が始まる。
石を踏みながら下るとどこからともなく、少しずつ水が増え、川の源流となる。
その辺りから「みずな」の群生が広がる。「あおみずな」とも呼ぶが学名「やまときほこり」の地方名でもある。
鎌で刈り取ったり、根ごと引き抜く輩もいるが、私は一本ずつ鋏で根元から切り取るか、柔らかな時は爪先で摘み取る。
昔も今も、畑仕事の帰り道での楽しみだ。一抱え採るのにも時間はそんなにはかからない。
おひたしでマヨネーズ、醤油で食べる淡白な味も良いし、ツナ缶を出しに使い味噌味で煮ても美味しい。
しかし、もっとも相性が良いと思うのは塩鯨を入れた味噌汁だ。
昔は値段も安く、手頃に栄養補給できる、庶民の食べ物だった。
ところが外国に難癖を付けられたため、商業捕鯨禁止と言う情けない事になってしまい、
値段は高騰。庶民の味、食べ物とも言えなくなった。
しかし、日本に住む事になった、イギリス生まれの作家「C・Wニコル」さんも、
日本の一つの食文化として理解を示されている。
幸いな事に、「みずな」の時期と、私の誕生日と時期が一致するので誕生祝いとして、
妻が「クジラ汁」をプレゼントしてくれる。
昔、ゼンマイ小屋を掛け、何日も山中で暮らす人たちも栄養源にしたと言う「クジラ汁」は、
飲むと身体の底から力が湧くような気持ちにさえなる。
「スベルべママにはなんか塩クジラの話しになってない?」なんて言われちゃいました。