山 芋
山に秋風が吹き始めると、さて山芋が気になり落ち着かなくなる。
山芋掘りを覚えて三十年余り。この頃では病気状態で、秋の多忙極まる中で時間を何とか作っては唐鍬、
スコップ、鎌等の七つ道具を持ち、蚊取り線香を腰にさげ出かける。
人は雨降りを敬遠するが、私は他の仕事が気にならず、むしろ有難い。
ゴム合羽を着て泥にまみれ自称、山の狸となる。覚え始めは、芋の蔓さえよく分からず、
トコロと言う、別物さえ突付いていたが、今では修行の甲斐あり、
蔓と葉で概ね種類と大きさまで想像出来るようになった。そう山芋にも種類が有るのです。
そして、その違いは微妙に違う、味の違いでもある。
比較的安全な山菜採りに属する山芋掘りでも、妻には何回も心配を掛けてきた。
お昼前で止めようと、話して出掛けたが、良いポイントにぶつかって、帰りは午後二時を回る頃になった。
心配になった妻は近所のお婆さんと相談し、もう少し待って来なかったら、
警察に届けようと言う話になっていたそうだ。
その心配をしていたところへ、思わぬ収穫の多さに、意気揚々として帰って来た。
しかし、叱ろうと思った二人は、蚊取り線香を忘れ、藪蚊を追うために軍手で擦り、
泥だらけになった顔から眼だけ光らせる姿の帰還に笑いを隠せなかったのだった。
さて食べ方は、何と言ってもとろろ汁が基本。私流は出し汁には格別凝らない。
煮干だけで出汁を取り、醤油味で仕立てる。すりおろした固くて餅のような山芋を根気よく、
少しずつ延ばして、出来あがり。天と地の恵みを得て、後は塩鯖の焼き物でも有れば至福。
秋の味が満喫出来る。