
「キス釣り」
運良く、海はべた凪。仕掛けを準備し、短い船釣り用の竿でキス釣りの仕掛けをスピニングリールを使って投入する。
そして、投げ入れてリールを少し巻き上げ、道糸をピンと張らせて、
二本目の竿に仕掛けを付けて先の仕掛けとは反対方向に投げ入れる。
そして、一本目の竿の仕掛けをリールを巻きながら海底を掃いてキスの食い気を誘っていると、
ブルブルとも表現されキス独特の当たりを手元に感じる。
慣れてくると、針が三本着いた仕掛けに二匹掛った事も感覚で分かるようになる。
そして、凪で風も無く、ボートが動かないので片方の仕掛けを引く事に拠り、
もう一方の仕掛けも僅かずつ海底を引きずる事になる。
すると、片方の竿のキスを取り入れている最中にもう片方の竿先にもキスが釣れている兆候が現れるのだ。
妻や、子供達にそちらの竿を任せキスを外した竿の仕掛けに再び餌を付けて投げ込む。
こんな事を繰り返しているうちにクーラーボックスには底が見えないようにキスが投げ入れられる事になる。
浜茶屋に帰り、女将さんに釣果を尋ねられ、クーラーボックスを開けると感嘆の言葉が口を突いて出る。
「魚屋に卸したら良いよ、釣りキスは値段が良いからね」とも言う。
網漁で獲ったキスは鮮度の面で、釣りキスには敵わないのだと言う。
でも、折角の家族で釣り上げたキスを売るなんて出来ない相談。
家に持ち帰ったキスは、刺身に塩焼き、そしてフライとなって家族食卓を賑わせてくれたのだった。
(終り)