キス釣り
高校を卒業し、五年ほど経ってそろそろマイカーブームが到来し始めた頃の事だった。
小学生の時に初めて見た海でも、中々出掛ける事も出来なかったが、マイカーの普及につれ身近な存在になって来た。
そして、新聞や雑誌で見ることしか無かった「キス釣り」が気軽に出来る遊びとなる幸せを得る事となる。
初めの頃は浜茶屋からボートを借りるにしても、陽が昇り切ったお昼に近い時間帯がほとんどだった。
魚の食いがもっとも立つと言う、朝まず目、夕まず目の釣りは憧れではあっても縁が遠い話し。
その後、馴染みの浜茶屋が出来て親しく話を交わすようになった時に、ボートを借りる話しを切りだした。
浜茶屋が開店しなくても、家の裏にボートに敷く「簾の子板」と「オール」を持ち出し、
何時でも出漁できると言う夢のような幸せを実現できたのだ。
釣りのもう一つの大事な「釣り餌」も釣り好きが集う柏崎には早朝から開く釣り具屋があり、こちらの心配も全く不要。
「亭主の好きな赤烏帽子」よろしく、妻と娘二人も早朝の釣りに付き合わせることになるのにも時間はかからなかった。
ボートは基本的に定員三人だが幼い娘達は勝手に二人で一人と勝手に換算。
家族そろってまだ明けやらぬ海の沖へと漕ぎ出すことになる。
(続く)