

かつては人間だった・・・ 特殊な吸血鬼であることにも慣れ この世に異質な存在を探す旅を始めた頃 {彼}に出会った
日本人 作家だと言う 神楽龍月(かぐら りゅうげつ) 本名は守谷龍一郎
僕は彼をリューイと呼んだ
二人あちこちを旅して回った
何年も―
彼は自分の正体を詳しくは言わず
僕も時に血を飲まずにいられない共通点以外は 無理に聞き出す気もなかった
連れがいるというだけで 有難いものだったんだ
日本人離れして背が高い偉丈夫 端正な面差し
さらわれたジプシーの少女を救いだし 旅した日々
やがて僕はフランス 彼は日本へ
妻にしたい成長を待ちたい娘がいるのだと
遅れて僕は日本を訪れた
彼の美しい館は壊れ 空を龍が行く
大嵐の中 龍は何者かと 戦っていた
傷つき落ちた龍に山がのしかかる
黒銀の龍は 僕と目が合うと人形になった
リユーイ 龍一郎
「わけありで呪われた身だ あとを頼む」
彼の姿は消え 白い石が 掌の中に
僕は白い石を胸に抱いて旅を続けた
百年目
白い石は赤ん坊に形を変え 僕は思案した
このまま僕が育てるべきか
彼の故国日本を―
日本は好きな国だった 死んでしまったが尊敬する女性もいた
彼女は 限られた命でも人間として生き愛し死ぬことを選んだ
その彼女の知り合いに再会し
高崎士郎は太っ腹にも素姓の知れぬ赤ん坊を家族として受け入れた 亜貴欧(あきお)
彼が人間として生きるのか 龍一郎であった時の記憶を取り戻し 再生するのか
僕は待っていた
いつか話してやらねばならない
彼が妻にしようと思い 再会を約束し 名付けた娘 たつひ
僕は ただ待っていた 彼は僕を思い出すだろうか
金の巻き毛 緑の瞳
「やあ ミリオン」そう 呼んでくれるだろうか
僕はただ待っている