本の表紙が美しい
末原翠さんのイラスト画で デザインは野中深雪さんだそうです
表題作「獅子吼」
2頁目までは 読んでいて妻子を失った人間が語り手なのかと思います
そして読了後 この本の表紙の絵が次第に深く重く心に迫ってまいります
草原 語り手もその妻も もしかしたらその子も夢見ただろう草原
語り手は父親から「決して瞋(いか)るなー」という教えを受けてずっと守って生きてきました
その彼の咆哮は・・・・・・最期のその声は 一生にただ一度のその声はどんな響きを持っていたのか
余りなネタバレをしたくないので詳しくは書きません
生き物好きな人間であれば 猶更 苦しく哀しく辛い・・・・・そして美しさも持つ物語です
彼に銃口を向けた 真実は心深く優しい人間 撃つ彼の心も血を流し続けていたであろうし
その人間達の心までも理解し思いやる「彼」という存在
その心のありようは・・・・・
「帰り道」
昔 中学を卒業し就職する人間は「金の卵」と呼ばれた時代がありました
地方から夜行列車で東京へ就職する人も多かった時代が
NHKの朝の連続ドラマ「ひよっこ」の中にもそんな場面がありました
そんなふうに就職し 思っていた青年から 部屋を用意しているとプロポーズされて ついていけなかった女性
彼女はずうっと独りで生きて来た
だってバスを降りることができなかったから
あの時 別な選択をしていたら違う人生違う幸福があったかもしれないけれど
「九泉閣へようこそ」
8年間 腐れ縁のような付き合いの男と旅に出た女はある決意をしていた
この二人を客として九泉閣へ案内した男
その宿は 実はすっかりさびれていたのだがー
物語は急展開を見せる
この九泉閣に死体が三体
ある人間が死体遺棄を問われている
弁護士と記者は九泉閣を訪れた・・・・・
そこで何が起きたのか
「うきよご」
聞き慣れない言葉「うきよご」
婚姻していない相手との間の子供 私生児をそう呼ぶのだとか
お妾さんとの間にできた子供である青年が主人公
東大受験の為に東京へおいやられた身の上です
学生運動などが烈しい時代に割を食った形での予備校通い
彼を案じる母親違いの姉
彼が暮らすようになった場所で その優秀さから憧れを持ってみられている青年
物語の中に出てくる曲を聴きながら読めば いいかなーと思ったりしました
{花のように雪のように、享けとめきれぬバッハが降り落ちてくる}
「流離人(さすりびと)」
同じ列車に乗り合わせた老人から聞いた戦争中の話
赴任地へ向かう彼がいくたびとなく出会った桜井中佐と名乗る人物のこと
彼は言ったという「戦争が終わるまでは迷子になっておれ」
それは「死ぬなよ 生きのびろ」と言うことだ
その言葉通りに生きた男は老人となった そして今も生きている
戦争で生きのびるには 運もおおいにあると私は思っている
ただ当人が死ぬまいと思っても まずそういう選択はできない
自分の意志だけでは生き抜けない
私の父は駆逐艦に乗っておりましたが 少し胸に影があるから検査を受けるようにと言われて 陸に上がって病院にいる時に
それまで乗っていた艦は沈みました
その父が新兵時代に「よく当たる易者がいる」という話を人から聞いて 仲の良い人間と三人でその場所を訪ねみてもらったことがあったそうです
一人の人間をみた時に易者は何も言わず
その人は 本当にそれから間もなく戦死したそうです
父は「易者も何も言えなかったんだろう」と言っておりました
そして父には「無事に帰り 子も孫もできる(それまで長生きできる)」なんてことを はっきりと言ったそうです
だから父は戦争に行っても自分が死ぬとは思っていなかったと
生と死は紙一重ーなのだと思います
「ブルー・ブルー・スカイ」
大通りのカジノで丸裸にされた日本人の男
大負けして 気紛れのように入ったうらぶれた店のマシン
そこで何故か大当たり!!!!
店主はあちこちに電話してこの客に払う大金を取りに出掛けた
客の男は店で待っていると やってきた男は強盗だった
この強盗男も冴えない人生を送ってきて とにかく金に困っている
仲の良い友が転校していく時に「ここは盗み放題の宝島」と教えてくれた店にやってきていた少年も こっそり居合わせていた
強盗男は客の男に届くはずの大金を待つことにする
さあ そして
大金当てた日本人の客の男
少年
強盗男
彼等には奇妙なシンパシーが・・・・・・・・
おいおい大丈夫か お前達ーと常識人なら声をかけたくなるような
そんなことあるかい!
いやまあ あるかもしれないねえ
読み手によって 様々な感想が持てそうです
解説は俳優で歌手の吉川晃司さん