夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「よたばなし」-12-

2019-05-19 19:34:26 | 自作の小説
ー振袖異聞ー


どうして僕が巻き込まれたか
嫌がっていたのにね

それは上品寿(かみしな ひさし)の数えきれないほど幾度目かの「本気の恋」のせいだ

フーテンの寅さんも呆れるくらい惚れっぽい上品
その上品の惚れた相手が噂の振袖を手にしてからおかしくなった


満更僕も知らない学生でもない

何故か木面衣都子(きづら いとこ)先輩になついていてよく研究室へも遊びに来ていた

「あの可愛さ 運命やないか」と上品が言う
僕はこの台詞をそのたび違う相手で20回は聞いているような気がする

大野莉子(おおの りこ)さん
真面目な学生だったと思う

「感動無い男やな あんた感受性捨ててきたんやないか
めっちゃ可愛いコやないかいな」

きっとその僕が捨てたかもしれん感受性を上品は拾い集めたのかもしれない

少し前から大野莉子は大学に来なくなった
心配した友人が部屋を訪ねるとーうっとりと広げた振袖を眺めていたと言う

古着屋で見つけた宝物だと大野莉子は答えたそうだ


その様子がどうにも気味悪く 友人の娘は早々に引き上げた

だが
今度は 大野莉子が居なくなったという


上品は大騒ぎだが 

幾らなんでも どうにもできない

僕はそう思っていた・・・・・



これは誰の夢の中だろう

ああ 大野さんだ
振袖を着ている
随分 昔風の柄行だな

本振袖なのも珍しい

似合っているけど 僕の知る大野さんとは違うような


ああ 化粧が濃いのか

赤い唇

その口の片端がにいぃぃっと持ち上がる

ーようやっと来てくれた 随分 随分 待ちました・・・・・・-



ー振袖狂乱ー

仕官する気もなく 仕官できるあてもなく どうにか用心棒もどきなどをつとめるくらいの腕はある
いつかは野垂れ死ぬのだろう

それも一興ーなどと醒めた気持ちが主膳にはある

気紛れで助けた娘の一生になど そこまで関われるとも思いはせぬが・・・・・
小さな謎が胸の奥でしこる
あの娘に何があったのだ


見ィつけた
そんな声が聞こえた気がした

不意にーあの娘が目の前にいた

赤いーいっそ禍々しいほどに赤い色 緋の着物
黒地の帯

「お捜ししておりました」
と おしずは言った


これがあのおしずなのだろうか

玉虫色の紅
目元も紅をさしたか

男を誘う淫らな女の表情

「まだ きちんとお礼を言っておりませぬ」

おしずは一気に距離を縮めてきた
こちらの指を掴み 己の喉元に寄せる

「どうか どうか 察して下さいませ」


「手折った花はすぐ枯れる 元の枝で咲いているがいい」
手を振りほどき背を向けた


「恰好つけるんじゃないよ 痩せ浪人 有難く据え膳頂けばいいじゃないか」
おしずの口調が蓮っ葉で伝法なものに変わった
「手つかずの柔らかな肌の上等な生娘の体は気に入らないかい」


「お前・・・何モノだ 何故この娘に憑いている」


ーおや こわいこと とんだ眼力
おお こわ・・・・・
あたしゃ この純な娘の願いを叶えてあげたい そう思っただけですよ

あたしは想いに憑くんです

もう一度会いたい 逢いたい お逢いしたいとお前さんに助けられてからずうっとそればかし思いつめて
いじらしいったら

この娘に何の不服があるんですー


「もれなく お前もついてくるーのではな」


ーお生憎 あたしゃ この娘が気に入ったんですー




木下昌輝著「天下一の軽口男」 (幻冬舎時代小説文庫)

2019-05-19 14:01:55 | 本と雑誌
天下一の軽口男 (幻冬舎時代小説文庫)
木下 昌輝
幻冬舎


「わしはな 笑いで人を救いたいんや」
初代 安愚楽庵策伝は言った・・・
「-仏の教えでは切支丹を救うことはでけへん

切支丹の教えもまた 仏法の徒を救うことはでけへん

けど 笑いは違う
仏法の徒も切支丹も関係ない
おもろいこというたら みな等しく笑う

わしはな 笑いで人を救いたいんや
日々の暮らしに疲れた民の顔に ほんの一時かもしれへんけど 笑いという花を咲かせたい
そうすることで苦しみや痛みを
しばし忘れてもらうんや」

笑いで人を救いたいと願った男がいた
太閤ー豊臣秀吉を笑わせたとして天下一のお伽衆の名を取った男

その名声を聞き付け 抱えたいと申し出る大名たちは男の本さえ読んだことがない
失意の男には押しかけの弟子がいた

師から二代目の名をもらった男には しかし面白い話をうまく話す技術に欠けていた

子供ながら こんなふうに話した方が笑ってもらえる

そう言ったのが彦八
漬物屋のせがれ

幼馴染みの女の子を心の底から笑わせたい
そんな夢を持つようになる男


女の子の家は商売に失敗し夜逃げ


いつか会える 見つけてみせると

江戸へ 大坂へ

人を笑わせる
面白い話を話す



けれど人は意地が悪い

彦八をつぶそうとする人間もいる

いつか 最高の舞台であのコに笑ってもらうんや

実に数奇な人生を描いた一冊

2019年2月 大阪松竹座で舞台化ーと本の帯にあります
彦八を演じるのは駿河太郎さん

笑福亭鶴瓶氏の息子さんです


著者と駿河さんの対談も収録されているのですが

小学五年生の時に駿河さんが新聞の取材に「落語家になりたい」と答えたらー
鶴瓶さん「お前だけは絶対落語家にさせへんからな!」

今回の舞台で「天下一の軽口男 笑いの神さん 米沢彦八」の彦八を演じると決まって

駿河「見てみぃ 子供の頃の俺を叱った罰や」
鶴瓶「せやなあ」

なんて会話もあったのだとか

懐かしいお店

2019-05-19 13:51:37 | 子供のこと身辺雑記
ちょっとした用事で午前中 長男と出掛けお昼まで済ませて帰宅









指折っても足りない行きだしてから35年くらいかになる喫茶店
だから長男の事も赤ちゃんの頃から知っていて 話しかけて下さる

お孫さんが長男と同じ学校だったこともあり親しみを持って下さっているようで

昭和からのご夫婦でなさっている小さな喫茶店

お元気でいて下さると 何故かほっとするのです



週末 雨の予報を当てにして昨日は水撒きをさぼったけれど 降りそうになく諦めて水撒きして室寧へと入ったら・・・・
曇って少し風も出てきました

やっと降る気になったのかもしれません