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ソウの暮らす下宿屋の大家さんはウンジュと言う女性。
面倒見が良く、まだ若いのに下宿人の母親と言った雰囲気を持っています。
実は、下宿人の一人チャンソプと密かに付き合っています。チャンソプはソウの友人で、ソウの紹介でこの下宿に入った経緯がありました。
2人の交際を知ってるのは、ソウだけです。
公表すればいいのに・・・とソウは言いますが、年上のウンジュは躊躇っています。
でもある日、下宿人のスジが気づいちゃった。
下宿の前の道に一つの椅子が置かれています。
古びていて、ウンジュが修理をしながら大切に使っています。長い坂道を上がってきて、ちょっと一休みするには、丁度よいモノでした。
ソウはある日、雨宿りに入った建物で、ハウォンの正体を知りました。AHが入るビルだったのです。
IT関連企業AHのCMが流れ、それにキム・フンの姿が写っているのを見ました。
あるプロジェクトのCMでした。
AIとビッグデータ、遺伝子と医学を結び付け、ネットワークに個人史を蓄積し病気を診断するプログラムなんだとか。
ハウォンはただのハウォンではなく、その業界では有名なムン・ハウォンだと分かりました。
あの韓屋で話しかけてきた姿の見えない相手は、この開発されたAIだと。ハウォンの声と個人史を持つAIだと。
ハウォンがジスの声を欲しがった理由がここにあるとソウは気が付きました。
呆然と立ち尽くすソウの姿を、ハウォンが見かけました。
傘を差し掛けました。
「これって・・・、私に“探して”と言ったのは、あなたの声で話す機械だったってこと?」
と、ソウは挨拶抜きで興奮して言いました。
ジスさんの声も使うのね・・・と。
ハウォンはソウを家に連れて行きました。自宅ではなく、ジスしか知らなかったあの家です。
ガスすら引いていない家です。
ソウの前にAIを置きました。
ソウがおずおずと声をかけると、ジスの声で機械が話し始めました。しかし、この時点ではまだ単なる機械です。
「彼女の人生をデータ化して声を載せれば、本当のジスと会話ができるんですか?」
と、ソウが聞きました。
ハウォンは、ソウに聞きました。最後にジスと何を話したのか。
ソウは、ジスとのことを話しました。しかし、“怖い”と言ったことは話しませんでした。
気が晴れて、不安も消えたとノルウェーからの電話で言っていたと言いました。あなたと歩いた道だ・・・と。
もし、自分とジスが会っていたとしたら、何を話したと思いますか?とハウォンが聞きました。
そうだったとしたら、ジスはノルウェーに行かなかったかも・・・とソウは思いました。
でも、そうは言えません。ハウォンを苦しませるだけですから。
だから、お皿の話をしたでしょう・・・と言いました。
どんな料理を乗せているのか、自慢とか・・・。
「そして、あなたと私が出会えたことに感謝した筈です。」
ソウは、ジスは幸せを感じたままで亡くなった筈だとハウォンに言いたかったのでしょう。
決して、恐怖や不安を感じたりしていたとは言えないと思いました。
ソウはジスの声で話すAIを預かりました。
良いことだけを話しかけたいと、ソウは楽しいエピソードを探す様になりました。
思い出しました。ジスから貰った鉢植えを、スタジオに置きっぱなしにしていたことを。
慌てて取りに行きました。
ユーカリの鉢植えでした。
そして、ジスの書いたメモが一枚。夕暮れの風景を写した写真でした。
“2012年のミシリョンです。大事にしてください”
ここがどこか分かりますか?と、ハウォンが一枚の写真を添付したメールを送って来ました。
それは、ソウの下宿の前の坂道で撮った写真でした。
初めてジスに会った時に撮ったモノだったと思われました。
あの日、ジスはお皿を抱えてその坂道を登って来ました。ソウとジスの出会いの時でした。
やってきたハウォンは、正確な撮影位置を探そうとしました。
単にこの場所と言うだけじゃなく、どの位置からどうやって撮影したのかまで知ろうとしたのです。
他にも、その時の服装がどうだったのかまでソウに質問しました。本当に細かい事まで知ろうとしました。
呆れたような表情をしたソウに言いました。
「恋しいから。」
当たり前のように、さらっと。
長い時間、ジスがしたように坂道を眺めるハウォン。
その後ろ姿を、あの椅子に座ってソウは見つめました。
“ジスさん、この人はあなたの全てを知りたいそうです。恋しい、愛してる、好きだ。そのすべてを含むこの人だけの言葉。知りたい”
と、ソウはAIに話しました。
ソウはそれからもAIにジスの性格、行動をインプットしました。
ハウォンから聞いた思い出も。
思い出を語る時、ハウォンの表情は穏やかで幸せそうでした。
ジスのことを思い出し、ジスへの想いで心が一杯になっている、そんな感じでした。
ジスさんだけに話すわ・・・とソウがAIに話しかけました。
「あの人を見てる事が好きなの。ジスさんがいた場所で、ジスさんが聞いたものを聞き、感じたものを感じたがる姿を見てることが好き。ジスさんを想う姿から目が離せないの。これは何なの」
“片思いね”
と、AIが言いました。
ソウ、驚き、混乱しました。
“片思い”と指摘されたこともですが、AIが偶然部屋に入って来たスノとの会話にも加わって来たからです。自らの意思で話をしたからです。
慌ててハウォンに知らせました。
ハウォンは、このAIを目覚めさせる反応点を探るためにソウに貸していたようです。
想像以上に早く反応点が見つかりそうで、ハウォンは気がはやりました。
「これはキム・ジスの人格をコピーしたAIだ。キム・ジス本人じゃない。精神科の診察や認知症の予防、望んだ相手といつでも話せる医療機器なんだ。」
と、ハウォンは言いました。
これは誰のためのものですか?とソウが聞きました。
「まだテストなんだ。でも、俺はこれで癒される。」
と、一瞬躊躇したのち、ハウォンが言いました。
どこで反応した?とハウォン。
スタジオで・・・と話し始めたソウですが、まさか“片思い”の事は口に出来ません。
「電気生理学の理論で、決定的な一つの要素が全てを呼び覚ます。会話の中のきっかけで、反応点と呼んでる。会話の内容が分かれば、見当がつく。」
ソウは、あれこれ話したからな・・・と誤魔化そうとしました。
すると、具体的に・・・とハウォンが食い下がりました。
「私の内面的なことだから、詳しくは話せません。」
と、ソウは言いました。
ハウォンはプライバシーに配慮しながらも、あれこれと質問しました。
どうしてそこまで反応点を知りたいのかと、ソウが聞きました。
「俺かと思って。俺はジスが反応点だった。」
期待しているのでしょうね、ハウォンは。
もし、反応点が自分だと分かったら、忘れられますか?とソウが聞きました。
「何故忘れる必要が?」
と、ハウォンはソウを真っ直ぐに見つめて言いました。
AIはハウォンが話しかけても、全く反応しません。
見かねたソウが、話しかけました。
反応しました。
“ソウさん一人?ユーカリは大丈夫そう?”
ソウとAIは他愛もない話を始めました。
ハウォンは物音をたてずに黙ってその会話を聞いていました。
AIは、ソウから聞いた両親が山火事で亡くなった話をし始めました。その話で自分は慰められたと。
「ハウォンさんと、話してみる?」
と、ソウがAIに聞きました。
AIが一瞬沈黙しました。
ハウォンは期待を込めた目で見つめていました。