OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

天才の爽やかさ

2006-06-05 17:47:38 | Weblog

連日、様々な事件が発生し、報道されるわけですが、最近またまたマスコミの嫌らしさが目立つような気がしています。

あんたら、何様のつもりだい?

思わず尋ねてみたくなる演出が多いですねぇ……。他人の不幸に嬉々としている奴等を見ると、あぁ、私はあんな商売で無くて良かった、とツクヅク思うのでした。

もちろん他人の不幸でお金を儲けることは、法律に抵触しなけば悪いことでは無いし、「報道」だって立派な金儲けです。

でも「報道」とか「知る権利」とかの大義名分を振りかざし、はしゃいで結果論ばかり言い募る今の「報道」には、私などは胸が悪くなります。「報道」だって、所詮は「金儲け」ですから……。

ということで、本日は爽やかな1枚を――

The Return Of Art Pepper (Jazz West)

アメリカ西海岸派で最高のアドリブ名人と言えば、アート・ペッパーだと私は断言します。特に1950年代に残された作品は、いずれもが世界遺産!

しかしジャス史上でウェストコースト・ジャズが全盛を極めていた1955~1956年中頃まで、皮肉にもアート・ペッパーは一切の活動が出来ませんでした。それは麻薬で逮捕され、刑務所に収監されていたからです。

こういうアート・ペッパーの悪癖と犯罪は、ファンからみれば全く残念の極みなんですが、本人しか決められないのが人の生き方ですし、もちろん人生に答なんかありません。

このアルバムはアート・ペッパーがそんなムショ暮らしを終えて社会復帰した直後の1956年8月に録音されたもので、メンバーはアート・ペッパー(as)、ジャック・シェルドン(tp)、ラス・フリーマン(p)、ルロイ・ビネガー(b)、シェリー・マン(ds) という、当時の西海岸ではバリバリの精鋭達です――

A-1 Pepper Returns
 最初から、如何にもウエストコースト・ジャズらしい絡みが鮮やかなアップテンポ曲です。コード進行は多分「Lover, Come Back To Me」だと思われますが、するとタイトルも秀逸ですねぇ♪ もちろん作曲はアート・ペッパーです。
 肝心の演奏は颯爽としたテーマからアート・ペッパーの鋭いブレイク、そしてスピード感と「間」の芸術がいっぱいのアドリブに圧倒されます。もちろん「泣き」を含んだ歌心も素晴らしいですねぇ~!
 そして続くジャック・シェルドンも必死の熱演、さらにアート・ペッパーと2人連れでシェリー・マンとのソロ交換がクライマックスで、そのまんま、爽快なラストテーマに雪崩込んでいくあたりは、鳥肌もんです。

A-2 Broadway
 ジャズでは定番のスタンダード曲を軽やかに演奏していますが、アート・ペッパーのアドリブには独自の愁いがたっぷり詰まっているので、ジャズ者は頭を垂れるのみです。共演者のプレイも素晴らしいのですが、アート・ペッパーの前では凡演に聴こえてしまうという……。

A-3 You Go To My Head
 これもお馴染みのスタンダードをスローな展開でジックリと聴かせてくれるアート・ペッパーの一人舞台♪ この繊細な表現力は天才の証明ですし、リズム隊を逆に引張る黒っぽいノリには驚愕させられます。もちろん2分29秒目あたりからのスパイラルなフレーズは最高に素敵! 泣いてばかりもいられない、そんな感動が残ります。

A-4 Angel Wings
 ここから最後までは全てアート・ペッパーのオリジナル曲が続きます。
 で、この曲はウエストコーストでなければ生み出せないという軽快なメロディとノリがあり、それはアドリブパートでも変わりません。
 アート・ペッパーはもちろん快調ですが、ラス・フリーマンのピアノが本領発揮の大健闘です。

A-5 Funny Blues
 タイトルどおりにオトボケ調のブルースですが、こういうノリは白人しか出せないものかもしれません。しかし全体がダレないのは、黒人ベーシストのルロイ・ビネガーの存在ゆえで、完全に我が道を行くウォーキングには脱帽です。
 アート・ペッパーもそのあたりの意図を察してタメのあるフレーズで勝負していますし、十八番のスパイラルなペッパー節には心トキメキます。
 ジャック・シェルドンの芝居気たっぷりの演奏も憎めませんし、ラス・フリーマンの気取りすぎの自意識過剰にも、逆にホノボノさせられます♪ 

B-1 Five More
 これもブルースで、西海岸ハードバップという雰囲気なので、アート・ペッパーのアドリブ1発にかける凄まじい意気込みが堪能出来ます。リズム隊も黒い雰囲気を醸し出しており、特にラス・フリーマンはホレス・シルバーっぽいノリで暴れています。
 そしてクライマックスでのアート・ペッパーとジャック・シェルドンのソロ交換が痛快で、何とジャック・シェルドンは部分的にマイルス・デイビスになっていますよ♪

B-2 Minority
 この一抹の哀愁が漂うアート・ペッパーのオリジナルこそ、日本人、そして全てのファンが大好きなものに違いありません。当然、アート・ペッパーもその期待に100%応えてくれるのですから、悶絶するしかありません。あぁ、この泣き!

B-3 Patricia
 これまた愁い満ちたバラード演奏♪ シミジミとした情感を畢生の美に変換していくアート・ペッパーは真の天才です。傾聴するより他はありません……。

B-4 Mambo De La Pinta
 一転して明るさいっぱいのラテン・ジャズが始まります。なにより素晴らしいのは演奏者達が楽しんでいる雰囲気が伝わってくることです。
 こういうリズムと曲調はアート・ペッパーが得意とするところですが、ここでは案外にエキセントリックなフレーズを吹いているので、イマイチ和めません。狙ったんでしょうか……? リズム隊も安易に流れず、硬派なビートを送り出しているのでした。

B-5 Walkin' Out Blues
 そして最後は、アート・ペッパーとルロイ・ビネガーの硬派なドュオにドラムスとピアノが恐る恐る加わってくるという、緊張感たっぷりのブルースです。
 テンポは速めなんですが、アート・ペッパーのアルトサックスからは何とも言えない粘りとか黒っぽさが放出されていきます。あぁ、この緊張感、この恐ろしさ! ここまで来ると相方のジャック・シェルドンは、失礼ながら役不足……。リズム隊も健闘していますが、アート・ペッパーの前では引立て役なのでした。

ということで、これはアート・ペッパーを聴くしか無い作品です。つまり残念ながら共演者と主役の間に天才という壁があるのです。もちろん誰一人、手を抜いている者はいませんが、ジャズという閃きの世界では、そういう天才が尚一層輝いてしまうのですねぇ……。

ですから私はアート・ペッパーを素直に楽しみたい時、これを聴くことにしています。モダンジャズでは避けて通れないチャーリー・パーカー(as) のフレーズをほとんど使わないで自己表現出来るアルトサックス奏者は、それだけで天才ですが、パーカー派のプレイヤーは数多存在しても、ペッパー派は何処に? というあたりに、ますます唯一無二の天才性があるのかもしれません。

コメント (2)
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