いよいよ明日は奇跡が起こるか? もちろんW杯のブラジル戦です。
今回の大会での日本チーム、なんだかんだといっても、こう成績が上がらないと、内部もギクシャクしていると思うんですが、とにかく頑張ってもらうしかありません。勝敗よりも、応援している国民を納得させる生き様を示してほしいもんです。
ということで、本日は人望について様々に思う、この1枚を――
■Six Pieces Of Silver / Horace Silver (Blue Note)
仕事の能力が抜群で人望もある、こういう人は幸せです。
もちろん私なんか、及ぶべく範疇ではないし、現実に、こういう人には、なかなか出会えないものです。
ジャズ界ではホレス・シルバーが、そういう人かもしれません。
なにしろ、アート・ブレイキー(ds) と共同運営のような形だったジャズ・メッセンジャーズから独立する際に、アート・ブレイキー以外のバンド・メンバーを全員引き連れていくという、物凄いことをやっています。
もちろん、プロの世界ですから、ギャラの絡みもあったかもしれませんが、私はホレス・シルバーの人望が大きく関与しているんじゃなかろうか……、と妄想しています。
このアルバムは、そうした当時、改めてブルーノート・レベールと契約して発売された最初の作品で、録音は1956年11月10日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ホレス・シルバー(p)、ダグ・ワトキンス(b)、ルイ・ヘイズ(ds) という、つまりドラマーがアート・ブレイキーではないジャズ・メッセンジャーズ!
収録曲は最後の1曲を除いて全てホレス・シルバーのオリジナルで固めています――
A-1 Cool Eyes
如何にもホレス・シルバーらしい勢いのハードバップです。それはビバップ本流のギクシャクしたメロディラインに拘りながも、ちゃんとホレス・シルバーの「節」があるので、テーマだけで楽しくなるというわけです♪
肝心のアドリブパートでは、まず先発のハンク・モブレーが持ち味のタメのあるノリと温かくて黒~いフレーズを積み重ね、聴き手をゴキゲンにさせてくれます♪
そしてセカンドリフを挟んで登場するのが、当時、昇り調子の若手だったドナルド・バードの溌剌としたトランペット! これが、また、最高です♪
さらに本当の聴きどころが、いよいよ登場するホレス・シルバーのピアノです。当時の主流だったバド・パウエル(p) でもセロニアス・モンク(p) でもない、まったく独自の跳ねるようなシンコペーションが強烈に印象的! それはリズム的な興奮に他なりません。
こうして演奏はモダンジャズ的な快感に溢れたラストテーマに突入するのですが、最後はゴスペル味の大サービスがついています♪
A-2 Shirl
ホーン陣が抜けたピアノ・トリオの演奏で、一抹の寂しさが漂うスロー曲です。こういうテンポのものは、あまり評価されないホレス・シルバーですが、私は聴いているうちに不思議と虚無的な悲しみに包まれるような、ネクラ気分に浸ってしまうので、嫌いではありません。
A-3 Camouflage
ゴスペル味全開のファンキー・ハードバップですが、仄かなラテン味が絶妙のスパイスになっているようです。
アドリブパートではハンク・モブレーが随所に仕掛けられたブレイクを活かしつつ、マイペースでソロを展開して飽きさせません。もちろん続くホレス・シルバーは十八番のリズミックな部分を強く打ち出していますし、ドナルド・バードは歌心優先に撤しているのですから、素晴らしい演奏なのは言わずもがなです。
A-4 Enchantment
変則ラテンビートに彩られた魅惑の名曲です。全篇を貫くエキゾチックな雰囲気は本当に最高ですが、ハンク・モブレーはそれに浸りきることなく、あくまでもハードバップで行こうとする、その鬩ぎ合いが静かな熱気になっています。
それはドナルド・バードも同様で、仕掛けられたハーモニーの罠に陥ることなく、じっくりと勝負しているようです。
おまけに曲の展開には魅力的なセカンドリフ、ルス・ヘイズのマレットによるドラムスのアクセントが用意されており、いよいよ登場するホレス・シルバーは全てを読みきったアドリブで演奏を完遂させるのでした。
もちろんラストテーマはハーモニーが拡大され、素敵なテーマがますます魅力を増していくという、魔法のような演奏です。ズバリ、名曲・名演!
B-1 Senor Blues
お待たせしました、シングル盤としてもヒットしたバンドの代名詞ともいうべき人気曲です。
もちろんタイトルから推察出来るとおり、ラテンビートを使った哀愁のブルースですが、本音を言うと、私はあまり好きではありません。ちょっとヌルイというか……。
ドナルド・バードは思わせぶりばかりですし、ハンク・モブレーもイマイチ、煮えきりません。しかしリズム隊がなかなかグルーヴィなのでダレないというところでしょうか……。
主役のホレス・シルバーはブルースではお約束のフレーズを用いてシンプルに盛り上げていますが、それが正解の解釈かもしれません。つまり考えすぎてはダメということ?
B-2 Vergo
おぉ、これぞホレス・シルバーというカッコ良いハードバップです♪
このスピート感とグルーヴィなリズム隊の煽り! ドナルド・バードが素直にノセられた大ハッスルすれば、ハンク・モブレーは俺に任せろっ! という白熱のモブレー節を大盤振る舞いです♪
こうなるとホレス・シルバーも飛んだり跳ねたりという得意技の出しまくり! ドラムスとのコンビネーションも良く、何処までも突進していく演奏になっています。
そして最後はルイ・ヘイズのドラムスが見せ場を作り、ビバップ本流のテーマに戻るあたりは、ゾクゾクするのでした。
B-3 For Heaven's Sake
アルバムの締めくくりは、唯一のスタンダード曲がピアノ・トリオで演奏されています。
ここではダク・ワトキンスのベースが全体を引き締めているので、ホレス・シルバーも甘さに流れることが許されていません。そして最後には、ちょいとしたお遊びがあって、如何にもという余韻が残るのでした。
ということで、これは気心の知れたメンバーで作られた楽しく、和みのあるアルバムです。名盤ガイド本にも紹介されることが多いのですが、それにしてもジャケットに写るホレス・シルバーの寂寥感はどうしたもんでしょうか? 内容的には、もっと楽しそうなジャケットでも良かったと思うのですが、やはりアート・ブレイキーと別れた際のゴタゴタを気にしていたのでしょうか……。リーダーのつらさ、みたいなものが感じられます。
ホレス・シルバーはこのセッションから「Senor Blues」という、後にはボーカル・バージョンまで作るヒットを出して、ブルーノートの看板スタアになっていきます。もちろんバンド・メンバーも少しずつ変わっていくのですが、ジャズがロックに押されてしまう時代になっても、バンドを維持していけたのは、音楽的才能に加えてリーダーとしての資質や人望が大きかったと思われます。
一方、アート・ブレイキーは一緒に旗揚げした仲間に去られた後、若手中心でジャズ・メッセンジャーズを再編成し、自分の人生の最後までリーダーであり続けました。ですから、この人もまた、リーダーの資質は充分にあったわけですが、それならば何故、お家騒動とも受け取れるバンド分裂騒ぎでメンバー全員が出て行ってしまったのか、今となっては永遠の謎です。
ちなみにハンク・モブレーだけは、後にジャズ・メッセンジャーズに一時復帰していますが、そこがまた、ハンク・モブレーの愛すべきところだと思います♪